カルチャー
伊藤万理華は『aftersun/アフターサン』に、自分の記憶を重ね合わせた。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.17
2026年4月15日
illustration: Dean Aizawa
text: Keisuke Kagiwada
毎週、1人のゲストがオリジナリティ溢れる視点を通して、好きな映画について語り明かす連載企画「今日はこんな映画を観ようかな。」。今回のゲストは、主演を務めた『君は映画』が間もなく公開される俳優の伊藤万理華さん。紹介してくれたのは、2023年に日本公開された話題作『aftersun/アフターサン』だ。
今日の映画
『aftersun/アフターサン』(シャーロット・ウェルズ監督、2022年)
aftersun/アフターサン
発売日 好評発売中
価格 4000円(税抜)
発売元 株式会社ハピネット・メディアマーケティング
販売元 株式会社ハピネット・メディアマーケティング
© Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022
11歳のソフィが父親と2人きりで過ごした夏休みが、その20年後、父と同じ年齢になった彼女の視点で綴られる。父親のカラムを繊細に演じたポール・メスカルは、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。
「あれ、これって自分の記憶だっけ?」。『aftersun/アフターサン』は、そんな錯覚に襲われる瞬間が何度もあり、一度しか観ていませんが、忘れられない映画です。
メインとなるのは、11歳の女の子が31歳の父親と過ごしたひと夏の旅。それを当時の父親と同じ年齢になった彼女が、当時撮影していたビデオの映像を通して思い出すというストーリーなのですが、幼い彼女の眼差しが見つめる風景や大人に対する印象、父親に気を遣って明るく振る舞う姿が、なぜか自分の経験かのように感じられて。今は大人になって懐かしいけれど、もう戻れないもの。その切ない感覚が画面に映っているような気がして、序盤から大号泣してしまいました。
あるとき娘は父親に「11歳の頃、大人になったら何をしてると思ってた?」と問いかけます。それに対して、大人になるということはポジティブなことばかりではないと知ってしまった父親は、苦笑するしかない。その悲しみを、父親とほぼ同じ年になった今の私には理解できます。後半で、父親が背中を丸めて座る姿が頭から離れません。この歳になった誰もが身に覚えのあるような、孤独の瞬間がまっすぐに描かれていて、えぐられる大人は多いのではないかな、と思います。
私は、小学校2年生まで大阪で暮らしていて、マンションの2個下の階には祖父母が住んでいたのですが、つい最近、その祖母が94歳で亡くなってしまい、当時の写真や映像を見返す機会がありました。それを眺めながら蘇ってきたのは、リビングにいつもお花をたくさん飾っていたことや、食器を綺麗に並べていたことなど、年を重ねるなかで曖昧になっていた記憶。同時に、「あの頃のおばあちゃんはこんなことを思っていたのかな?」「逆に私はおばあちゃんのことをこんな風に見ていたのかな?」と振り返り、まさに『aftersun/アフターサン』のような経験を偶然しました。
たぶん苦い思い出も美化している部分は多いと思います。けれど、悲しかったり苦しかったりしたはずなのに、美しく残ってしまう記憶がある。だからこそ、あの頃があってよかったとも思える。『aftersun/アフターサン』も、その感覚を描いているのではないかなと思います。
語ってくれた人
伊藤万理華
いとうまりか|1996年生まれ、大阪府生まれ。元乃木坂46の一期生メンバー。グループ卒業後、初主演映画『サマーフィルムにのって』でTAMA映画祭最優秀新進女優賞、日本映画批評家大賞新人女優賞を受賞。近年の出演映画に、『チャチャ』『悪い夏』『架空の犬と嘘をつく猫』(26)など。
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