TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】神戸/1LDK/33m2/家賃3万円で始まった新しい暮らし

執筆:ヤマザキOKコンピュータ

2026年9月30日

東京を離れて7年半。
福岡、沖縄、大阪と、西へ南へ流れに流れ、たどり着いたのは神戸の街。

南に瀬戸内海、北に六甲山脈が広がっていて、自然豊かで景色が良い。
都会も田舎も適度にあって、温泉と町中華もたくさんあるし、野菜や果物も美味しくて、交通の便も悪くない。

住環境としては大体なんでも揃った街だ。
だからこそ、世の中にまだない何かを想像して作っていくにはちょうど良い土地なのではないかと思っている。

借りたのは改装自由の小さな平屋で家賃はなんと、3万円。
商店街や駅も歩いてすぐの、良い物件に出会えたと思う。

入居と同時に壁を剥がし、漆喰を練って塗りたくった。
内装が終わったタイミングで家具や家電を運び込み、自作の棚を壁に打ち付けて、あっという間に引越し完了。

生活の拠点が完成したその足で、近所にもうひとつの物件を借りに行く。

こちらはフレンズたちと使う制作の拠点。
(フレンズたち=いつも助け合っているフレンズのみならず、世界各地にいるであろう、まだ見ぬ仲間たちを含めた包括的なフレンズたちのこと。友だちたちたちの意)

借りたのは三宮から歩いて15分ほどのアーケード商店街の中にある2階建の店舗物件で、家賃は5.5万円。

福岡に住んでいた頃にいつも遊んでいた大工のフレンズが協力してくれて、改装すること10日間。
きれいな事務所に生まれ変わった。

BEFORE

AFTER

そんなわけで現在はこの事務所を拠点として、本を作って全国の書店に送り届ける書籍出版社を経営している。
平日土日関係なく事務所に通い、買い物も商店街の中で済ますので、顔見知りも自然と増えてきて、毎日挨拶で忙しい。

事務所を構えて半年ほど経ったころ、商店会の理事長から「役員にならないか」とお声がけを頂いた。
よその土地から来た若手として、商店会に新たな風を吹き込みたいと言う。

私にできることがあればと引き受けてはみたものの、実際に会議に参加してみると、ひと回りもふた回りも年上の先輩方がAIを駆使しながら会の規約や予算について話し合っている。多くの人々が想像するような「若手の役割」はすでに果たされているように感じられて、手も足も出せずに帰ってきた。

まあ冷静に考えてみれば、自分が勝手に想像する役割を演じる必要なんて、別になかったのかもしれない。

時代劇の座頭市は流浪を続け、行く先々で按摩や博打をこなすうち、毎度もめ事に巻き込まれ、さっと片付けて去っていく。
きっと私も自分のやるべきことをやっていけば、役目なんて向こう側から飛んでくるに違いない。

今日もこの原稿を書いたあと、事務や雑務を片付けて、次に出る本の表紙デザインやキャッチコピーを構想しながら家に帰る。
繰り返しのようなこの日々が、今は新鮮に感じられる。

30代のほとんどを注ぎ込んだ移住の旅は、ここ神戸の街で一旦終わり。
最近は同じ商店街にある老舗の天ぷら屋さんの真似をして、事務所のシャッターを閉めたあと、今日もありがとうございましたと感謝を述べてお辞儀している。仕事が身体に染み込んでいくような、不思議な気持ちよさがある。

プロフィール

ヤマザキOKコンピュータ

やまざき・おーけー・こんぴゅーた|1988年、埼玉県生まれ。文筆家、投資家、バンドマン。地下のカルチャーや金融の世界など、異なる領域を横断しながらオルタナティブな価値観を探求中。現在は神戸を拠点に、出版社〈穴書〉の代表と雑用を務める。著書に『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』(タバブックス)『お金信仰さようなら』(穴書)がある。

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