カルチャー

映画監督ガス・ヴァン・サントにインタビュー。

『ドラッグストア・カウボーイ』と『マイ・プライベート・アイダホ』がデジタルリマスター版で連続上映!

2026年8月6日

 ドラッグを求めて薬局を荒らし回る不良集団を刹那的に描いた『ドラッグストア・カウボーイ』(1989年)と、ポートランドの路上で体を売って暮らす若き男娼をリヴァー・フェニックスとキアヌ・リーヴスが演じた『マイ・プライベート・アイダホ』(1991年)。ガス・ヴァン・サントがキャリア初期に手掛けたこの2作の青春映画は、登場人物のスタイリッシュなファッションも含め、今もなお色褪せないエヴァーグリーンな詩情を放っている。デジタルリマスター版で連続上映されるこれらの作品の思い出を、ガス・ヴァン・サント監督に聞いた。

『マイ・プライベート・アイダホ デジタルリマスター版』/© 2026 WBEI

ーー今振り返ってみて、『ドラッグストア・カウボーイ』と『マイ・プライベート・アイダホ』は、あなたのキャリアにおいてどんな位置づけの作品だったと思いますか?

ガス どちらも比較的うまくいき、よく受け入れられたという映画の印象です。のちに、いろいろな映画を作る中で、すべてが批評的にも商業的にも成功するわけではないと思い知るわけですが……。

『ドラッグストア・カウボーイ』の制作中、編集作業を進めながら、ある種の予想を立てていたことを覚えています。この映画がどう受け止められるのか、劇場公開されて1週間上映されたら消えてしまうんじゃないか。小規模な公開作品ではよくあることだったので、ひと通り上映されたら、人々はそれを忘れてしまうんじゃないか、と。しかし、実際には、とりわけ若いアーティストたちのコミュニティの間で大きな反響を呼びました。もちろん、作品を作る時はいつもそういうことを目指してはいるのですが、それは私たちにとって予想外の出来事でしたね。

ニューヨーク映画批評家協会やロサンゼルス映画批評家協会のディナーにも呼ばれました。当時はそれをごく自然に受け入れていましたが、今にして思えばそれも特別な待遇だったことがよくわかります。

ーーこの2本の映画はどちらも、主人公は「こんな生活から抜け出したい」と思っています。これは当時のあなた自身の気持ちが反映されているのですか?

ガス 私はいつもそう感じています。ただし、それはある物語の語り方のようなものだとも思います。ある視点を取り入れるということですね。文学の歴史に目を向ければ、サミュエル・ベケットの作品の主人公は、常に絶望し、孤立し、忘れ去られている存在です。彼の書いた物語のほぼすべてにおいて、このキャラクターが中心人物となっているのです。その意味で、主人公の属性は、物語を紡ぐ上での機能のようなものなのでしょう。

『ドラッグストア・カウボーイ デジタルリマスター版』/© 1989 Avenue Entertainment, Inc. All Rights Reserved.

ーー文学の話が出ましたが、両作に共通する存在として作家のウィリアム・バロウズがいます。『ドラッグストア・カウボーイ』には役者として出演し、『マイ・プライベート・アイダホ』の脚本にはバロウズが編み出したカットアップの手法が取り入れられていると、あなた自身も明かされています。いつどんなタイミングでバロウズを知り、どんな点に興味を持ち、そして、あなたの創作にどんな影響を与えたのか教えてください。

ガス バロウズ自身もそうであるところのビート・ジェネレーションの作家のうち、私はまずジャック・ケルアックの作品に出合いました。その登場人物、アレン・ギンズバーグやグレゴリー・コーソなどの1人として、バロウズの存在を認識したのです。

ただし、ちゃんと読んだのは大学生の頃でした。友人がバロウズの『裸のランチ』について「どこを開いても、どの部分からでも読める本だ」と語っていたことに興味を持ったからです。すると、ケルアックやギンズバーグよりも、惹かれる部分がありました。彼のユーモアのセンスが、とても強烈にダークだったからだと思います。その後、他の本をいくつか読み、バロウズについて調べる中、彼が大学生の頃に書いた短編集を見つけ、決心しました。卒業したらその短編の一つを基に映画を作ろう、と。それが『The Discipline of DE』です。

だから私は、その物語を使用してもいいかの許可を得るべく、バロウズのもとを訪ねることにしました。InstagramもFacebookもない時代です。ですが、電話帳に彼の名前が載っていたので、電話をしてみたところ、彼は「こっちへ来い」と言ってくれて、会うことができました。私は「ロサンゼルスに引っ越す予定で、ある短編小説を基に映画を作りたい」と伝えました。すると、ロサンゼルスに行くというそのアイデア全体にワクワクしたらしく、連絡を取るべき人々の名前を教えてくれたり、とても親切にしてくれたことを覚えています。そして最終的に映画化の許諾もしてくれました。そんなこんなでバロウズ、それから彼のアシスタントであるジェームズ・グラウアーホルツと少しだけ親しくなったんです。

ずっと後になって、『ドラッグストア・カウボーイ』の撮影で、トムという名の年配の麻薬中毒者を演じる俳優が必要になり、バロウズならこの役にぴったりだと思いました。そこで、ジェームズに電話をしたところ、マット・ディロンが主演であるということに興味を持ってくれたらしく、すべての撮影を1日で終わらせるなら出演してもよいという回答がもらえました。だから、バロウズが登場するシーンは、1日で撮影したんです。

『ドラッグストア・カウボーイ デジタルリマスター版』/© 1989 Avenue Entertainment, Inc. All Rights Reserved.

ーーそんな『ドラッグストア・カウボーイ』は1971年が舞台です。最新作『デッドマンズ・ワイヤー』を含め、あなたは70年代が舞台の映画をたくさん撮られていますが、それは、あなたにとって特別な時代だったからなのでしょうか?

ガス 確かに、『ミルク』もそうでした。そもそも、私に依頼が舞い込むプロジェクトは、なぜかはわかりませんが、70年代が舞台になっていることが多いということがあります。
もうひとつは、70年代を再現することはそれほど難しくないということもあると思います。実際、80年代に『ドラッグストア・カウボーイ』を撮影したときは、70年代のシーンを撮るのはかなり簡単でした。今は時間が経っているので、少し難しくなっていますが。70年代が私自身にとって人生のエキサイティングな時間を過ごしたのは確かですが、正直なところ、それが理由なのかはよくわかりません。

ただ、私が物語の中で主に心がけているのは、物語の舞台となる時代がいつであれ、あらゆる時代に共鳴するような要素を探すことです。つまり、ある特定の時代を象徴するキャラクターがいる場合であっても、その人物があらゆる時代において、例えば、数千年前の過去や数千年後の未来においても、通用するような描き方をいつも探しているんです。それは「アーキタイプ」と呼べるようなものかもしれません。私がストーリーテリングにおいて重視しているのは、それぞれのキャラクターを全時代に通じる「アーキタイプ」として創造することなんです。

『マイ・プライベート・アイダホ デジタルリマスター版』/© 2026 WBEI

ーーでは、最後に教えてください。あなたにとって映画作りとは何ですか?

ガス 映画作りとは、さまざまな技術の組み合わせのようなものだと思います。映画では、必ずしも物語を語らなければならないわけではありません。ですが、多くの場合、物語を語っているわけですから、ある意味では文学の一部でもあります。

興味深いことに、私がバロウズに初めて会ったとき、なぜそんなことを言ったのかは覚えていませんが、映画の中でテンポを遅くしたり、速めたり、逆再生したりすることを提案してくれました。彼は映画がたくさんのアイデアやテクニックの集合体であると知っていたわけです。

いずれにせよ、映画は長い間、物語を運ぶための乗り物のようなものとして受け止められていて、それは今も続いています。場合によっては、映画を観るために観客を集めるという行為そのものが、すでに物語を期待させる準備になっているかもしれません。

映画の歴史を振り返ると、当初は一体どう扱えばいいのか分からなかったという点も興味深いです。最初は単なる好奇心の対象で、まるで幽霊のダンスを見るようなものだったと思います。やがて物語を撮影できることに気づき、その考えに固執するようになったんです。今でもそうですよね。

ただ、もっと先へ進むこともできるはずなんです。もしかするとそれは、例えば、ジェームズ・タレルのインスタレーションのようなものかもしれません。

プロフィール

ガス・ヴァン・サント

1952年、ケンタッキー州生まれ。1985年に『マラノーチェ』で映画監督デビュー。1989年にマット・ディロン主演で『ドラッグストア・カウボーイ』を発表し、全米各地の映画批評家協会賞やインディペンデント・スピリット賞といった映画賞を数多く受賞。次の『マイ・プライベート・アイダホ』では主演のリヴァー・フェニックスがヴェネツィア国際映画祭主演男優賞などを受賞し、アメリカのインディペンデント界を代表する監督となる。この初期の3作品は「ポートランド三部作」として知られており、ガス・ヴァン・サント監督の原点的作品となっている。その他の作品に、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』『エレファント』『ミルク』など。現在、最新作『デッドマンズ・ワイヤー』が公開中。

インフォメーション

映画監督ガス・ヴァン・サントにインタビュー。

『マイ・プライベート・アイダホ デジタルリマスター版』

緊張すると突然意識を失ってしまうナルコレプシーという奇病を抱えるマイクは12歳の時に母親に捨てられて故郷のアイダホを離れ、ポートランドの路上で体を売って暮らしている。スコットはポートランド市長の息子で何不自由なく育ったが、家庭に温かさを感じられず、家を出て男娼をしている。母親を探す決意をしたマイクは、スコットを誘ってバイクでアイダホにいる兄を訪ねるが……。8月7日(金)より、シネマアート新宿他で全国公開。


映画監督ガス・ヴァン・サントにインタビュー。

『ドラッグストア・カウボーイ デジタルリマスター版』

舞台は1971年のポートランド。ジャンキーのボブは、妻ダイアンや仲間を引き連れ、薬局からドラッグを奪って快楽を貪る日々を送っていた。そんなある日、仲間の1人である少女が犯した事故が引き金となって仲間たちの関係に亀裂が入り、歯車が狂い始める。9月18日(金)より、シネマアート新宿他で全国公開。