TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#2】〈ラ・チェント〉というDCブランド
執筆:市村修蔵
2026年8月16日
前回に引き続き、DCを追っていくわけですが、まずぼくが掘っている「DCとはなんぞや?」という方は、ぜひ第1回をご参照ください。デザイナーズブランドでありながら、市場ではほとんど評価されず、ネットにも情報が残っていない、埋もれた80年代ブランドたちを今回も紹介していきます。
80年代といえば、Armaniを筆頭にイタリアデザイナーズが台頭してくる時代でもあります。Gianni Versace、Gianfranco Ferré、BYBLOS、Verriなんかですね。当然そうなると、日本のブランドにも少なからずその影響を受けたブランドが出てくるわけです。有名なのだと小栗さんのBarbicheですね。イタリア製のテーラードは、ArmaniのOEM先でもあるHILTON TIMEで作られたりしていました。ほかにも、デザインや雰囲気をトレースしたキャラクターズブランドもわんさか出てきます。
イタリアの風を感じる和製ブランド
そんな中で今回紹介したいのが、イタリアの風を感じる和製ブランド、La・centoです。
流行通信社から当時発行されていたメンズファッション誌『X-MEN』という雑誌があります。この雑誌、マイナーDCブランドの広告が本当に多い。ぼくにとっては宝探しの地図みたいな存在です。Googleにも見向きもされないカルトたちが潜んでいます。そこで、このLa・centoと運命の出会いを果たすわけです。そんなわけで今回は、少しトッポいLa・centoを紹介できたらと思います。
「100」から「108」へ
『Checkmate』1986年4月号では、「東京DCブランド完全カタログ」という特集が組まれています。ぼくにとってみれば軽い辞書みたいなものです。これを開くと、デザイナーは相原稔(あいはら・みのる)さん。ダンディなお方です。会社名はMassimo。ここからもイタリア風味を感じます。
La・cento(ラ・チェント)とはイタリア語で「100」という意味で、天然素材100%の生地を使うイタリアン・トラッドブランドであることが紹介されています。イタカジとは違う、小意気で粋な大人のお洒落。いいですね〜。「ほかのDCブランドやイタものとは違うぞ!」という宣言です。
このブランドは1986AWからcentootto(チェントオット)というブランドへ名前を変えて再始動します。イタリア語で「108」という意味らしく、相原さんの誕生日だそうです。いきなり個人的(笑)。改名後にコレクションを開催したと書かれているので、La・cento時代には残念ながらコレクションはありません。
私が所有するLa・centoの写真です。まずはボトムス。タグが、ミルスペックみたいな無機質な感じですが、個人的にはアルマーニみたいに黒縁で囲ってほしかった! まぁ40年もたって声を上げたところで栓なきことです。ぼくが所有しているLa・centoは少しシックな印象でしょうか。ウールは厚みがあり、シルエットも2タックのワイドテーパード。そこにシックなチェックが入る仕様です。
一方シャツはエスニックに寄ったデザイン。85〜86年ぐらいにエスニックテイストが流行るので、その頃のものかと思います。ポケットの謎デザインに比翼、筆で書かれたようなプリントに古代文字のようなものが上から添えられるという、もりもり仕様です。これを見たときに、イ……イタリア?となりましたね(笑)。かっこいいので良しとしましょう。コレクション自慢はさておき、本題のブランド概要です。
ブランド名とともに変わったクリエイション
ぼくが所有しているものからは毛ほどもイタリアの風を感じませんでしたが、ルックはどうでしょうか。『X-MEN』1985年後半の広告ページには、La・centoが必ずと言っていいほど掲載されています。
シックな路線と、ぼくが所有しているような攻めた生地を採用した2パターンがあります。80年代を感じさせる肩パッド。イタリアン・トラッドを掲げながら、誌面から伝わってくるのは良くも悪くも80年代DCブランドそのものです。ぼくの所有する服も、これで妙に納得がいきました。ですが、1988年7月号の『MRハイファッション』には、centoottoの88-89AWシーズンのルックが掲載されています。これが、イタリアデザイナーズと見間違えるルック。ファー付きのレザーにチェックパンツ、レザーグローブに煙草までご一緒ときました。はたまた、淡いチェックのダブルにアスコットタイですよ。洒落ています。誌面には、シルクウールのテーラードに三毛猫染めのムートンを主軸としたコレクションと紹介されています。これは気になります!
どうやらLa・centoは、ブランドの理念を掲げた段階で、デザインとして完成するのはcentoottoになってからだったのかもしれません。DCブランドとしての形が、La・centoからイタリアの風を存分に感じさせるcentoottoへと様変わりしていく。有名ブランドでもデザイナー交代によってクリエイティブが変わることがありますが、まさかデザイナーは同じで、ブランド名が変わることでここまでデザインが変化していくとは……。
しかし、古着屋を運営する中でもLa・centoに出会うことは本当に稀。centoottoに関しては見たこともありません。理由は分かりませんが、当時の人の記憶にも、現在の市場にもこれだけ静か。素材にもこだわりがあり、時期によってデザインの違いまで楽しめるブランドです。それでも、なかなか出合えない。
ぼくとしては、静かに愛されているうちに、centoottoも手に入れたいところです。
プロフィール
市村修蔵
いちむら・しゅうぞう|2002年、兵庫県生まれ。2025年7月発売の本誌古着特集にも登場した、DCブランドを研究する長野県上田市の古着屋『SNOB』店主(当時は信州大学の現役大学生だった)。スタイリスト・小沢宏さんや、編集者・山下英介さんといった業界の大先輩らも熱視線の若きホープ。
Instagram
https://www.instagram.com/snob_old_clothing_store/
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