TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】汁かけ飯とそのムード

執筆:中村友貴

2026年9月24日

 大学進学のために地元を離れ、初めて外から見る鹿児島は、南国であり異国だった。高校卒業まで暮らしていたはずなのに帰省するたびに出会う、なんてことはない風景や人々の暮らしぶりに南国のムードや異国のような情緒を発見しては興奮していた。

 とりわけ好きだったのは、かつて鹿児島中央駅前にあった朝市。野菜や果物、花や惣菜などが小さな商店ごとに所狭しと並び、そのあいだを買い物客が行き交う光景には、ここがいつの時代でどこの国なのかわからなくなる、不思議で気が遠くなるような感覚をいつも覚えた。その朝市の一番奥にあったのが、奄美出身のマダムが切り盛りする鶏飯屋。奄美大島名物の鶏飯(けいはん)は、茹でて細かく割いた鶏と甘辛く炊いた椎茸、錦糸卵とパパイヤ漬けがごはんの上にのっていて、鶏ガラで出汁をとったスープをかけて食べる。お茶漬けのように朝からサクサク食べられるのもいいし、前日飲み過ぎたときにも、このあたたかい汁がバッチリとはまる。

 今は朝市も無くなり跡地も駐車場になっているが、薄暗いテントの奥で食べた鶏飯と、そこで強烈に感じた南国のムードは、今もしっかりと自分の中に焼き付いている。僕の店『食堂 湯湯』の定番メニュー「鶏の汁かけ飯」は、朝から食べた鶏飯とあの時間、あのムードがアイデアソースのひとつなのだ。

朝市で食べた鶏飯が元ネタのひとつ。これが湯湯の定番「鶏の汁かけ飯」だ。

 先日、韓国に行ってきた。自分の意思で行く海外は初めてで、店でもよく韓国料理を作っているので、向こうで出会う味や風景をとても楽しみにしていた。釜山、慶州、ソウルと3都市を巡ったが、どの街にも鹿児島の朝市を思い出すような、でももっと規模の大きな市場が現役で賑わっており、おおいに刺激を受けた。市場には食堂が付きもので、大きな鍋で店ごとに牛や豚、鶏を煮込んでスープをとって、それをベースにした料理を、そこかしこで朝から提供している。

 旅の最終日の朝はソウルの南大門市場。地図アプリを眺めていて見つけた、茹で鶏とスープを出す食堂に開店の8時を待って入店する。地元の老紳士たちがスッカラでスープをつつく姿、茹で上がった鶏を割く店員、湯湯と同じ正方形のアルミのお盆。味付けこそ韓国式に自分で行うスタイルだったが、見慣れた風景が広がっていた。ごはんの上に鶏肉をのせて味を整えたスープをかけて、ソウルの「鶏の汁かけ飯」を作ってみる。湯湯じゃん!! と、思わず笑ってしまったほどに、鹿児島で出している自分のごはんにそっくりな椀が目の前にあった。国や調味料は違えど、朝から食べたいのはやっぱりこういう味。素朴で、でも力強さのある、飾らないごはん。

市場の食堂と煮込み中の大きな鍋はセット。慶州の牛クッパ食堂にて。

ソウルの南大門市場の中に韓国の湯湯が! 味付けは自分でする。

 大袈裟かもしれないが、普段自分が小さな店でやっていることと地続きの風景を、ずっと行きたかった国のあちこちで目にできたことは、まだまだ拙い自分の店や料理を肯定してもらったような気持ちになり、グッと込み上げてくるものがあった。きっとこの先も忘れることのない風景をいつものキッチンに重ねながら、今日もまた朝から汁を炊くのである。

プロフィール

中村友貴

なかむら・ゆうき|1991年、鹿児島県生まれ。大学進学を機に茨城県つくば市へ移り、6年ほど在住。2017年に鹿児島に戻り、カフェの店長を務めたのち、2023年から鹿児島市名山町に『食堂 湯湯』をオープン。朝7時30分から開店する食堂内で、本、CD、レコード、器、食材などの販売と、展示やLIVEの企画を行っている。

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