カルチャー
本橋信宏は『マタンゴ』の後味の悪い結末にトラウマ級の恐怖を感じた。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.29
2026年7月31日
illustration: Dean Aizawa
text: Keisuke Kagiwada
edit: Togo Uchida
毎週、1人のゲストがオリジナリティ溢れる視点を通して、好きな映画について語り明かす連載企画「今日はこんな映画を観ようかな。」。今回はノンフィクション作家の本橋信宏さんが、カルト的な人気を誇る日本の特撮ホラー『マタンゴ』を紹介してくれた。
今日の映画
『マタンゴ』
(本多猪四郎監督、1963年)
大学助教授の村井ら7人の若者を乗せたヨットは、暴風雨によって無人島に漂着した。島内を探索した彼らは別の難破船を発見するが、生存者も死者も見当たらない。やがて食料も尽き始め、彼らはジャングルに群生している毒々しいキノコを食べ始める。だが、それを口にした者は次第に皮膚が爛れ、精神を犯され、奇怪なキノコ人間へと変身していく。
父親に連れられて『マタンゴ』を観たのは、小学校1年生の夏休みでした。1963年のことです。当時の東宝は、前年の父親に連れられて観た「キングコング対ゴジラ」のような怪獣特撮映画として送りだそうとしたのでしょう。実際、入り口ではマタンゴの塗り絵が配られていましたから。ところが、観てみたらとんでもない。日本映画史上最悪の後味の悪い恐怖映画だったんです。
物語は、若い男女がヨットで海に出て青春を謳歌している姿から始まります。当時の金持ちのボンボンの象徴のような彼らは、嵐に遭って漂流し、謎のキノコが群生する無人島に辿り着く。そのキノコが、マタンゴです。波打ち際にあった難破船には、「キノコは食べるな」という警告が残されていて、最初こそそれを守っていた若者たちでしたが、お腹が空いてくると誘惑に負けて食べてしまう。しかも、おいしいんですよ。劇中で使われたマタンゴは高級和菓子メーカーに特注で作らせたそうなので、実際にもおいしかったのでしょう(笑)。ところが、食べて何日かするとマタンゴ人間になってしまう。これがとにかく気味悪い。ダメと知りつつ食べずにはいられないマタンゴは、ほとんどドラッグですよ。
そんな中、主人公の青年だけは最後まで食べずに、救助されて東京に帰還するんですけど、気が触れたと思われて精神病院に収容されます。船にせよ、無人島にせよ、このどこまで行っても閉ざされた空間という設定も重苦しくて印象に残ります。そして、主人公は鉄格子の中で、「こんな目にあうくらいなら、恋人と一緒にキノコを食べて無人島で一緒に暮らせばよかった」と吐露するんですが、言い終えて振り返ると彼もまた顔がマタンゴ状態になっているんだから、もうトラウマですよ。観客は主人公に対して、「せめてお前だけは食べてくれるなよ」と祈るような気持ちで観ていたのに、ほっとしたのも束の間、「やっぱりお前もか!」と知らされるこのバッドテイスト感。傑作です。マタンゴ塗り絵を塗ろうとしたら、トラウマ再発動になりかねず、やめたのでした。
語ってくれた人
本橋信宏
もとはし・のぶひこ|1956年、埼玉県生れ。ノンフィクション作家。Netflixでドラマ化された『全裸監督 村西とおる伝』をはじめ著書多数。近年の著書に『昭和・平成レトロを巡る東京さんぽ』『歌舞伎町アンダーグラウンド』『花街アンダーグラウンド』など。
関連記事
カルチャー
園田努は『急に具合が悪くなる』の描く偶然に人生の本質を目撃した。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.28
2026年7月10日
カルチャー
金子由里奈は『バード ここから羽ばたく』を観て鳥との向き合い方を改めた。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.27
2026年7月4日
カルチャー
山本恵里伽は『わたしはロランス』にカルチャーショックを受けた。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.26
2026年6月27日
カルチャー
マユリカ阪本は『WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜』の主人公に自分を重ね合わせた。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.25
2026年6月20日
カルチャー
櫻井健人は『四月物語』に役者として大事なことを学んだ。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.24
2026年6月13日
カルチャー
朝井リョウは『災 劇場版』の死体の描かれ方に感動した。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.23
2026年6月5日
カルチャー
石若駿は『スター・ウォーズ /ジェダイの帰還 (エピソード6)』にジャズを感じた。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.22
2026年5月28日
カルチャー
黒川想矢は『リリイ・シュシュのすべて』の学校の描かれ方にドキドキした。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.21
2026年5月22日
カルチャー
駕籠真太郎は『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』からシニカルな笑いを学んだ。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.20
2026年5月9日
カルチャー
佐藤健寿は『地獄の黙示録』に人間の普遍的な狂気を感じた。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.19
2026年4月29日
カルチャー
大槻ケンヂは『イエスタデイ』を観て「パクられた(笑)、?」と思った。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.18
2026年4月23日
カルチャー
伊藤万理華は『aftersun/アフターサン』に、自分の記憶を重ね合わせた。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.17
2026年4月15日
カルチャー
JUBEEは『フォレスト・ガンプ/一期一会』でアーティストとしてのあるべき姿を学んだ。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.16
2026年4月11日
カルチャー
ピーター・バラカンは『お熱いのがお好き』のとにかく洒落た会話を楽しんだ。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.15
2026年4月2日
カルチャー
永野は『稲村ジェーン』の主人公にかつての自分を重ね合わせた。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.14
2026年3月30日
カルチャー
cero高城晶平は、『フルートベール駅で』の何でもないシーンを、今もときどき思い出す。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.13
2026年3月18日
カルチャー
坂本湾は『WE ARE LITTLE ZOMBIES』の子供たちにニヒリズムと戦う姿を見た。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.12
2026年3月12日
カルチャー
宇和川輝は『耳をすませば』に触発されてハーモニカを始めた。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.11
2026年3月4日
カルチャー
櫻井万里明は、『ハッシュ!』を観て作家としてのマンネリを脱した。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.10
2026年2月25日
カルチャー
寺尾紗穂は『少年』を観て戦後日本に残る戦争の爪痕に思いを馳せた。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.9
2026年2月18日
カルチャー
ドンデコルテ渡辺は、『ノロイ』で恐怖演出の真骨頂を味わった。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.8
2026年2月11日
カルチャー
シム・ウンギョンは『プレイタイム』で魔法のような映画体験をした。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.7
2026年2月4日
カルチャー
芸人の鳥居みゆきが、「自分が自分じゃないかも」って疑いたくなるときに観る映画。
今日はこんな映画を観ようかな。Vol.6
2023年10月31日
カルチャー
精神科医の斎藤環が、もう一度観たい未ソフト化映画。
今日はこんな映画を観ようかな。Vol.5
2023年7月27日
カルチャー
劇団・東葛スポーツを主宰する金山寿甲が、高騰するヴィンテージTシャツを見て懐かしんだ90年代映画。
今日はこんな映画を観ようかな。Vol.4
2023年6月28日
カルチャー
映像作家の倉知朋之介が、キメ顔や大袈裟な仕草に影響を受けた映画。
今日はこんな映画を観ようかな。Vol.3
2023年5月28日
カルチャー
小説家の小川哲が、映像ならではの表現に感動したSF映画。
今日はこんな映画を観ようかな。Vol.2
2023年4月27日
カルチャー
女優の長澤まさみが「こんなシーンを演じてみたいなぁ」と思った映画。
今日はこんな映画を観ようかな。Vol.1
2023年3月31日
ピックアップ
PROMOTION
サマーボーイとグルーミング。
Panasonic
2026年7月9日
PROMOTION
〈アディダス〉の「ハイパーブースト エッジ」で、喋って、走って、JOY RUN!
adidas
2026年7月24日
PROMOTION
だから、香りが好き。わたしがフレグランスをまとう理由 Created by GINZA
〈ZOZOCOSME〉で「Fragrance Edition」が開催中。
2026年7月23日
PROMOTION
〈KENZO〉のはじまりの地で、NIGO®が叶えたワードローブ。
KENZO
2026年7月8日
PROMOTION
〈SEIKO〉とポパイが一緒に作った “オレンジボーイ”制作秘話。
SEIKO
2026年7月22日