TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】パンチパーマ

執筆:五明拓弥(グランジ)

2026年10月6日

数年前の夏。
細木数子の半生を描いたドラマ『地獄に堕ちるわよ』のオーディションが都内の撮影所で行われていた。
「身長190cmの強面」という両親に感謝しかない武器で、ヤクザの手下役の書類審査を通過した僕は、控室の椅子に座り、覚えてきた台詞を頭の中で繰り返していた。
名前を呼ばれ実技審査が行われる部屋に入る。監督をはじめとする関係者の前で、参加者それぞれが自己紹介をして演技をする。

本職にしか見えない手下、自己紹介が長い手下、台詞が飛んでフリーズする手下、アドリブでパイプ椅子を蹴り飛ばしたら「それ撮影所の備品なんで!」と叱られる手下。いろいろな手下がいた。

「ありがとうございました~」。

オーディションはあっさりと終わった。
撮影所の前にあるバス停で時間をもてあましていると、マネージャーさんから電話がかかってきた。僕は全く手応えがなかったと正直に伝えた。
電話を切る直前「もし決まったら、角刈りかパンチパーマにしていただくことは可能ですか?」と聞かれたので、「どちらでも大丈夫です。受からないと思いますから」と言い、来たバスに乗り込んだ。

3か月後。

出演が決まった。

角刈りかパンチの選択をゆだねられ、この機会を逃せば一生やることがなさそうなパンチを選んだ。
理容室に行った次の日の朝、パンチにしていることをすっかり忘れていた。布団から上半身を起こすと自分の影が寝室の床に映った。
真四角。
その影を見て、改めて自分がパンチであることを自覚した。

クランクイン当日。
本番前にメイクさんが、髪型にぴったりな眉毛にしてくださった。

細眉・パンチ・190cmの巨体。
ヤクザとしては申し分ない容姿だが、これが日常生活には全く向いていない。

ご近所さんがよそよそしくなった。
電車で隣の席が空くようになった。
仕事で漁港に行ったら、そこにいる誰よりも漁師だった。
この姿で、舞台『ハリー・ポッター』のオーディションに行くことになった。これがいちばんきつかった。
審査席に座る関係者は手元の資料を凝視したあと、目の前に立つ僕を見て、再び資料に目を落とす。書類審査を通した男とは違う男がやってきたのだからそうなるのも無理はない(書類審査にはパンチにする前の写真で応募)。
実技審査がはじまった。

ハリー・ポッターの幻想的な台詞を喋るパンチ。
その姿は、尿検査で陽性反応が出るヤクザに見えたと思う。
合否は書くまでもない。

約3か月の撮影期間を終え、無事シャバの暮らしに。
髪型も眉毛も今では元通りなのに、ご近所さんはよそよそしいままだ。

細木先生…僕はどうしたらいいですか?

オーディションにて

プロフィール

五明拓弥

ごめい・たくや|お笑いトリオ・グランジのメンバー。芸人として活動する傍ら、広告にも携わりTCC新人賞などの広告賞を受賞。「ごめたん」名義で漫画家としても活動し、著書には『39歳の免許合宿』『カーシェアグルメドライブ』などがある。『カーシェアグルメドライブ』はBSで映像化。

Instagram
https://www.instagram.com/gomeitakuya/

X
https://x.com/gomeill

YouTube
https://youtube.com/@gometan_youtube?si=jC-fvavUte-gv6vD