TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】大阪/2DK/57m2/家賃5.5万円で暮らした記憶

執筆:ヤマザキOKコンピュータ

2026年9月23日

思い返すと、福岡では日々の暮らし、沖縄では人との関わりをテーマに探求してきた。
大阪ではもう少し広範な、都市や社会に焦点を当てていきたい。

具体的に言えば、時代と共に変化していく市場の形や、そこで働く人々の労働観。新たな自著の内容を構想する中で、このあたりの解像度を上げていきたいと考えていた。

借りたのは、阿倍野区の商店街の裏手にたたずむ築100年超の一軒家。
大正時代に建てられたと推測されるオーソドックスな大阪長屋で、間口2間×奥行6間(幅3.64m×奥行10.92m)の二階建て。
風呂やトイレはあとから増築されており、小さなお庭もついている。

大阪滞在中は商店街に密着し、取材と執筆に集中するべく、ひとり静かに暮らすつもりだった。しかし、大阪は天下の台所。全国の物産が集まって捌ける集散地である。人も物も、留まることなく行き交う街だ。
日本国内のみならず、東アジアから西ヨーロッパまで、様々な国と地域から友だちが泊まりに来てくれた。

オーストリアのパンクバンドSzene Putznが泊まりに来たときは、
「Most beautiful house in Japan」
という言葉を残していった。

多少改装しているとはいえ、歪み傾いたボロハウス。
ビューティフルと言い難いような気もするが、庭でのらねこが子育てしたり、いたちが棲みついた時期もある。私にとっても皆にとっても、居心地の良い家ではあったらしい。
そして阿倍野の街も、この家に負けず劣らず、素晴らしかった。

近所の寿司屋は、1人前を注文すると「おまけや」と巻物を添えてくれた上、帰り際に「作りすぎた」と言って持ち帰り用の寿司を持たせてくれた。

和菓子屋の店主にいざなわれ、藤井聡太さんの八冠が掛かった大勝負をテレビで見守った日もあった。

老舗のパジャマ屋さんでは私が最後の客となり、まるで心でハグしているような気持ちで感謝を伝え合い、店のシャッターが閉まる最後の瞬間を見届けることになった。

最後の冬、私はパジャマ屋で買った肌着に腹巻きを重ねて、ストーブで餅を焼きまくった。
ゴミ出しついでにご近所さんに話しかけ、今週の天気や近所のニュースを教えてもらう。
阿倍野で暮らした日々の思い出は、まるで映画のように美しい。
自分にとって、ある種の正解が出た気持ち。

それでもなお、私は引っ越し続ける。

大阪で一冊の本を書き上げると、次の街へ移動する準備を始めた。
何か不満があったわけではなく、身体が勝手に動いた感じ。まるでマグロやカツオのような、止まれない身体になってしまった。
こういうときは素直に従って、流れに身を任せることにしている。

大阪の次は神戸の街。
正解以上の何かを求めて、六甲山の麓に降り立った。

プロフィール

ヤマザキOKコンピュータ

やまざき・おーけー・こんぴゅーた|1988年、埼玉県生まれ。文筆家、投資家、バンドマン。地下のカルチャーや金融の世界など、異なる領域を横断しながらオルタナティブな価値観を探求中。現在は神戸を拠点に、出版社〈穴書〉の代表と雑用を務める。著書に『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』(タバブックス)『お金信仰さようなら』(穴書)がある。

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