Kei Haradaが、コロナ以降の都市文化を形作るアーティストやクリエイターたちをアーカイブする、本誌にて連載中の「Urban Archive」。第四回では、アーティスト、DJ、電子音楽レーベル〈Mizuha 罔象〉の主宰、そしてポスト・コロナのレイブ、クラブシーンを象徴するコレクティブ〈みんなのきもち〉のメンバーとしても知られるIchiro Tanimotoをフィーチャー。彼の思想の根底には、言葉の手前に存在する衝動やエネルギーを生み出す”磁場”を作り上げようという意思がある。
2026年9月29日
中国・上海発のレーベル〈Genome 6.66 Mbp〉よりリリースしたアルバム『Solace From The Sun』でも高い評価を得たアーティスト・DJであるIchiro Tanimotoだが、個人のパフォーマンスにとどまらず、レイブやパーティの主催からレーベル運営まで広がる彼の表現の射程には、音楽が生まれる場所や空間、時間、天候まで、クラウドと共有する場に関わる要素・文脈すべてが包含されている。彼はそれらの要素・文脈をキュレーションし、クラブシーンを超えて都市文化に新たなエネルギーが生み出される磁場を作り出そうとしている。その姿勢こそ、多様なメンバーから構成されるコレクティブ〈みんなのきもち〉と共鳴し、彼らと活動を共にしている所以だ。
彼が作り出す磁場は、音楽シーンで使い古された「盛り上がり」や「一体感」、「コミュニティ」といった言葉では捉えられないものだ。その磁場には、人々の思考や行動のあり方を揺さぶりをかけ、次の日の都市の景色を変えてしまうような「生」の衝動が存在する。そのあり方は、イギリスで1994年に”反レイヴ法”として知られる「クリミナル・ジャスティス・アクト」が制定されたことが象徴的であるように、国家や社会が作り上げたシステムに揺さぶりをかける”危険”なものだったかつてのクラブカルチャーの精神性が継承されているが、同時に彼は決して教条主義や選民主義に陥ることなく、場を多くの人々に開いた状態で、磁場を発生させ、予想不可能なダイナミズムを都市文化に生み出している。
彼がメインキュレーターとして参加した、渋谷・WWWと〈みんなのきもち〉の共催による2026年のニューイヤーパーティは、前代未聞のWWW / WWW X / WWWβの3フロアを用いた全館解放の24時間イベントとして開催され、『電気菩薩』を主催するTEI TEIから、90年代から日本のテクノシーンを牽引してきた田中フミヤまで、コロナ以降の新世代からシーンのレジェンドがラインナップに名を連ねた。結果としてWWW史上最多の動員数を記録するなど、日本のクラブシーンに衝撃を与えたイベントとなったが、このパーティは数字以上のインパクトを東京の都市文化に残している。24時間という長尺のフォーマットから、ミニマルなライティング、WWWではあまり見られない大量のスモークまで、会場に持ち込まれた非日常的な演出やレイブ的没入感は、その場に集まっていたクラウドのクラブ・カルチャーと電子音楽の体験のあり方に対して間違いなく深い影響を与えた。今年、全国各地のレイブ・パーティから聞こえてくる”ユース世代のクラウドの圧倒的増加”という報告も、WWWでのニューイヤーパーティが与えた衝撃が関係しているだろう。
特別なエネルギーが生まれる磁場を作り出すために、彼が重視するのが、クラウドの「当事者性」と、それを生み出すための「余白」だ。クラウドは、イベントを消費する受動的な存在の”オーディエンス”として客体化されるのではなく、場における磁場を作り出す核心的な存在として考えられている。そのため、パーティでは、主催者によって特定の目的や体験の仕方が規定されるのではなく、むしろそれらに余白を残したまま、人々に場の過ごし方を委ねることが第一に想定されている。クラウドがパーティの当事者として場を作り上げることでキュレーターである彼の存在が希薄化して見えなくなり、その場に磁場だけが残ることが理想だと彼は語る。
現在、彼はアーティスト・DJとしての活動に加えて、代官山・Saloonで、オールナイト後の朝方から昼にかけて開催されるアフターアワーズパーティ『Mitsubishi Afterhours』や渋谷・WWW βで、新世代の東京ローカル・シーンに光を当てるパーティシリーズ「βase」のキュレーションをプロモーターとして手掛けており、ブッキングという行為を通じて、東京の都市文化の10年先の未来を考えたキュレーションを行っている。そんな彼が、今後の一つの目標として語るのは、自分たちの場所となる新たなクラブを作り、都市に磁場を生み出すことだ。彼は、その将来の目標に向かって、みんなのきもちと共鳴しているのだという。彼らによって生み出される磁場が、都市文化に予想もしない未来を作り出していく。
プロフィール
Ichiro Tanimoto
2001年生まれ、東京都出身。2021年、コレクティブ「みんなのきもち」にヘッドキュレーターとして参加。2024年より同名DJユニットの一員としてワールドツアーにも参加し、20カ国以上でプレイを重ねる。「みんなのきもち」のグローバルな活動と並行し、個人でもWWWβやSaloonなど東京のローカルシーンでパーティーを定期的に主催している。
Born in 2001 in Tokyo, Japan.
In 2021, he joined the collective Minna-no-kimochi as Head Curator. Since 2024, he has also been a member of the DJ unit of the same name, touring internationally and performing in more than 20 countries.
Alongside Minna-no-kimochi’s global activities, he continues to organize regular parties independently within Tokyo’s local scene, including at venues such as WWWβ and Saloon.
Kei Harada
東京都出身。慶應義塾大学卒業後、黒鳥社へ入社し、書籍の編集などを手掛ける。4年間のヨーロッパ滞在を経て帰国後は、東京を中心に、場所やメディアを横断しながら都市文化に関わる様々なプロジェクトを手掛けている。
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