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ナイキ本社でエア マックスの過去と未来に触れた4日間。
NIKE AIR MAX
2026年5月29日
photo & text: Kakeru Otsuka
ついに来ちゃったよ。アメリカ・オレゴン州ビーバートンにあるナイキ本社。今回の目的は、世界各国から集まった8人のデザイナーたちが4日間でエア マックスを制作するプロジェクト「Air Works」。このプロジェクトの詳細は下の記事に詳しく掲載されているので、ひとまずご一読を。
左から順に、ロンドン代表Tasnim/ニューヨーク代表Omi/北京代表Marc Su/東京代表Motoi Hatsuki/リモート参加になってしまった上海代表Josewong/ムンバイ代表Diya Joukani/パリ代表Yams/ロサンゼルス代表Masyn
さてさて、“キャンパス(正式にはPhilip H. Knight Campus)”と呼ばれる本社に足を踏み入れると、まず圧倒されるのはそのスケール感! その名のとおり海外の大学のようで、ちょっとした街かよってくらい敷地が広がっている。移動はゴルフカートだ!
キャンパス内には、ロナウド の名を冠した「R9フィールド」をはじめ、「セレーナ・ウィリアムス・ビルディング」、「レブロン・ジェームズ・イノベーションセンター」など、ナイキの歴史を築いてきたレジェンドアスリートたちの名前を持つ施設が点在。意外なところだと、日本庭園もある。「Nissho Iwai Garden」と名付けられたここは、創業初期を支えた日本の総合商社 Sojitz Corporation(旧・日商岩井)への敬意を込めて作られたのだそう。
1万人を超える従業員が働いていて、敷地内にはカフェ、フィットネスセンター、サッカーコート、陸上トラック、ランニングコースまで完備。昼休みになると、わらわらと社員たちが外に出てきて、自然と体を動かし始める。ランニングをする人、ジムへ向かう人、芝生でボールを蹴る人、スポーツが“仕事”と切り離されず、カルチャーとして根付いている空気感は、まさにナイキだなぁ。
今回のプロジェクトに話を戻そう。各国のデザイナーたちはまったく新しいエア マックスをデザインしていくのだが、その前にまずはインプットから。ナイキ エア テクノロジーの技術開発と製造を行う工場ツアー、アーカイブの展示見学、社内デザイナーと〈Kids of Immigrants〉などのゲストデザイナーとの交流セッションが行われ、さまざまな角度からエア マックスという存在を再解釈していった。
そもそも、エア マックスの象徴とも言えるエア ユニットが生まれたのは1977年。“エアの父”ことフランク・ルーディが、「シューズを軽量化しながらパフォーマンスを向上させるために、靴に空気を入れる」というアイデアをナイキへ持ち込んだことが始まりなのだとか。現在では2000種類以上ものエア ユニットがあって、子供用シューズからNBA選手向けのパフォーマンスモデルまで幅広く搭載されている。それらを生み出しているのが、キャンパスから徒歩圏内にある「NIKE AIR MANUFACTURING INNOVATION BUILDING」。
エア マックスのエア ユニットは、小さなプラスチック素材からスタートする。そこから熱成形をはじめとする複数の工程を経てこの場所で完成する。ってことは、正真正銘Made in USAじゃん。
毎年進化を続けるエア ユニットの技術。それらは、数多くのエンジニアや職人、そして高度な製造技術によって支えられている。その現実を体感することで、参加デザイナーたちに「次のエアの未来」を考えてほしい。それがナイキの狙いだったみたい。
ナイキ チーフ・イノベーション・オフィサーのアンディ・ケインによるトークセッションでは、エア マックスカルチャーがこれまで世界中の都市やコミュニティに与えてきた影響、そして未来のスニーカー技術について語りながら、「過去のアーカイブを未来へどう繋げるか」という視点を参加デザイナーたちへ投げかけていた。
その中で議題にあがったのが、東京とナイキの関係性ついて。何度も語られてきたことだけど、’90年代から’00年代初頭にかけて東京がエア マックスカルチャーに与えた影響は非常に大きかった。ナイキは今でも東京を単なる“マーケット”としてではなく、新しいカルチャーやムーブメントが生まれる都市として見ているのだとか。実際に多くのナイキデザイナーが定期的に東京を訪れ、日本人デザイナーたちもプロジェクトへ深く関わっている。アンディは、「東京には独自の視点や美意識があり、それがナイキに新しい刺激を与え続けている」と話していた。
その“東京らしさ”を象徴する存在として、この「Air Works」に参加したのが渋谷の古着店『blue room』の共同オーナーであり、筋金入りのエア マックスフリークのMotoi Hatsukiくん。
スニーカー界で『blue room』は、昨年復刻した「エア マックス 95“Neon”」の “世界最速発売店舗”として知られている。
事前告知や大々的なプロモーションは一切なし。ただ店内に、何事もなかったかのようにそれが並べられた。「まさかのお宝発見!」という感覚でSNSや口コミを通じて瞬く間に情報が拡散され、気づけば店の前には長蛇の列!
大量の広告やマーケティングではなく、“知っている人だけが気づく熱量”によってムーブメントが生まれる。まさにアンディが話していた、あの時の東京とどこか重なって見えたな。
こうした、買う瞬間の感情を引き合いに、「ただ靴を買う行為ではなく、その時の緊張感や高揚感、街の空気感までも含めてエア マックスカルチャーだった」と話すのはナイキのアーカイブ等を管理するDNAチームのキュレーターであるロビー・ウィリアムスだ。彼は、2015年に限定モデルを求めてニューヨークの店で長時間並んだスニーカーヘッズでもある。
左から、Robbie Williams、Nike DNA (Department of Nike Archives)とJohn Hall、Nike DNA (Department of Nike Archives)
「エア マックスをただ、スニーカーとくくるのはもったいない。地域によってその意味合いは大きく異なってきます。ニューヨークではヒップホップ、ブラジルではストリートミュージックのファンキと深く結びつき、コミュニティの象徴として存在しています。特に『エア マックス 95』は、国や都市ごとに独自の文脈を持ちながら、人々の記憶の中に刻まれています」(ロビー)
ところで、ナイキが蓄積する数十万点にもおよぶアーカイブは、新しいプロダクトを生み出す上でどのように扱われているのだろうか?
「例えば、2023年に復刻した『エア マックス 1 ’86』。1986年のオリジナルモデルをベースに、CTスキャンなどを用いて当時のディテールやシルエットを可能な限り忠実に再現しました。アーカイブをただ懐かしいものとして消費するのではなく、その時代の空気感や背景、なぜそのデザインが生まれたのかまで徹底的に研究し、そこに宿る感情やカルチャーごと未来のプロダクトへ繋げることを意識しています」
そのアーカイブへの視点というものは、図らずもHatsukiくんのエア マックスのデザインにも通ずるところがあるみたいだった。
「純粋にナイキのスニーカーが好きで。でも、流行とかハイプな感覚とかに流されるのではなくて、自分が本当にかっこいいと思えるものだけを履いてきましたね」
そう話すHatsukiくんは、「Air Works」に向けて特に影響を受けてきた8足をピックアップ。現物や、’90年代のアメリカの通販カタログ『Eastbay』をオレゴンに持ち込んでいた。
それぞれのシルエット、パーツ、素材感、ディテールなどを研究しながら、「このモデルのここが好き」「この時代の空気感を入れたい」といった感覚を組み合わせ、ナイキのデザイナー陣や各分野のエキスパートたちからのフィードバックを受けながら少しずつ形にしていく。
その結果ベースとして採用しようと考えているのが、’90 年代末から’00 年代にリリースされた「エア マックス 98 TL 2」、「エア マックス テイルウィンド 5」、「エア マックス ウィリー」、「エア マックス プラス スリップオン」、そして「エア ズーム ドライブ」など。聞きなれないマニアックなモデルだ。
「昔の雑誌とか読んでいても、ひとつの靴に対してディテールを細かく特集したりしていて、そういった感覚からインスピレーションを受けてます。古着屋でも過去のものを編集して新しく見せるっていうことを考えていて、靴に対してもその意識を反映させました。過去のものを編集できるっていうのは未来を生きる人の特権だと思うので、先人へのリスペクトが伝わりつつ、自分の好きな時代をうまく抽出したシューズになるといいですね」
単純に過去の名作を引用するのではなく、自分の記憶や感覚を通して再編集していく。
そのプロセス自体が、この「Air Works」というプロジェクトを象徴しているようにも見えた。まだ最終デザインは見せられないのだけど、エア マックスを知らない人が見ても純粋にスタイリッシュで未来的に映る一方で、細部には歴代モデルへのオマージュやマニアックなディテールもちりばめられた彼のエア マックスは3Dプリント技術によって形となる。
これは今回のデザインではないけれど3Dプリントで作ったエア マックス1000はこんな感じ。エア ユニットを包み込むようにプリントされていく。3Dプリントシューズの先駆的企業Zellerfeldと提携することによって実現した。
「3Dプリントはデザイナーの自由を制限するものではなく、むしろ可能性を広げるためのツールである」
ナイキチームのこの言葉のとおり、今回のワークショップでは本番のシューズ製作とまではいかないものの、モックアップの3Dプリントシューズを4日間で作り上げた。
「限られた時間に集中できたからこそ最初の想像よりうまくまとまって。これがすぐに実物になるっていうのは本当に3Dプリンターならではだと思います。今後こういったクイックにできるスニーカーがより一般的になれば、いろんなデザイナーにもチャンスがあると思いますし、すごく未来を感じるいいプロジェクトだなと思いました」
と、Hatsukiくんも大満足。
実はHatsukiくん、専門学校の3年間でシューズデザインを専攻し、デザイナーを志していた。一度その道を諦めて古着店を始め、遠回りにも思えるキャリアだったが、その中でも変わらずエア マックスへの情熱を持ち続け、販売し、カルチャーを発信し続けてきた。そうした積み重ねがあったからこそ、このプロジェクトへと繋がった。
「自分が信じてる好きなものをとにかく発信していたから、ここに来られたと思います」
彼のエア マックスへの思い、シューズデザイナーとしての夢、人生全部が乗っかったシューズは7月にお披露目予定! 今回は一般販売がなく残念なのだけれど、ナイキが「Air Works」で伝えたかったのは、未来的なスニーカーのデザインというわけではなく、各々が思い浮かべるアイデアを形にする未来のクリエイティビティとカルチャーそのものだったんじゃないかな。
インフォメーション
NIKE カスタマーサービス
☎︎0120•6453•77
Official Website
https://www.nike.com/jp
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