TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#3】難しいからこそ、唯一無二で面白い
執筆:土居伸彰
2026年5月25日
自分は、前回・前々回と紹介してきている『ボーイズ・ゴー・トゥー・ジュピター』のような、ちょっと変わったタイプの海外アニメーション長編の配給を、自分の会社のニューディアーでやることがある。というか、元々、ニューディアーは「変わったタイプの長編アニメーション配給のため」に作った会社なのだが、一、二本実際にやってみたら、これだけで会社を潰さずやっていくのは無理だと気づいた(なのでいまは映画祭運営やプロデュースなどもやっている)。こういったタイプのアニメーション作品を観る人の層がかなり限られているのだ。
弊社配給の『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』
「アニメーション」という言葉が一般的にイメージさせるものとは違うタイプの作品を配給するときには、試行錯誤が必要だ。そもそも観客層が見えない。アニメーションのファン以外のほうが刺さる場合もある。配給作品一本ごとにどういった層に届けるべきかというトライアンドエラーをして、しかしそのほとんどはエラーで終わる。普段見知らぬタイプの長編の配給をやっていると、とても疲れる。考えるべきことが多い割に、儲からない。
ふだんは実写をメインに扱う会社がこの種の海外アニメーション作品を配給することになったとき、よくアドバイスを求められる。そのたびに言うのが、「アニメーションだからお客さんが来る、というのはこの手の作品にとってはありえないので、気をつけてください」ということである。
アニメーションというのは、そもそも作品を作るためのテクニックの名前である。それがジャンルの名前となり、人々にイメージを抱かせもするのは、思えば不思議なことだ。日本であればいわゆる「アニメ」が、世界的にはハイバジェットなCGアニメーションがイメージされるだろう。そこから外れた作品は、そもそもその存在意義から説明しないといけない不利を抱えている。できれば、実写とかアニメーションとか考えずに観てほしいものだが、ビジュアル面での違いのインパクトがどうしても大きい。
『ボーイズ・ゴー・トゥー・ジュピター』のように、アメリカで作られるインディ長編の数というのはかなり少ない。それが「ビジネス」にならないからだ。誰もお金を出してくれない。だから、作り手個人が頑張るしかない。結果、アメリカで長編アニメーションを作るというのは、個人作家の気合の産物である。
でも、ビジネスになっていない領域には、合理性がない作品が珍種のように自生する。僕はそのあまりにもユニークすぎてマーケットにうまくハマらない姿を、どうしても愛してしまう。とれも人間味に溢れてキュートだ。個人が作る長編からしか採れない栄養というのがあるとも思う。この種の作品を配給する会社に、栄光あれと思う。
ちなみに弊社も来年は新たに長編を配給する。シカゴのアニメーション作家が10年以上かけて作った作品だ。今年のアヌシー(世界最大のアニメーション映画祭)にノミネートして、世界初上映される。まだ、YouTube上にはまともな予告編もないので、作家のクリス・サリバンがクラウドファンディングをしたときの動画でも貼っておこう。本人の姿を見ると、余計興味が湧いてきませんか?
長編アニメーション『The Orbit of Minor Satellites』制作途中の映像
プロフィール
土居伸彰
どい・のぶあき|1981年、東京生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。株式会社ニューディアー代表取締役。ひろしまアニメーションシーズン プロデューサー。プロデューサーとしては主にフランスとの国際共同製作によって日本のアニメ作家に新作制作の機会を提供する。著書に『個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論』『21世紀のアニメーションがわかる本』『私たちにはわかってる。アニメーションが世界で最も重要だって』『新海誠 国民的アニメ作家の誕生』など。
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