劇団・東葛スポーツを主宰する金山寿甲が、高騰するヴィンテージTシャツを見て懐かしんだ90年代映画。
今日はこんな映画を観ようかな。Vol.4
2023.06.28(Wed)
illustration: Dean Aizawa
text: Keisuke Kagiwada
毎回、1人のゲストがオリジナリティ溢れる視点を通して、好きな映画について語り明かす連載企画「今日はこんな映画を観ようかな。」。今回のゲストは、『パチンコ(上)』で第67回岸田國士戯曲賞を受賞した、東葛スポーツ主宰の金山寿甲さん。自身が公開当時に観て興奮した作品について語ってくれた。
語ってくれた人
金山寿甲

「BRAND BUYERS SHACHOU」ってYouTubeチャンネルをご存知ですか? 大阪でヴィンテージ屋さんをやっている社長が、お店で扱っているアイテムについて紹介したりするチャンネルなんですけど、社長のキャラがなんか面白くて。最近は、暇があると見ちゃうんですよ、別に買い物をするわけじゃないんですけど(笑)。
それによると、今は90年代の映画Tシャツがめちゃくちゃ高騰しているらしいですね。モチーフになっている作品についての社長の語り口がまぁまぁ雑で、それもまたいいんですけど(笑)、中には僕が公開時に映画館で観て興奮した作品もあったりするので、当時を懐かしみつつ、そのTシャツがこんなに値上がりしているのかと感慨深くなったりしています。
例えば、『パルプ・フィクション』のTシャツは18万以上もするんですけど、これは僕が今まで観た中で一番面白かった作品なんですよ。尊敬する岡田利規さんが、2022年の岸田(國士戯曲)賞の選評である作品を「この作品に触れたあとの自分に触れる前の自分からの変容がきたされているとは感じられなかった。たとえば映画『パルプ・フィクション』は、その内容に切実なものはひとつとしてないとわたしは思うけれども、あの映画を見たあとのわたしは、見る前のわたしとは大きく大きく変わった」と評しているんですけど、本当にその通り。この映画を観た後、確実に僕の中の何かが変わった……何が変わったかを具体的に説明するのは難しいですけど。
『パルプ・フィクション』では登場人物たちがひとつのアタッシュケースを奪い合うという描写があるんですが、フタが開くたびにピカって光るだけで、観客には中身が見えないんですね。僕が岸田賞を受賞した『パチンコ(上)』に、貸金庫を開けるシーンがあるんですけど、観客には中身がわからなくて、中から金色の光が漏れてくるだけって演出にしたのは『パルプ・フィクション』へのオマージュです。「中身が見えた方がいいんじゃない?」って意見もありましたが、タランティーノもやっているんだから大丈夫でしょと押し通しました(笑)。
観た後に自分が変わったって意味では、『ファイト・クラブ』もそうでしたね。ブラッド・ピットはもちろん、編集からダストブラザーズの音楽からラストシーンまで、すべてがかっこいい作品。主人公が実は二重人格だったみたいな演劇に対して、「“『ファイト・クラブ』オチ”だったね」と評したりすることがあるんですが、その意味ではもはやひとつのジャンルを確立したとすら言える。そして、そのTシャツは……ほぼ100万。社長によると、作品自体を知らずに買う人もいるらしいですが、このへんの作品はぜひ観てほしいですね、本当にかっこいいんで。っていうか、『パルプ・フィクション』のTシャツとか当時持っていた気がするんですよね。悔しいなぁ、何でも取っておかなきゃダメですね(笑)