TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#4】語りが生まれる場
執筆:小宮雄貴
2026年8月1日
この前、シネマ・チュプキ・タバタで『TRUE KYOHEI SAKAGUCHI SHOW 坂口恭平生活』の感想シェア会を開いてもらった。参加者は映画を観ていただいたお客さん8人とチュプキスタッフ池田さん、自分も含めた10人。シェア会では、参加者がこの場に安心していられるためのいくつかの決まり事があった。
「話を遮らずじっくり待つ」
「ただただ受け取るだけでOK」
「発言者や発言内容への批判、誹謗中傷はしない」
映画で希死念慮やトラウマについても言及していることもあり、どうしてもパーソナルな話になりかねない。哲学対話のように車座になって、一人一人の声が生まれるの待つ。
坂口恭平さんという強烈な個を持った被写体をひたすらに写した映画ではあるけれども、観た人の個人史と接続して生まれた感情が声になり、その声に対して全員が耳を澄ますという時間は忘れ難いものになった。この場が生まれたというだけでもこの映画を作って本当に良かった。人の心に触れて、自分の心まで癒してもらった。安心して人と人が出会えて、自然と語りが生まれる場にどうしても惹かれてしまう。形はどうであれ、さびしさ、自己否定、劣等感、義務感、罪悪感、希死念慮を自動生成する社会から距離を保ち、安心安全だと思える場。そのような場の存在に自分も救われてきた。
ドキュメンタリーとは映像表現であるけれど、やはり自分は声や語りが生まれる瞬間に立ち会いたいからこの仕事をしているような気がする。
先日、アテネフランセで開催された映画美学校ドキュメンタリーワークショップの公開講座で、酒井耕監督、濱口竜介監督の共作『なみのおと』の撮影を担当した北川喜雄さんの講義を聞いた。
2011年に津波の被害を受けた三陸沿岸部に暮らす人々の対話を記録したこの映画では、対話の途中から語り合う二人をそれぞれ真正面からカメラで捉える。カメラ目線のショットがカットバックし続けると、だんだんと語りの中に入り込んだ感覚になる。被災というトラウマ的な記憶の語りも含まれているものの、その場を安心安全だと思えないと生まれないような語りの中に入ると、不思議と自分自身も癒やされていく。感想シェア会での癒しは『なみのおと』で感じたものと近いのかもしれない。
カメラという異物が置かれた非日常空間でどのように安心安全を生み出すのか。
北川さんと監督たちは、撮影前に被写体のもとを数回にわたって訪ね、話を重ねながら関係性を作っただけでなく、語りの書き起こしや映像を見せて、その中で使って欲しくないところがあれば使わないという決まり事を事前に共有していたという。
普段ドキュメンタリー番組を作る仕事をしている中で、事前には映像を被写体に見せないということが暗黙のルールのように思ってしまっていた。被写体との共同制作であるにも関わらず、アンフェアなことをしているという引っ掛かりがいつもどこかにあったので目から鱗だった。語りが生まれるような安心安全な場を作るのは、カメラがあれば尚更簡単なことではない。でも、そんな場が作れないのならこちらもカメラを向けられない。考えるべきは何を撮るかでなく、カメラを置かせてもらえるための関係をいかに作るのか。カメラを向けるということへの後ろめたさがずっと付き纏っていたので、それが少し晴れた心地がした。
プロフィール
小宮雄貴
こみや・ゆうき|1997年、神奈川県生まれ。映像制作会社に所属し、ディレクターとして『情熱大陸』などテレビドキュメンタリーを制作する傍ら、自主制作も行う。2026年3月より初監督作品『TRUE KYOHEI SAKAGUCHI SHOW 坂口恭平生活』が全国順次公開している。
Instagram
https://www.instagram.com/yuki__komiya/
YouTube
https://www.youtube.com/@TRUEKYOHEISAKAGUCHISHOW
映画『TRUE KYOHEI SAKAGUCHI SHOW 坂口恭平生活』公式サイト
https://www.true-kyohei-sakaguchi-show.com/
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