カルチャー
女優の長澤まさみが「こんなシーンを演じてみたいなぁ」と思った映画。
今日はこんな映画を観ようかな。Vol.1
2023年3月31日
illustration: Dean Aizawa
text: Keisuke Kagiwada
今日観るべき映画に悩んでしまったあなたに朗報!
毎回、1人のゲストがオリジナリティ溢れる視点を通して、好きな映画について語り明かす連載企画のスタートだ。記念すべき第1回目は、”ヤングケアラー問題”に切り込んだ最新出演作、『ロストケア』の公開を控えた女優の長澤まさみさんが、「こんなシーンを演じてみたいなぁ」と思った映画について語ってくれた。
語ってくれた人
長澤まさみ
![長澤まさみ](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2023/03/762bf47e1d1ed9f877e9cb5eee6169d3-scaled.jpg)
昔、『曲がれ!スプーン』という映画で、桜井米という女の子を演じたことがあるんですね。超常現象バラエティ番組のADをしている彼女が、番組のために訪れたエスパーたちの溜まる喫茶店で、ある騒動に巻き込まれるコメディなんですけど、その中に、エスパーたちが米の胸ポケットの名刺入れに蜘蛛がいると騒ぎ出すシーンがあって。結局、名刺にあった”米”の字が蜘蛛に見えたっていうオチなんですけど(笑)。ただ、原作の戯曲を書いた劇団ヨーロッパ企画の上田誠さんは、このシーンを書きたいがために作品を構想したそうなんです。それと同じように、映画を観ていると、全体というよりはあるひとつの瞬間に対して、「こんなシーンを演じてみたいなぁ」と思うことがときどきあるんです。
例えば、『ブルージャスミン』のラストシーン。ケイト・ブランシェット演じる主人公のジャスミンは、セレブ生活を満喫していたんですけど、実業家の夫が詐欺で逮捕されてしまって、姉妹の家に身を寄せることになるんですね。そんな彼女が最後にすべてを失って、公園で途方に暮れるってシーンがすごく印象に残っていて。それはたぶん、彼女の情けなさやかっこ悪さに、おかしみが感じられるから。本人は必死なんだけど、傍から見ると面白いことって、現実でもあるじゃないですか。その感じが、コメディとしてすごく丁寧に描かれたシーンなんですよ。そういうシーンはまだやったことがない気がするので、いつかチャレンジしてみたいですね。
『君の名前で僕を呼んで』のラストもそう。ティモシー・シャラメ演じる主人公が、ひと夏の間だけ結ばれた男性に、電話で別れを告げられるシーンです。切ないんですが、同時に涙を流すティモシー・シャラメがやるせなく美しい。美しい時間、美しい描写が続きながら、最後はうまくいかない。ラブストーリーの定番の流れなので、私自身も演じたことはありますが、「またやってみたいなぁ」と観ながら思いました。30代の今はあんまり興味が湧かないですが、40代に入って演じたら面白そうだなって。
こうして語ってみると、私は登場人物の情けなさ、やるせなさを描いたシーンが好きみたいですね(笑)。実際、そんな綺麗なものじゃないと思うんですよ、人生って。もちろん、綺麗なところだけを切り取った映画もありますけど、現実には感情が乱れる瞬間もあれば、グタグタする瞬間もある。そういう部分をしっかり見据えた映画が、私は好きなんでしょうね。とか言いながら、『RRR』もめっちゃ楽しみましたけど(笑)。ただ、自分が演じるって視点で考えると、登場人物たちの人生にとってうまくいってない、最後が描かれる映画に惹かれますね。
Select 1
![ブルージャスミン](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2023/03/aflo_21455125-2-320x474.jpg)
『ブルージャスミン』(2013年、ウディ・アレン監督)
ジャスミンはニューヨークで実業家の夫とセレブ生活を満喫していた。しかし、夫が詐欺容疑で逮捕されて一転、全財産を失い路頭に迷うことに。異母姉妹ジンジャーの家に身を寄せたジャスミンは、壮大な計画を立ててパソコン教室に通い始めるが……。
©︎Everett Collection/アフロ
Select 2
![君の名前で僕を呼んで](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2023/03/HPXR-277-320x370.jpg)
『君の名前で僕を呼んで』(2017年、ルカ・グァダニーノ監督)
1983年夏。北イタリアのとある避暑地で家族とバカンスを過ごしていた17歳のエリオは、考古学者の父親の助手オリヴァーと知り合う。知性的な彼を初めこそ疎ましく思っていたエリオだったが、次第に恋心を募らせていくのだった。BD¥5,280(ハピネット・メディアマーケティング)
©︎Frenesy , La Cinefacture
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