TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】福岡/1R/40m2/家賃5.5万円で暮らした記憶

執筆:ヤマザキOKコンピュータ

2026年9月9日

東京を離れるその日まで、「日本のガウディ」と呼ばれる建築家、梵寿綱(ぼん・じゅこう)氏が手がけたマンションの一室を借りて暮らしていた。

高円寺と下北沢の中間で、金融ライター兼バンドマンとして、それらしい生活を送っていた。仕事はそこそこ軌道に乗っていて「どこでも暮らせるんじゃないか」と妄想していたある日、友人と福岡旅行の話が出て、博多や天神の街をストリートビューで眺めてみた。想像していたよりもずいぶん都会で、かなり暮らしやすそうに見える。

家賃はどれくらいなんだろう、と軽い気持ちで検索してみると40m2/家賃5.5万円の物件が目についた。
20畳のワンルーム、ルーフバルコニー付きで立地も良い。

広めのワンルームに住んでみたかった。ここでルンバとふたりで暮らそう。
インスタントな決意を胸に、翌朝発の福岡行きの便を取り、不動産屋に連絡して内見の約束を取り付ける。
驚くほどスムーズに話が進み、2週間後にはもう引っ越していた。

福岡で暮らしたのは2年ほど。
ほとんど毎日同じ店で500円の日替わりランチを食べ、自転車で魚を釣りに行く。夜は基本的に自炊した。

縁もゆかりもない土地への移住だったが、多くの偶然に恵まれて、友達と呼べる人もできた。2年間とは思えないほど充実した日々だ。

東京にいたころも充実していたが、イベントやライブに出演したり、観に行ったりなど、取材と作品づくりに忙しく、その基盤たる「生活」をないがしろにしていたように思う。

福岡では、ランニングコストが減った分、請負仕事を大幅に減らし、空いた時間を「生活」の探究に充てることができた。

まだまだ長いかもしれない人生を見据えた身体のメンテナンスや、仕事道具の選び方。そして、時間やエネルギーの配分も。
自分の理想的な暮らしについて深く考えることのないまま、ここまで来てしまったことにも気付かされる。

「どこでも暮らせるんじゃないか」という問いに対する答えに、大きく近付いた感触もあった。夏休みのような日々の中で、人生に関わる大きな手応えが得られた気がする。

家具や調理器具をひとつひとつ選び取り、一生付き合える道具と共に、これからいろいろな街で暮らしていこう。
そんなことを考えながら身の回りのものを整理して、次は沖縄へと引っ越した。

出会いと別れ。
そこにルンバの姿はなかった。

プロフィール

ヤマザキOKコンピュータ

やまざき・おーけー・こんぴゅーた|1988年、埼玉県生まれ。文筆家、投資家、バンドマン。地下のカルチャーや金融の世界など、異なる領域を横断しながらオルタナティブな価値観を探求中。現在は神戸を拠点に、出版社〈穴書〉の代表と雑用を務める。著書に『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』(タバブックス)『お金信仰さようなら』(穴書)がある。

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