カルチャー
映画の”アウトドア”について考える。Vol.1/土居伸彰
『Away』(ギンツ・ジルバロディス)
2026年8月14日
illustration: Shigokun
text: Nobuaki Doi
edit: Keisuke Kagiwada
毎月ひとつのテーマを掲げ、4人の執筆者にそれにまつわる映画エッセイを寄稿してもらう「映画の〇〇について考える。」。今月のテーマは、夏休みということで、”アウトドア”。アニメーションを軸に幅広い活動を展開する土居伸彰さんが、ラトビアのCGアニメーション作家ギンツ・ジルバロディスの『Away』などを紹介してくれた。
『Away』/土居伸彰
私たちはなぜアウトドアに惹きつけられるのか? いろいろな理由があるだろうが、東京生まれ東京育ちの自分にとっては、普段のゴミゴミとした生活から離れ、せわしない時間から逃げて、ひとときだけでもすべてを忘却し、自然のリズムに身を委ねたいからだ。
仕事が忙しすぎて自分の身体を自然のさなかへと物理的に移動することが叶わないときには、ラトビアのCGアニメーション作家ギンツ・ジルバロディスの長編アニメーション作品が、少なくとも心のアウトドアを満たしてくれる。
完全なる個人制作(!)で作られたデビュー長編『Away』は、少年が飛行機事故により無人島らしき場所へと不時着する。死を思わせる巨大な黒い影に追われながら、なにもない荒野を息を切らせて走り、バイクで疾走する。2025年にアカデミー賞長編アニメーション賞受賞の『Flow』では原因不明の洪水と水位上昇がキャラクターたちの居場所を奪う。主人公の黒猫は、突然の事態に戸惑いながらも、小舟を見つけ、仲間の動物たちとともに水上を漂い続ける。
ジルバロディスが手掛けるような低予算のCG長編は、キャラクターアニメーションの作り方を変えた。CG以前、アニメーションはすべてを描く必要があった。キャラクターはアニメーターが作画して動かし、背景も手描きで描かれた。CGはシミュレーションができる。背景の自然は風が吹けば(風を吹かせれば)それを受けて勝手にそよぐし、水の細かく複雑な動きもいちいち手で描く必要はない。
ジルバロディスはCG時代の申し子だ。彼はまず「背景」から作る。大自然のジオラマを作り込み、そのあとキャラクターたちをそこに放り込む。かつてのアニメーションがキャラクター(の動き)主導だったとすれば、彼の作品では、むしろ自然の側に主導権がある。
さらに面白いのは、「なぜ」キャラクターたちが自然に翻弄されるのか、どちらの作品もその背景となる情報をまったく明かさないで終わることだ。みなが自然に翻弄され、流れに乗って、なんとか生き延びる。ただそれだけ。謎は解き明かされない。でも、見終わったときに、なんだかすごく大事なことを思い出したような、そんな感触が残る。 冒頭の問いに戻る。私たちはなぜアウトドアに惹かれるのか? 自然のリズムに身を委ねたいから、と最初に書いた。でも、ジルバロディスの作品を観ると、その答えの角度が変わる。私たちは自然のリズムに身を委ねざるをえない存在であるということを、むしろ普段の生活こそがその宿命の忘却の上で成り立っているということを、思い出すのである。
プロフィール
土居伸彰
どい・のぶあき|1981年、東京生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。株式会社ニューディアー代表取締役。ひろしまアニメーションシーズン プロデューサー。プロデューサーとしては主にフランスとの国際共同製作によって日本のアニメ作家に新作制作の機会を提供する。著書に『個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論』『21世紀のアニメーションがわかる本』『私たちにはわかってる。アニメーションが世界で最も重要だって』『新海誠 国民的アニメ作家の誕生』など。
作品のあらすじ
『Away』
ラトビア出身のギンツ・ジルバロディスが監督・製作・編集・音楽などをひとりで手がけ、3年半の歳月をかけて完成させた長編アニメーション。飛行機事故で島に不時着した少年が、オートバイに乗ってさまざまな土地を駆け抜けていく姿を描いたロードムービーだ。
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