TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】分からないときは

執筆:石川紅奈

2026年9月13日

「じゃあ、そのときあなたはどういう感情、気持ちになったんですか?」という質問に、わたしは何も答えられず固まってしまった。本当に分からなかった。

その頃は、毎朝起きた瞬間から漠然とした不安に駆り立てられて、それを和らげるためにたくさんの情報を取り入れていた。なにを、”するべきか” “した方がいいのか” を探していた。

同じ頃、「ウッドベースは、どんな手触りなんですか?」と、聞かれたこともあった。
音では無くて、そうか手触りか、、、
すぐには的確な言葉が見当たらなくて、帰って楽器をただ触って確かめてみた。そのとき私は、自分の楽器の手触りを全然知らなかったことに気づいた。

それだけでは無くて、日々のすべて、自分がどんな感覚の中で生きているか全然知らないのかもしれない、ということにも気づかされた。
食事のときには、いままで食べていた ということを食べ終わったころふと思い出したり、もちろん味も香りも何も分からないこともあった。

なにが君の しあわせ
なにをして よろこぶ
わからないまま おわる
そんなのは いやだ!

幼い頃から聴いてきた、やなせたかしさんのアンパンマンマーチが浮かんで、情けなくなった。

そして、まず分からない感覚に注目して生活をした。いま触れているものがどんな手触りか、また、香りか、食べているものがどんな味か、、自分が何を感じているかをただ確かめて、できるようになったら説明する。
しばらくして気付くと過剰な情報摂取は無くなっていて、”すべきこと”、”した方がいいこと” ではなくて、”やりたいこと” 、”欲しいこと” のためにどうしようかなと考えたり、手を動かしていることが増えてきていた。

情報をたくさん持っていることと、自分が何を感じているかを知っていることは全く別のことで、もちろん大切な情報はたくさんあるけれど漠然とした分からない不安を紐解くのは情報だけでは無いことも分かった。

いつも実感のある自分の言葉、音で、伝えて生きていくことができたら嬉しいことだと思う。

なんのために 生まれて
なにをして 生きるのか
こたえられない なんて
そんなのは いやだ!

先日行った、やなせたかしさんの展覧会がとても良くて、最近は改めてその作品や人柄の素晴らしさに触れている。
それとよく思い出すのは、テニス部だった中学生の時、祖父母の家に行き「腕が痛い」と言うと祖父は腕では無く他の場所をたたいたりマッサージしてくれたこと。痛い場所だけをマッサージしても解決しないんだといつも何度も教えてくれて、マッサージが終わると腕の痛みは無くなっていた。
先に生きてきた人たちから学ぶことは尽きない。

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POPEYEをご覧のみなさま、はじめまして。石川紅奈と申します。学生時代からお世話になってきた、あこがれのPOPEYEでの連載の機会をいただき、とても嬉しいです。9/16に新しくリリースするアルバム『Garden』は、自分の心の庭をテーマに作りました。全4回、それに因んだお話をさせていただこうと思います。

プロフィール

石川紅奈

いしかわ・くれな|高校1年生の夏にウッドベースを始める。国立音楽大学ジャズ専修に入学し、ベースを井上陽介氏、金子健氏に師事。2021年、『Off The Wall』(マイケル・ジャクソン)の演奏動画がYouTubeで250万回以上再生され一躍注目を浴びる。
2023年3月、ジャズの名門ヴァーヴ・レコードより小曽根真プロデュースの1stアルバム『Kurena』でメジャーデビューを果たし、ソロ活動の傍ら2022年にはピアニスト・壷阪健登とポップスユニット「soraya」を結成。2024年sorayaにて「FUJI ROCK FESTIVAL」に出演し、これまで2枚のアルバムをリリースするなど、ポップスのフィールドでも頭角を現す。
2026年9月16日にセルフプロデュースとなる2ndアルバム『Garden』をリリース。その後、全国を巡るアルバムリリースツアーも決定している。

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