『ボーイズ・ゴー・トゥ・ジュピター』のジュリアン・グランダー監督にインタビュー。
2026年5月21日
『ボーイズ・ゴー・トゥ・ジュピター』は、めちゃくちゃおバカなアニメーション映画だ。実際、ノスタルジックなパステル調のフロリダを舞台に、フードデリバリーに精を出す16歳のビリー・5000が、「ドルフィン果樹園」の社長令嬢と知り合ったり、あるいはエイリアン(!)と遭遇したりする本作は、いい意味でくだらない、オフビートなギャグで溢れている。しかし、その根幹に資本主義社会への皮肉が、明らかに存在することも見逃せない。その意味で、本作は”ヴェイパーウェイヴのスタイルで魔改造した『LEGO® ムービー』”なのかもしれない。真相を確かめるべく、監督、だけでなく製作、脚本、音楽も手掛けたジュリアン・グランダーに話を聞いた。
ーー多くの日本人が『ボーイズ・ゴー・トゥ・ジュピター』を通じて、あなたを知ることになると思います。そこでまず、あなたがアーティストとして影響を受けたものを、3つ教えていただけますか?
ジュリアン もちろんです。まず1つ目は、緑色の粘土で作られたキャラクターが主人公のクレイ・アニメーション『ガンビー』です。昔から大好きで、これほど美しいアニメーションは他にないと思っています。物語の中に制作過程が垣間見えたり、キャラクターに指紋が残っていたりして、すごく誠実な作品に感じられるんです。
2つ目は、チャールズ・シュルツによる『ピーナッツ』のコミックとアニメーションです。特に『ピーナッツ』のホリデースペシャル(チャーリー・ブラウンやスヌーピーたちが季節のイベントを祝う特別番組)が大好きなんです。実は『ボーイズ・ゴー・トゥー・ジュピター』は、「もし祝日がない時期に『ピーナッツ』みたいなホリデースペシャルを作ったらどうなるんだろう?」というアイデアから始まっています。この映画がクリスマスと新年の間、あの“何もない時期”に設定されているのはそのためなんです。
そして3つ目は、僕の母ですね。僕が幼い頃、母はプロデューサーとしてコマーシャル制作の仕事をしていました。ある時、テレビでシリアルか何かのCMを見ていたんですが、そこにマスコットキャラクターが出ていたんです。それで僕は母に、「あのアニメのキャラクターたちは、撮影が終わったらどこへ行くの? 撮影していない時はどこにいるの?」って聞いたんです。すると母は、アニメは人が作っているものなんだと教えてくれて、パラパラ漫画の作り方を見せてくれました。それが、まだ小さな男の子だった僕にとって、イノベーションへの最初の一歩になったんです。
ーー素敵なお母さんですね。あなたの人となりがわかったところで、続いて作品の内容に移っていきましょう。冒頭で大映しになるビルボードには、ディオンヌ・ワーウィックの「DO YOU KNOW THE WAY TO SAN JOSE(サン・ホセへの道)」の歌詞が書かれていますよね? 「WEEKS TURN INTO YEARS HOW QUICK THEY PASS/AND ALL THE STARS THAT NEVER WERE ARE PARKING CARS AND PUMPING GAS(時が過ぎるのはなんと早いことだろうか。かつてスターだったすべての者たちは今、車を駐車したりガソリンを給油している)」という意味深な一節です。
ジュリアン 僕にとってあの一節は、本当に美しくて、しかも面白い歌詞なんです。韻を踏んだ二行詩なんですが、最初はとても高尚で夢のような雰囲気なのに、二行目で突然、賃金労働という現実に引き戻される。その感じがすごく好きなんです。
それに、パンデミックを経た今では、あの感覚が僕の人生における中心的なテーマにもなっています。世界は良くなっていないかもしれないという感覚や、多くの人が夢を叶えられない現実、あるいは人生が思い通りに進まない現実が、そこには表れていると思うんです。
そして、その現実を前にしてどう生きるのか。「望んでいた未来は手に入らないと知りながら、それでもどう前に進み、意味のある美しい人生を見つけるのか?」という問いに、僕自身ずっと向き合ってきました。それは主人公ビリーをはじめ、この映画のすべてのキャラクターが、それぞれの形で向き合っている問いでもあると思います。
ーーこの映画はオフビートなコメディでありながら、ギグワーカーであるビリーを通して反資本主義的なメッセージも描かれています。ディオンヌ・ワーウィックの歌詞は、それを予告しているわけですね。
ジュリアン 少し恥ずかしい話なんですが、制作中は、この映画が反資本主義的な作品だとは自分では気づいていなかったんです。レビューや記事ではほとんど必ずそう指摘されるんですが、僕としては、自分の感情を吐き出しながら世界を理解しようとしていた結果、自然と出てきた要素だったんですよね。
ただ、僕なりに言い換えるなら、これは「仕事」と「労働者」についての映画なんです。
登場人物たちは、「仕事とどう向き合うのか?」「その仕事から何を得て、何を奪われるのか?」「自分自身を労働者としてどう見ているのか?」といった問いに直面しています。そういう物語を描こうとすると、自然と反資本主義的にならざるをえないのかもしれません。なぜなら、資本主義というシステムは、僕たちを裏切り、貶め、多くの人の生活を悪化させているからです。
実際、10数年前のアメリカでは、ギグエコノミーはすごく華やかなものとして登場しました。生活をより良くする新しい働き方として、「みんなが自分自身のボスになれる」と語られていたんです。でも、実際にどうなったかというと、ギグワーカーにとっても、サービスを利用する側にとっても、搾取的で、ときには屈辱的ですらある状況になってしまった。
だから現実はかなり厳しいんです。でも同時に、その中にはある種の滑稽さもあると思っています。一歩引いて見てみると、すごく馬鹿げているんですよね。
だから、この映画がやろうとしていることのひとつは、僕たちが生きているこの新しい世界や労働環境を理解し、それを少し笑い飛ばしながら、同時に哲学的な視点を提示することなんだと思います。
ーーこの作品における反資本主義的なメッセージが、意図的ではなかったというのは驚きです。というのも、この映画のパステル調のノスタルジックな色合いは、ヴェイパーウェイヴを想起させるからです。ヴェイパーウェイヴ的なスタイルの根幹には、「かつて夢見られながら実現しなかった未来への郷愁」があるとよく言われます。そしてそれが、出口のない資本主義への批評や皮肉として機能することもあります。この作品のヴェイパーウェイヴ的な色調も、そうした文脈を踏まえた選択なのかと思っていました。
ジュリアン 確かに、ヴェイパーウェイヴについてはよく考えてきました。オンラインアート界における大きなムーブメントのひとつですし、ここ10年ほど3Dアートを作ってきた僕も、間違いなくその世代の一員だと思います。
ただ、この映画のパステル調の色彩については、フロリダの記憶が大きい気がします。僕は主人公たちと同じくらいの10代の頃、フロリダに住んでいたんですが、もう本当に長い間戻っていないんです。だから、この映画のフロリダの描写は、遠い記憶に基づいています。
子供時代の記憶って、実際よりも美しく、夢みたいで、単純なものになりがちですよね。その感覚を表現するために、あの色合いを選んだんだと思います。
テーマとして言えば、この映画は「子ども時代の終わり」を描いている作品でもあります。ビジュアルにおもちゃっぽい雰囲気があるのはそのためです。全体的に少しプラスチックのような質感があって、それがテーマにも合っている気がしたんです。
でも、すべてが最初から意図的だったかというと、たぶんそうではありません。自分の子ども時代や人生と向き合う中で、無意識に選び取っていったものなんです。
ーー固い質問ばかりしてしまいましたが、この映画は基本的にオフビートなコメディです。何も考えずに笑って観ることもできます。このユーモアの部分については、どんなものに影響を受けたのでしょうか。
ジュリアン 僕もちょっと哲学的になりすぎたかもしれませんね。でも、おっしゃる通り、これは楽しい映画です(笑)。
その面白さは、キャストの力によるところが大きいんです。コメディアンが多かったこともあって、みんな自分なりのアイデアや解釈を持ち込んでくれましたし、即興で生まれた部分もかなりありますから。
特に、クリス・フレミングは本当に素晴らしかった。彼はホットドッグ屋の店主の声を担当してくれたんですが、台本をほとんど読まずに、ほぼ全部即興で演じていたんです。しかも、ホットドッグ売りのキャラクターのまま、1時間近く喋り続けていました(笑)。あの録音だけで一本映画が作れるんじゃないかと思ったくらいです。
こうして話しているとわかると思いますが、僕自身はそんなに面白い人間じゃないんですよ(笑)。すぐ考え込んでしまうし、思索に沈みがちで、どちらかというと悲観的なタイプなんです。だから、この映画が面白くなったのは、本当にキャストのおかげだと感謝しています。
ーーあのホットドッグ屋の店主は、注文を取りに来たビリーに「いつまで喋ってるの?」とツッコまれますが、そういう背景があったんですね(笑)。声優つながりで気になったのが、ドルフィン果実園で働くTボーンなど、いくつかの役をフリオ・トーレスが演じていたことです。日本ではまだ知名度は高くありませんが、彼自身が監督・企画・製作総指揮・脚本・出演を務めた奇妙なコメディシリーズ『ファンタスマス』は本当に素晴らしかったです。調べたところ、あなたは彼と『I Want to Be a Vase』という絵本も作っているんですよね?
ジュリアン そうなんです。僕はその絵本の仕事でフリオと出会いました。この映画にも出演しているコメディアンのマックス・ウィッタードが紹介してくれたんです。
絵本作りを通して、僕は彼の素晴らしい才能に触れることができました。彼は世界観を強くするために、細かなルールを設定するんです。たとえば、「登場人物には目を描かない」「吹き出しは使わない」といった具合に。そういう制約が、結果として作品をより面白いものにしていたと思います。
だからこの映画でも、彼らしいアイデアを持ち込んでほしくて、声優をお願いしました。その結果、彼が演じるキャラクターの多くはスペイン語を話すことになったんです。
実は僕、スペイン語がわからないので、彼が何を喋っているのか完全には理解できていないんですよ(笑)。でも、彼は僕のやりたいことを理解して、それを面白い形で表現してくれていると信じています。だから映画を観ながら、「今フリオは何て言ってるんだろう?」と想像するのが、僕にとっては楽しいんです。
ーー声優でいうと、タヴィ・ゲヴィンソンが出演しているのも個人的には見逃せません。00年代にティーンのファッションブロガーとして登場し、その後『Rookie Magazine』を創刊した彼女は、僕のようなミレニアル世代にとってのスターです。最近は女優としても活動していますが、彼女を起用した理由は?
ジュリアン タヴィは本当に素晴らしいですよね。僕も『Rookie Magazine』創刊当時のことを覚えていますし、彼女がブログやコンテンツ制作の世界で長年どれだけ大きな存在だったかも知っています。
僕たちは数年前からインスタグラムでつながっていて、いつか一緒に仕事ができたらいいね、という話をなんとなくしていました。
今回、彼女には……(以下、ネタバレを含みます)ある種のフードブロガーでもあるエイリアンの役を演じてもらっています。最初はもっと典型的なエイリアンを想定していたんですが、脚本を送る直前に、「どうすればこの役をもっと面白く、あなたにとって演じがいのあるものにできるだろう?」と相談したんです。そうしたやりとりを経て、あのキャラクターはブロガー的な存在へと変わっていきました。
スタジオで一緒に録音した時間も本当に楽しかったですね。マイクが入った瞬間、僕は「じゃあ、エイリアン語を考えようか」と言ったんです。彼女は完全にノリノリで、僕らはまるで口の中に食べ物が入っているみたいに聞こえるエイリアン語を考案することになりました。
だから、あのキャラクターに対する彼女自身の影響は、本当に大きかったと思います。
ーーなるほど、だからフードブロガーだったんですね(笑)。そしてもう1人、僕自身がタヴィと同じくらい尊敬している人の名前が、エンドクレジットで謝辞を捧げられていました。ミランダ・ジュライです。彼女がこの作品にどのように関わったかについてもぜひ教えてください。
ジュリアン 僕自身もミランダ・ジュライの大ファンなんです。彼女が監督した『君とボクの虹色の世界』は大好きな映画で、映画監督になりたいと思うきっかけのひとつでもありました。
それで彼女に連絡を取って、声優としての出演をお願いしたんです。残念ながらスケジュールが合わなかったんですが、脚本を読んでアドバイスをくれたり、僕が落ち込んでいた時に励ましのメッセージを送ってくれたりしました。
ーー差し支えなければ、どんなアドバイスだったのか教えていただけますか?
ジュリアン 彼女が言ってくれたことのひとつが、「周囲の人たちは、きっとエンディングを変えるように言ってくる。でも、絶対に変えちゃダメ」というものでした。僕はその言葉に従いました。だから、もし彼女からの精神的な後押しがなければ、この映画は今の形にはなっていなかったかもしれません。
プロフィール
ジュリアン・グランダー
3Dアーティスト兼アニメーター。カルト的なヒットを記録したビデオゲーム「ART SQOOL」の制作者として知られ、The New York Times誌やNew Yorker誌にも頻繁に3Dイラストを提供している。『ボーイズ・ゴー・トゥ・ジュピター』は彼の長編映画監督デビュー作。
インフォメーション
『ボーイズ・ゴー・トゥ・ジュピター』
舞台はフロリダ。高校を中退したばかりのビリー・5000は、地元の悪友たちが万引きや当たり屋をしながら怠惰に暮らすのを尻目に、人生を一発逆転させるべくフードデリバリーでお金を貯めている。そんな中、彼の前に奇妙なエイリアンが現れたことで、事態が一変するのだった。5月22日(金)より、新宿武蔵野館、渋谷ホワイトシネクイントほか全国順次ロードショー。
© Glanderco, LLC.
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