TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#4】映画祭という波止場から旅立つ映画たち
執筆:土居伸彰
2026年6月1日
『ボーイズ・ゴー・トゥー・ジュピター』をめぐるあれこれを書いてきたこの連載も最後。今回は映画祭というものにフォーカスを当ててみる。
『ボーイズ』が日本で初めて上映されたのは(いわゆる日本プレミア)、新千歳空港国際アニメーション映画祭(以下、新千歳)の長編コンペティションだ。新千歳は2014年の設立以来、毎年11月に開催されるアニメーション専門の映画祭だ。名前の通り、新千歳空港の「中」で開催される点が(空港のなかに「新千歳シアター」という常設の映画館があるのだ)世界的にも珍しい。
「空港の中の映画祭」というのが場所柄イロモノに見えてしまうかもだが、作品の選定は忖度なしの本格派である。この映画祭、第1回(2014年)から第8回(2021年)までのあいだ、僕はディレクターおよびコンペティションの選考委員をしていた。主な役割は、映画祭で上映する作品を選ぶ作業である。僕がディレクターをしていた時代に考えていたのは、人々のアニメーションに対する固定観念を裏切り、広げるものを積極的に選びたいということだった。来場者は空港のなかでアニメーションを観るためだけに数日間閉じこもるという変わったロケーションのこじんまりとした映画祭ということもあり、とにかくここでしか見れないものを、エッジの効いたものが好きな専門家やコアなファンの方に濃厚に体験してもらいたいと考えたのだ。
世界中で作られる映画の多くは、人々がチケットを買って見に行く映画館という場所で上映される保証がないままに作られている。とりわけ自国以外での上映機会がそうだ。海外の映画であれば、日本での上映権を買う会社があってはじめて、観客の目に届く。逆にいえば、そういう会社を見つけられない映画は、届く機会さえ与えられない。
作りたての映画作品は、そんな事態を避けるため、映画祭を目指す。映画祭に選ばれれば、いち早く芸術的な評価をされ、これは良い映画だというお墨付きを得る。先日までカンヌ映画祭が盛り上がっていたが、そういった大きな映画祭には世界中からバイヤーが集い、良い作品をいち早く買おうとする。映画祭での注目が、世界中の映画館へと届ける道をつくる。
『ボーイズ』が新千歳のコンペに選ばれたのは、僕が離れて以降のことである。でも、新千歳らしい作品だと思う。奇妙で、愛らしくて、そして観る人を想定しない場所に連れていってくれる。
映画祭に関わる身として、そこでの上映をきっかけに日本配給が決まってくれるのはとても嬉しいことだ。過去、日本でもカルトヒットとなった『オオカミの家』というチリのコマどりアニメーションが新千歳で日本プレミアだった。昨年のアカデミー賞長編アニメーション部門を受賞した『Flow』の監督ギンツ・ジルバロディスの前作長編『Away』も然り。また『ひゃくえむ。』のヒットの記憶が新しい岩井澤健治監督の長編デビュー『音楽』も、新千歳が日本プレミアだった。
映画『オオカミの家』予告編
映画『Away』劇場予告編
71分全て手描き! アニメーション映画『音楽』予告編
そんなメンツを見てもらえればわかるように、新千歳は、世界的なキャリアを築いていく作家の第一歩が踏み出される場なのだ。『ボーイズ』の日本配給も、新千歳での上映がきっかけとなって決まった。本作および監督のジュリアン・グランダーにも、そんな輝かしい未来が待っているといいなと思う。
ちなみに僕はいま、ひろしまアニメーションシーズンという映画祭のプロデューサーをしている。広島で1985年から行われてきた歴史あるアニメーション映画祭がリニューアルされることをきっかけに、関わり始めた。隔年8月の開催で、今年は開催年にあたる。先日コンペティションの選考結果を発表した。これらの作品も、日本の人々との良いファーストコンタクトを提供できればいいと思う。
個人的なおすすめは、フィリピンのクィアスーパーヒーロー映画『シャシャ・ザトゥーナ』だ。
Zsazsa Zaturnnah – 2024 Trailer
すでに公開中の『ボーイズ』を気に入ったら、映画祭という場所にも来てみてほしい。これから旅立つ映画たちの最初の勇姿――それはつまり映画の未来だ――を見届けるために。
プロフィール
土居伸彰
どい・のぶあき|1981年、東京生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。株式会社ニューディアー代表取締役。ひろしまアニメーションシーズン プロデューサー。プロデューサーとしては主にフランスとの国際共同製作によって日本のアニメ作家に新作制作の機会を提供する。著書に『個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論』『21世紀のアニメーションがわかる本』『私たちにはわかってる。アニメーションが世界で最も重要だって』『新海誠 国民的アニメ作家の誕生』など。
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