
ホラーはけっこう観てますね。きっかけは小学生の頃に観たヒッチコック。なにかの映画を観に行ったら、そのときの予告編がアルフレッド・ヒッチコック監督の『サイコ』だった。本人が出てきて、不気味な館の中を歩きながら、「ここで恐ろしい事件がありました」とか言うんです。それがとぼけていて面白かったので、封切られてすぐ観に行くと、予告編とは裏腹にすごく怖い。そこからヒッチコック・ファンになりました。『鳥』にも衝撃を受けましたね。鳥が人を襲う映画なんて、それまで観たことがなかったから。
ただ1950年代、’60 年代は、ホラーの名作って少なかった気がするな。たしか『双頭の殺人鬼』というC級映画を観た記憶があるけど、あれはくだらなかった。そんな中、素晴らしかったのが『回転』です。モノクロで、デボラ・カーというきれいな女優さんが主演した、屋敷にまつわる霊的な話。観たのは公開後、ずいぶんたってからだったけど、怖かったな。オカルト的っていうかね。

ホラーの名作がたくさん出てきたのは’70 年代だったと思います。その時代の映画でいちばん怖かったのは『赤い影』。いまだにいちばん怖い映画かもしれない。リアルタイムで観たのか覚えてないけど、監督のニコラス・ローグが音楽的な作品をいろいろ作っていたので、興味があって観に行ったら本物のホラーだった。しかも怖いだけでなく、すごく美しい。
ざっくりあらすじを言うと、水の事故で娘を亡くしたイギリス人の夫婦が、傷心のままヴェニスに向かうんです。夫は建築家で、ヴェニスにある教会の修復依頼を受けたんですね。ところがヴェニスに行くと、赤いレインコートを着た女の子の後ろ姿を、何度か見かけては見失う。実は娘が亡くなったときに着ていたのが赤いレインコートなんです。そして幻覚なのか、夫が自分の葬儀船に乗る妻の姿を見たり、盲目の老女が彼らに忠告を与えたりする。
観る人によっては、どこが怖いのかという映画かもしれません。でもすべてが予兆に満ちていて、最後の瞬間に恐ろしいことが起こる。その最後のシーンにズキーン、ドキーンとして、あ、これは二度と観られない映画だと思った。何度も観たけどね、その後(笑)。あとで調べたら、『赤い影』の原作を書いた小説家のダフネ・デュ・モーリアは、ヒッチコックの『鳥』や『レベッカ』の原作者でもあるんです。全部好きな作品だから驚きました。彼女の小説には映画作家を惹きつけるものがあるんだろうね。
スプラッターは苦手だな。血だらけの映像は恐ろしいけど、脅かされるのはむしろ音響で、聴覚へのアタックが心臓に悪い。ホラーでも心に残る映画はあるわけでね。例えば『アザーズ』は、古い屋敷を舞台にした画面の雰囲気が『レベッカ』に似ていて好きでした。アレハンドロ・アメナーバル監督作。でもヒッチコックみたいに耽美的なところがあって怖かった。この映画もそうだけど、脅かして怖がらせるわけではなく、本当の怖さとは何かを教えてくれるホラーが好きなんです。そういうものはいつ観ても色褪せない。ときどきあるね、そういうホラーが。

SFホラーが好きだから、曲を作ったこともある。
小学生の頃、ハヤカワ・SF・シリーズばかり読んでいたせいか、SFホラーも好きです。’70 年代の終わりに『エイリアン』を観たときは怖かったな。それまでにはなかった映画でしたね。
そもそもSFにはホラー的な要素が多いんです。SFホラーの中で特に怖かったのは、『ウエスト・サイド物語』のロバート・ワイズが監督した『アンドロメダ…』。古典的名作ですね。パンデミックものの先駆けと言っていいんじゃないかな。当時、この映画で有名になったのが原作者のマイケル・クライトンで、彼はこのあと『ジュラシック・パーク』などで知られるベストセラー作家になりました。『アンドロメダ…』はたまに観直します。

SFホラーが好きだから、それをもとにして曲を作ったこともある。「ボディ・スナッチャーズ」という曲です。’50 年代に作られた『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』と、’70 年代のリメイク版『SF/ボディ・スナッチャー』、そのどちらもすごく好きでした。『SF/ボディ・スナッチャー』はオリジナルに敬意を表していて、オリジナルの最後の場面で俳優が逃げ惑うところから始まります。その当時の俳優がちゃんと出てきてね。そういう演出も好きだった。

最近のホラーも観てますよ。でもがっかりすることが多いかな。2018年にロンドンへ行ったとき、映画館の前を通ると怖そうな映画を上映していて、それが『ヘレディタリー/継承』だった。帰国後に観たんだけど、定石どおりで怖くなかった、と思うのは少数派か……。悪霊ものは出尽くしたと思いますね。その点、『哭声/コクソン』は斬新でした。悪霊の本質を描いていたのは『エクソシスト2』。リチャード・バートン主演。名優の出ているホラーは逸品です。
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