CULTURE

おもしろい映画、知らない?/宇多丸

夫婦の倦怠期を描いた映画

2021.11.10(Wed)

photo: Naoto Date
text: Keisuke Kagiwada
illustration: Gramas

シティボーイ必聴のラジオ番組といえばTBSラジオ『アフター6ジャンクション』。
特に映画に関する特集は毎回、めちゃくちゃ面白い。
ならばと、宇多丸師匠に好きな映画を聞いてみたってわけ。

 大学3年生のときに観た『シェルタリング・スカイ』がとにかく刺さって、それ以来、”倦怠期夫婦もの”とでも言うべき系譜の映画が、大好物になりました。『シェルタリング〜』では、関係が冷めきった夫婦が変化を求めてアフリカを旅行しているんですが、二人は結局すれ違いを重ねたまま、最終的に夫のほうが熱病で死んでしまうんです。で、残された奥さんは、砂漠の遊牧民の長に拾われてその愛人になったりいろいろあった果てに、西洋社会に戻ってくる。そこからのラスト、原作者であるポール・ボウルズ自身が口にする言葉が、何しろ腹にドスンときました。「自分の人生を左右したと思えるほどの大切な思い出を、人は何回心に浮かべるのか。4、5回思い出すのがせいぜいだ。あと何回満月を見られるのか。だが、人は無限の機会があると思っている」

シェルタリング・スカイ
(監督:ベルナルド・ベルトルッチ1990年|イギリス|138分)
1947年、結婚生活に行き詰まりを感じたアーティスト夫婦は、北アフリカの旅へ。しかし、夫婦を待ち受けていたのは、過酷すぎる運命だった……。

 ちょうど、当時付き合っていた彼女と別れるかどうか、くらいのタイミングだったんですよね。「二人でいるほうが余計にさびしいこともある」みたいなことが、その年頃でようやくわかってきた。だから、人生の無常を説くそのセリフから、画面が暗転して、坂本龍一の音楽が流れだした瞬間、「なんでもっと彼女との時間を大切にできなかったんだろう」と感情が溢れ出して、号泣してしまったんです。

”倦怠期夫婦もの”の古典『イタリア旅行』をはじめ、『いつも2人で』とか『フェイシズ』とか、紹介したい作品はたくさんありますが、近年ではやっぱり、『ブルーバレンタイン』がわかりやすく突出してますよね。ある男女が結婚を決意するまでの時期と、数年後その二人がついに離婚してしまう一日を、交互に見せてゆく。二人の関係がそこまでこじれてしまった直接の理由みたいなものは見せないんだけど、ひとつわかるのは、女性側が恋に落ちる過程では魅力に感じていた男の個性が、結婚後はそのままマイナス要素になってしまっているんだな、ということ。かつては”面白い人”と感じられていた部分が、今では”いつもフラフラしてふざけてばかりの、ガキっぽいヤツ”としか思えなくなっちゃってる。じゃあ、そもそも出会ったことが間違いだったのか? いや、それでもこの二人には、こんなにも光り輝く、最高に美しい瞬間というのが、たしかにあったんだ!   とばかりに、エンドロールでは彼らのラブラブ最高潮期の姿が、走馬灯のように次々と映し出されてゆく、という……鑑賞時の精神状態次第では、泣き死にしかねないですよ、ホントに!

ブルーバレンタイン
(監督:デレク・シアンフランス|2010年|アメリカ|112分)
根無し草のようなディーンは、医学生のシンディと恋に落ちて結婚。しかし5年後、二人の関係は冷え切っていた。その2つの時間軸を交互に見せながら展開。

 同様に「じゃあ、どのタイミングでどうすればよかったの?」という苦い問いに向き合ってみせる作品として、『ふたりの5つの分かれ路』もおすすめしておきたい。夫婦が離婚手続きを終えたところから、彼らが出会った日までを5段階で遡ってゆくんだけど、ラストのラスト、まさに二人が恋に落ちた瞬間でもあろう、夕日に照らされた海辺のショットの、この世のものとも思えない美しさよ! こんな奇跡みたいな時間を共に過ごした二人であっても、その先には地獄のように冷え冷えした日々が待っているなんて……人生って、哀しい。そして素晴らしい。

ふたりの5つの分かれ路
(監督:フランソワ・オゾン|2004年|フランス|90分)
離婚の手続きを終え、別々の道を歩むことになった二人の軌跡を、「別れ」「特別なディナー」「出産」「結婚式」「出会い」と、時間軸を遡りながら5つの挿話で綴る。

『ブルーバレンタイン』と同じくミシェル・ウィリアムズ主演の『テイク・ディス・ワルツ』も恐ろしい。傍から見たらまさにベストカップル的な、”友達のように”仲がいい夫婦の前に、一人の謎めいた青年が現れ、まんまと奥さんがよろめいてしまう。まぁここまではよくある話かもだけど、この作品のすごさは、燃えるような恋愛の成就の、さらに「その先」を描いているところなんです。ついに同棲を始めた奥さんと青年が、溜め込んだ情熱を一気に爆発させるがごとく熱烈に愛を交わすその様を、カメラは、グルーッと円を描くように捉えてゆく。どんどん激しく、過激になってゆく二人の行為……だが、やがてそれは、だんだんとゆるやかに、穏やかになっていって、結局はやっぱり、かつての夫と同じような、淡々とした関係性に落ち着いていってしまうんです。つまり、どんなに熱く燃え上がった恋も、いつかは冷めて、別の何かに変質していく。それは必然であって、決して悪いことではないはずなんだけど……「おい、それ口に出して言うなや!」って感じですよね。「みんなだましだましやってるんだから!」って(笑)。

テイク・ディス・ワルツ
(監督:サラ・ポーリー|2011年|カナダ|116分)
結婚5年目のマーゴとルーは、仲睦まじい夫婦だ。ある日、マーゴはダニエルという青年と知り合う。そしてダニエルの持つ不思議な魅力に惹かれていく。

『タイタニック』カップルがもしホントにあのまま結婚していたら、現実にはこうなってしまっていたかも……というふうにも見える意地悪な作品が、『レボリューショナリー・ロード』。これも、恋愛初期には魅力的に見えていた要素がことごとくマイナスに転じてしまっているパターンですが、特に印象的なのは、冒頭の夫婦喧嘩。夫のほうが、いかにも自分は冷静で論理的だと言わんばかりの調子で、妻を論破しようとするんだけど、これ絶対ダメね! そもそもこういうのは勝ち負けの問題じゃないし、相手の苛立ちはもっと根本的なところから始まっているものなのに、それに気づかないまま、自分は賢いつもりでいる。正直、昔は僕も同じ過ちを犯しちゃってました。でも、こうやって登場人物たちの失敗から学んで、その後の人生にフィードバックできるんですから。映画って、本当にいいものですね!

レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで
(監督:サム・メンデス |2008年|アメリカ、イギリス|119分)
舞台は1950年代。郊外に暮らす夫婦は、幸せな家庭を築いているかに見えたが、その裏で二人は閉塞感や不満を抱えていた。

プロフィール

宇多丸

うたまる|ラッパー、ラジオパーソナリティ。1969年、東京都生まれ。「ライムスター」のラッパー。TBSラジオにてパーソナリティを務める番組『アフター6ジャンクション』が毎週月〜金曜18時より放送中! 近著に『森田若光全映画』(リトルモア)がある。


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