カルチャー
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のダニエルズにインタビュー。
試写会プレゼントもあるよ!
2023年2月7日
倒産寸前のコインランドリーを経営するエヴリンは、税務署での手続きの最中、突然「別のユニバースから来た」と言い出す夫ウェイモンドによって、全宇宙をカオスに陥れる巨悪と戦う使命を背負わされる。戸惑う彼女は、さまざまなユニバースで別の人生を歩む自身の能力を借りつつ、意外すぎるラスボスと対峙するハメに……。
A24史上最大のヒットを記録した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は、そんなストーリーを軸に展開するコミカルなマルチバース映画。エヴリンを演じたミシェル・ヨーも、ウェイモンドを演じたキー・ホイ・クァン(『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』の少年ショートだ!)も、賞レースにおいて軒並み高評価を得ている話題作だ。監督を務めたダニエルズことダニエル・シャイナート&ダニエル・クワンにインタビューを決行した。
——今回の映画の着想源のひとつは、インターネットだそうですね。どういうことなんですか?
クワン YouTubeやSNSなんかがそうだけど、次から次へとあらゆるストーリーが飛び込んでくるよね? ひとつを見終わらないうちに、別のストーリーを見始めることだってある。しかもその内容は、楽しいものから悲しいもの、イラッとするものから驚くものまで、ばらばらだ。そういうものをどんどん消費していくときのフィーリングや脳の動きを、映像で表現したら面白いんじゃないかとまず思ったんだ。そして、そういうカオスな世界に迷い込んで戸惑う中年女性を主人公に据えた。この映画では、僕らと親の世代間ギャップを掘り下げたかったんだけど、両者を隔てる大きな違いは、インターネットを使い慣れているかどうかだと思うから。ただ、そのカオスをまんま映像化しちゃうと観客がついてこれない。だから、しっかりした物語を語ることも脚本を書く上では心がけていたよ。
シャイナート 実際、作る上で参考にしたYouTube動画もあるんだ。キスシーンだけを集めて編集したやつだよ。フィルムで撮られたものからビデオで撮られたものまで、アスペクト比の違いなんて関係なく編集された動画で、こういう感じにすれば多少カオスでも観客にちゃんと届くんだなって思ったんだ。
——だから、この作品ではアスペクト比が自由自在に変化していくわけですね。クワンさんがおっしゃったように、この映画にはカオスな物語でありながら、それを束ねるひとつのイメージがあると思いました。“円”です。実際、この映画は主人公が丸い鏡に映るシーンで始まり、その主人公は丸窓の洗濯機がずらりと並ぶコインランドリーを営んでいます。そうした多種多様な“円”に導かれるようにして、全宇宙を終末へと至らしめるベーグルが登場する……という風に僕は観ました。
クワン そうだね。ただ、最初から“円”のイメージが重要だったわけじゃないんだよ。まず思いついた“円”である大きな目玉も、それからベーグルも、1回限りのジョークのようなもので、特に深い意味は持ってなかったんだ。だから、“円”のイメージに関しては、計算されたものではなく、偶然の産物と言えるね。脚本を書き進めるうちに、どんどん映画的な重力を持つようになっていったんだ。でも、往々にしてそういうものの方が面白くなるもんなんだよ。作りながら自分たちが惹かれるものを発見し、信頼するってことはすごく大事なんだ。
シャイナート だから、結果的に“円”が物語をひとつに束ねるイメージなのは間違いない。だけど、僕らとしては“家族”っていう概念こそ、すべての物語をつなぐキーワードだとも思っているんだ。実際、「この映画は家族の物語なんだ!」とわかったことで、脚本も進んだしね。
——ベーグルは劇中で“真実”の象徴のようなものとして登場します。その落差に意表を突かれて思わず笑ってしまいました。ダグラス・アダムスによるSF小説『銀河ヒッチハイク・ガイド』では、数字の“42”が”生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え”だとされていますが、それを思い出しもしました。お2人のユーモアセンスは、どんなものに影響されて形作られていったんですか?
クワン ダグラス・アダムスは大好きで、『銀河ヒッチハイク・ガイド』シリーズは全巻このオフィスに置いているよ!(笑)。映画で描いた“バースジャンプ”は、この小説の中の“無限不可能性ドライブ”ってアイデアを借用したものだしね。同じくユーモラスなSFとして、カート・ヴォネガットの『タイタンの妖女』も、本作には大きな影響を与えているね。それ以外だと、ジャッキー・チェンやチャウ・シンチーかな。この2人は、ちょっとしたジョークで大きな物語を語ってしまうところがすごい。世界を終末に至らしめるものを、ベーグルという遊び心のあるイメージで表現したのは、彼らの作品を観る中で培われたセンスなんじゃないかな。そういう影響下に形作られたユーモアを、『マトリックス』の世界に投入したら、この映画になるんだ(笑)。
——影響という点について、もう1つお聞きしたいことがあります。エヴリンがカンフーマスターとして生きているバースは、明らかにウォン・カーウァイを意識した撮り方をしていますよね? お好きなんですか?
クワン 間違いなく僕らは彼のファンだよ。僕に関しては、香港出身の父が買ってきたジャッキー・チェンやウォン・カーウァイの海賊版ソフトを子供の頃からよく観ていたしね。今回の映画では、とりわけ『グランド・マスター』にインスピレーションを受けているよ。エヴリンがカンフーマスターになるバースに漂うロマンチックな雰囲気を表現するのに、『グランド・マスター』的なタッチがぴったりだと思ったんだ。
——エヴリンの夫を演じたキー・ホイ・クァンさんは、かつてカーウァイ監督のアシスタントもされていたそうですが、今回の起用にはそのことも関係しているんですか?
クワン それは撮影に入るまで知らなかったんだ。だから、「ウォン・カーウァイは知り合いだ」と言われて驚いたよ(笑)。撮影中、彼はモニターを見ながら、「ウォン・カーウァイは確かにこういう絵作りをするよね」と感心していたな。まぁ、僕らの場合、ウォン・カーウァイのようにテイクを何回も何回も撮り直すことはしたかったけどね(笑)。
——あなたたちと同世代である『WAVES/ウェイブス』のトレイ・エドワード・シュルツ監督や、少し年上ではありますが『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス監督も、ウォン・カーウァイからの影響を公言していて、しかも、みんなA24とタッグを組んでいます。A24にカーウァイ好きの若手監督が集まっているのは偶然ですか?
シャイナート A24は、僕らのような作家たちが集まるホームになっていると思うんだ。アメリカで、ちょっと奇妙なローバジェット映画を作る作家たちのね。そういう作家たちは、作風は違えど、同じようなものを観て育ったんだと思う。その中に、ウォン・カーウァイがいたっていうことなんじゃないかな。
クワン 僕らの世代がちょうど大人になりつつあったとき、彼の作品がアメリカでも観られるようになったっていうのも大きんじゃないかな。『花様年華』は本当にユニークで、当時の僕らにとっては本当に衝撃的な作品だったんだよ。
シャイナート そうだね。僕が彼の作品を初めて観たのも映画学校時代だった。でも、君は海賊版で小さいときに観ていたんだろ?
クワン まぁ、そうなんだけどさ(笑)。
——最後の質問になりますが、ベーグルが表現する真実の内容は「すべてのものには意味がない」だと説明されます。監督たちも同じ意見ですか?
クワン 正直なところ、それは映画を作っているときもわからなかったし、今もわからない。まだ探求している道のりの途中なんだ。ただ、あらかじめすべてに意味があるとは思ってないかな。意味っていうのは、自分で付与していくものだと思うから。映画の中で、エヴリンは最初こそ「すべてのものには意味がない」という真実を前にして恐怖を抱くんだけど、最終的にそのことによってむしろ自分を解き放つことができるんだ。だから、ときどき立ち止まって、「すべてのものに意味がない」と考えることは健康的なんじゃないかな。自分を解放することができれば、今僕らが生きているユニバースに対してもポジティブな気分になれるわけだから。
シャイナート 「すべてのものに意味がある」と思いすぎると、頭がパンクしそうになるしね。そんなとき、あえて「すべてのものには意味がない」と考えてみるのは、重要だと思う。そのとき初めて、自分にとって本当に大事なものを選ぶことができるはずだから。今、君の質問に一生懸命答えることも、僕らが選んだ「意味のあること」なんだよ。
インフォメーション
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
アメリカで暮らす中年女性のエヴリンは、ある日突然、“別の宇宙”からやってきた夫に、全宇宙を破滅させる悪と戦う使命を担わされる。バカけた振る舞いをすると、別のバースで生きる自分自身の能力を借りられると教えられた彼女は、カンフーマスターばりの身体能力を手に入れ、救世主として覚醒していく。3月3日よりTOHOシネマズ日比谷 他 全国公開。
© 2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.
映画の公開を記念して、POPEYE Webから特別試写会に10組20名様をご招待!
応募はこちらから。応募の締め切りは2月14日(火)23:59まで。
日時:2/24(金) 18:00会場 18:30開映
場所:GAGA本社 試写室 港区南青山2-22-18 TYビル1F
プロフィール
ダニエルズ
ダニエル・クワンとダニエル・シャイナートによる監督コンビ。2人はボストンのエマーソン大学映画学科で出会い、2011年からダニエルズとして活動している。CMやMVのディレクションを経て、2016年に『スイス・アーミー・マン』で長編映画監督デビュー。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』はダニエルズ名義による2作目の長編映画だ。また、シャイナートは単独名義で映画『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』の監督もしている。
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