TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#2】沖縄/1DK/34m2/家賃3.3万円で暮らした記憶

執筆:ヤマザキOKコンピュータ

2026年9月16日

福岡を離れる直前の朝、大きなブリをまるまる一尾買ってきて、友だちと4人でさばいて食べた。
この2年でずいぶん多くの体験をした。陶芸家の友達の窯で自家製のパンを焼いてみたり、海水から塩を作ったりもした。大袈裟に言えば文明を遡ってやり直したような、妙な達成感がそこにはあった。

そんなある日、沖縄でオルタナティブスペースを運営している友達から「沖縄に引っ越して、運営メンバーとして一緒にやらない?」というメッセージが送られてきた。

オルタナティブスペースというのは、資本主義とは別の仕組みで動く、ざっくり言えば営利を第一目的としない場所。展示、演奏、ワークショップ、避難所や共同生活、その他イベントの開催など、様々な目的を持って運営される。

ちょうど自著が書き終わって、新しい暮らしに切り替えようと思っていたところだったので、すぐに引っ越しの段取りを組む。
沖縄への引越しは難度が高い。内見をするにも、物を送るにもコストがかかるし、時間も使う。できるだけ確実な方法で、一発で決めてしまいたい。
そんな事情もあって、家賃が安くて審査に通りやすい、仮住まいに一旦引っ越して、暮らしながら良い物件が出るまで待つことにした。

最初に住んだのは、家賃3.3万円/1DKのコンクリート造のマンション。部屋は良くも悪くもラフな作りで、サイズも家賃もちょうど良かった。標高110mの高台にあり、屋上に登ると西にも東にも海が見える。見晴らしのいい場所に建っていた。
しかしどういうわけか、霧が立つ。隣町が晴れていようとも、うちの周囲数十メートルだけは真っ白な霧に包み込まれる。

体験したことのない湿気の量で、まるで水をこぼしたかのように床が濡れている日もあった。
福岡に住んでいたときに、一生使うつもりで買ったアンティークの両袖机は芯までカビた。革ジャンや革靴にも別れを告げて、代わりに除湿機を迎え入れる。

湿度の高い地域には、ナメクジやカタツムリなど、皮膚のない生き物が集まってくる。特に雨上がりの朝などは、自室に向かう外階段に大人のこぶしほどの大きさのアフリカマイマイが5〜10体配置されている。
アフリカマイマイ自体に毒はないが、ネズミの糞などを経由して危険な寄生虫を保有している恐れがあるため、触らないようにと口酸っぱく言われている。絶対に通る道に、絶対に触ってはいけない生き物がいる生活。
転んだら終わりかもしれない。スーパーマリオのような気持ちで日々を過ごした。

とにかく気候の力が強すぎる。

反対に、春の晴れた日は圧倒的に気持ちが良い。なにせスギ花粉が飛んでない。
子供のころからヘビーな花粉症を患っていた私にとって、春を気持ち良いと感じられるのは新鮮だった。朝起きたらまず屋上に登って、遠くの海を眺めながらコーヒーを飲むのが日課となった。

沖縄で暮らした3年間は、ほとんどまるまる全部パンデミックの影響下で、毎日同じ友人たちと共に過ごした記憶がある。
ほとんど共同生活のような形でボードゲームをやりながら社会のことを話したり、持ち回りでご飯を作ったり、ときには音楽やZINEを共同制作したりもした。新しい時代の場所作りやコミュニティについて話し合い、模索してきたそんな時間が、いまの私の精神的な基盤になっている。

パンデミックが落ち着いたころ、私の関心は日本の商店街にあった。
市場があり、そこで資本が回っているのに、私たちの思う「資本主義」とは、何かが違うような気がしていた。そんな違和感を確かめるべく、仲間たちとアフリカマイマイに別れを告げて、大阪市内の商店街めがけて引っ越した。

プロフィール

ヤマザキOKコンピュータ

やまざき・おーけー・こんぴゅーた|1988年、埼玉県生まれ。文筆家、投資家、バンドマン。地下のカルチャーや金融の世界など、異なる領域を横断しながらオルタナティブな価値観を探求中。現在は神戸を拠点に、出版社〈穴書〉の代表と雑用を務める。著書に『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』(タバブックス)『お金信仰さようなら』(穴書)がある。

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