カルチャー

波木銅は『ほえる犬は噛まない』のオフビートなユーモアに痺れた。

今日はこんな映画を観ようかな。vol.31

2026年8月15日

illustration: Dean Aizawa
text: Keisuke Kagiwada
edit: Togo Uchida

毎週、1人のゲストがオリジナリティ溢れる視点を通して、好きな映画について語り明かす連載企画「今日はこんな映画を観ようかな。」。今回は映画化もされた『万事快調〈オール・グリーンズ〉』などで知られる小説家の波木銅さんが、ポン・ジュノ監督の『ほえる犬は噛まない』を紹介してくれた。


今日の映画
『ほえる犬は噛まない』
(ポン・ジュノ監督、2000年)

『ほえる犬は嚙まない』Blu-ray発売中
(C)2013 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED
発売・販売:TCエンタテインメント
提供:ビターズ・エンド

『パラサイト 半地下の家族』などで知られるポン・ジュノ監督の長編デビュー作。大学教授を夢見る男と管理事務所の女子職員が、団地内で相次ぐ犬の失踪事件を解決しようと奔走するコメディ。


ポン・ジュノ監督の長編デビュー作『ほえる犬は噛まない』を、TSUTAYAでレンタルして観たのは、高校生の頃でした。

ある団地でペットの犬が立て続けに消える事件が起こり、そこにいろんな人の人生がちょっとずつ絡み合っていくという話です。劇的な展開があるわけでも、誰かの人生が一発逆転するわけでもないのですが、変なことが次々と重なって、最終的に登場人物がほんの少しだけ人生を前に進めるようなきっかけをつかむ。その中に、心地よい笑いやカラッとしたユーモアも盛り込まれるストーリー運びの手際が秀逸で、その後の作品にも通じるポン・ジュノらしいオフビート感が既にこのデビュー作には感じられます。

例えば、ペ・ドゥナ演じる主人公の友人が、酔っ払って車のサイドミラーに飛び蹴りをかまし、破壊されたミラーを持ち帰ったペ・ドゥナがそれを大事そうに抱きかかえながらベッドで眠るんですよ(笑)。ポン・ジュノ映画ってどこかに必ず飛び蹴りシーンが出てくる印象があるんですが、あれは何なんでしょうね。

大学教授を目指す冴えない男が、妻に「近くのコンビニまで買い出しに行って」と言われて「いや、100メートル以上離れてる」とムキになって証明しようとするシーンも大好きです。大股で歩いたり、100メートル分のトイレットペーパーをコロコロ転がして「ほら届かないだろ!」なんて意地を張る姿は、傍から見るとバカバカしいけれど、「もしかするとこういうやりとりは起こりうるかも」と思わせてもくれる絶妙さが素晴らしい。

それから、原題は『フランダースの犬』を意味する韓国語で、だからなんでしょうけど、エンドロールではパンクアレンジされた『フランダースの犬』のテーマソングが流れるんですよ(笑)。緻密なメインプロットというより、こうした細やかなディテールの積み重ねこそが、『ほえる犬は噛まない』の魅力を形作っているのだと思います。

『グエムル-漢江の怪物-』なんかと比べると衝撃度や鑑賞後に「おお!」ってなる感じはありませんが、だからこそ何度も観返せて、噛めば噛めむほど味が出る。実際、今でも執筆中に、この映画を自宅で流すことがあります。初見の作品だと意識が持っていかれてしまいますが、展開を知り尽くしている本作は、執筆の心地よいリズムになってくれるんです。

語ってくれた人

波木銅は『ほえる犬は噛まない』のオフビートなユーモアに痺れた。

波木銅

なみき・どう|1999年、茨城県生まれ。大学在学中の2021年、『万事快調〈オール・グリ―ンズ〉』で第28回松本清張賞を受賞しデビュー。他の著作に『ニュー・サバービア』『順風満帆〈クラウド・ナイン〉』がある。

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