カルチャー

『シラート』のオリベル・ラシェ監督にインタビュー。

2026年6月5日

text: Keisuke Kagiwada

© 2025 LOS DESERTORES FILMS, A.I.E., TELEFÓNICA AUDIOVISUAL DIGITAL, S.L.U.,
FILMES DA ERMIDA, S.L., EL DESEO DA, S.L.U., URI FILMS, S.L., 4A4 PRODUCTIONS
リード

あまり好きな表現じゃないが、『シラート』は今年もっとも”ネタバレ厳禁”の映画だ。まず、モロッコの砂漠地帯で繰り広げられるレイヴパーティが映し出される。かと思えば、そこに行方不明の娘を探す父ルイスとその息子エステバンが迷い込んでくる。かと思えば、ひと組みのレイヴァー集団が次なるパーティを目指すことになり、ルイスらもその後を追いかけ、どこかのんびりしたロードムービーへと変貌する。かと思えば……衝撃的な展開へとなだれ込む。「いったい何を観せられているんだ」とため息をつくしかない本作について、監督のオリベル・ラシェに話を聞いた。

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ーー冒頭でいきなり登場する、砂漠に積み上げられたサウンドシステムの迫力に心を鷲掴みにされました。まるで何かの神殿のように見えたため、その後に繰り広げられるレイヴパーティは神聖な儀式のようでした。

オリベル おっしゃる通り、私にとってレイヴが行われるダンスフロアは、ある種の儀式的な空間だと言えます。もちろん、今日のレイヴ文化には有害な側面もあるかもしれません。しかし、自然の中で踊るという行為は、人類が何千年にもわたって続けてきたことであり、その身体は、私たち自身の現在、それから私たちの過去や歴史とつながっている。つまり、儀式の空間において、私たちの身体は私たち自身についての情報を与えてくれるのです。そして、映画館がそうした神殿のひとつであることも忘れてはいませんね。

ーーパーティで踊るレイヴァーたちの存在感にも衝撃を受けました。エキストラを含め誰1人としてそこで踊っていることに疑問を抱く余地がないほどリアルな佇まいだったからです。どうやって集めたのでしょうか。

オリベル 私にとって、レイヴァーたちが本物であることがとても重要でした。そのため、とあるグループと協力して、実際にパーティを開催し、それをフィクションのシーンとして撮影したのです。パーティの参加者には予め書類に署名をさせ、肖像権を譲ってもらってもいます。主催者側からは3日間にわたり音楽を途絶えさせないという条件だったので苦労もありましたが、そうして撮影されたレイヴシーンを私はかなり気に入っています。なぜなら、あのカメラの視線の中には、何かの始まりが持つ真実の一端、今日の世界と私たち全員をめぐる脆さを映し出していると思うからです。

ここでは、パーティのリアルな雰囲気を感じさせること、力強さと脆さを同時に感じさせることが、何より重要でした。だから、レイヴシーンを現在の状態よりさらに長くして、レイヴァーたちのさらなるトランス状態を見せるという案も検討したんです。ただ、ゆっくり展開する映画なので、スタートを遅らせるわけにもいかず、最終的にその編集案は却下されました。個人的には、映画の後半でふたたび登場するレイヴシーンの方が好きかもしれません。そこには「ダンスは人をどこまで連れていけるのか?」ということの深みが示されていると思うからです。

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ーーその後、映画は行方不明の娘を探す父ルイスとその息子エステバンが、次なるパーティを目指すレイヴァーたちについて行くという物語にシフトしていきます。娘を探す父親、荒野を疾走する車の列といったイメージはウエスタン映画を想起させます。そう考えていくと、ある種の民族的な洋服を着たレイヴァーたちはネイティブアメリカンにも見えてきます。実際、レイヴァーの1人は、カツラではあるもののヘアスタイルがモヒカンです。

オリベル ギルガメシュ叙事詩や聖杯伝説をはじめ、あらゆる国には古くから英雄譚が存在します。おそらく日本にもあるに違いありません。そして、彼らのような英雄は決まって東へ向かいます。面白いことはいつも、西ではなく東で起きるのでしょう。だから、私はこの映画を、“イースタン映画”と呼びたい。なぜなら彼らもまた、東へ向かうからです。ただし、私の映画の登場人物たちは、英雄ではありませんが。

ーーなるほど、“イースタン映画”ですか。その視点はありませんでした。ちなみに、レイヴァーたちは最初、親子に対して「ついて来れるものならついて来い」という感じで、かなり冷淡です。両者が打ち解けるのは、転売ヤーからガソリンを購入しようとするレイヴァーに、ルイスが金を工面してあげて以降です。単なる人間的な愛情ではなく、金銭の授受によって関係が深まるという点に、シニカルさを感じました。

オリベル 私は自分の映画を解釈することがあまり好きではありません。観客ひとりひとりが異なる感情を抱く邪魔になるからです。ただ、私はこの映画が全体を通して、誰かが誰かを裁かない点が気に入っています。どんなにタイプが違う人々でも、心の奥底には親近感があると信じているのです。

ーーでは、解釈とは違う部分で気になった点をお聞きします。息子エステバンは日本語で「最善を尽くす」とプリントされたTシャツを着ていますが、あれは何でしょうか?

オリベル あれは衣装担当者の提案であって、何と書かれているかも知りません(笑)。ただし、芸術においては偶然など決してなく、無意識下で私の表現したいと思っていた何かがそこに現れたのでしょう。

ーーちなみに、この映画のプロデューサーとして日本でも人気の高い映画監督のペドロ・アルモドバルがクレジットされています。彼は監督としてだけでなく、スペイン及びラテンアメリカ圏の映画のプロデューサーとしても大活躍していますが、あなたはどんな経緯で知り合ったのですか?

オリベル 2019年、私の映画『ファイアー・ウィル・カム』がカンヌ国際映画祭で上映されたときに知り合いました。ペドロもまた自身の監督作『ペイン・アンド・グローリー』で出品されていたのです。彼が以前から私の作品を好意的に評価してくれていたことは知っていましたが、実際に会ってみるとその評価が本当であることが伝わってきました。そこで脚本ができたら提案してみようと思ったのです。実際、完成した脚本を彼に読んでもらったところ気に入ってくれて、私たちは協力関係になり、彼は製作面で私を支援したいと言ってくれました。

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ーー最後の質問です。あなたにとって”映画作り”とは何ですか?

オリベル まず第一に、自分自身をより深く知る手助けをすること、つまり、自分がより自由になる手助けをすること。そして第二に、人々が内面を見つめる手助けをすることです。私にとって、この仕事には刺激的な味わいがあるんです。映像や音、顔、風景、色、質感といったものと向き合うことが好きで、それらすべてが私を陶酔させてくれるんです。

今回の映画に関していえば、私は長年、多くのレイヴに通い、モロッコにもよく滞在してきました。そして多くのレイヴに通いながら、同時に多くの修道院にも足を運んできたのです。これらはかなりかけ離れたふたつの極ですが、修道院では自分の光と出会ったと言えるし、レイヴでは自分の影や傷とより深くつながれました。その両方が重要だったんです。傷と向き合い、癒さなければ、より高くは飛べないのです。

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プロフィール

『シラート』のオリベル・ラシェ監督にインタビュー。

オリベル・ラシェ

1982年、フランス・パリ生まれ。映画監督、脚本家。スペインでオーディオビジュアルコミュニケーションを学び、移り住んだモロッコのタンジールで『Todos vos sodes capitans(原題)』を自主製作。同作はアトラス山脈で撮影され、カンヌ国際映画祭批評家週間のFIPRESCI(国際批評家連盟賞)を受賞した。その後、故郷ガリシアに戻り、OSアンカレス山脈の奥地で撮影した『ファイアー・ウィル・カム』が2019年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞。『シラート』は彼の長編4作目となり、1作目のカンヌ上映から15年後にはすべての部門で作品が上映され受賞を果たした。本作『シラート』はサハラ砂漠で撮影され、コンペティション部門に出品した初めての作品となる。

インフォメーション

『シラート』のオリベル・ラシェ監督にインタビュー。

『シラート』

砂漠で行われるレイブパーティに参加したまま失踪した娘を探すため、父ルイスと息子エステバンは、モロッコの山岳地帯から砂漠の奥深くへと車を走らせる。行き着いたのは、現実と幻覚が混濁するような野外レイブのカオス。耳をつんざく重低音、赤い照明の海、沈黙を貫く父親の背中。だがそこにはすでに娘の姿はなく、父と息子は、レイブの参加者グループを追って、娘が向かったと思われる次のレイブ会場を目指すことになるが……。6月5日より公開。