カルチャー

クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.36

紹介書籍『太郎とTARO』

2026年8月15日

桃太郎 アゲインスト 桃太郎

日本では夏になると戦争の悲惨さをテーマにしたドラマや映画が放映され、過去の戦争を省みながら「戦争はだめだよね」というムードが醸成される。素晴らしいことであるなぁ、とNO WARを基本信条とするパンクス視点で思いつつ、正直に白状すると私の一番好きな映画はSTAR WARSだ。

は?
暴力を否定し戦争に反対するパンクスが、銃の形をした武器(ブラスター)をバンバン撃ち、刀の形をした武器(ライトセーバー)をブンブン振り回し、戦闘機(X-wing starfighter)に乗りミサイルを撃ちまくるヒーローが賞賛される映画が好きだと?
矛盾しているじゃないか。偽パンクス。お花畑。ドパガキ。現実を見ろ。歴史を学べ。

という声がSNS上に溢れる妄想をひとしきり終えたところで、考える。
当時中学生だった私がライトセーバーをブンブン振り回して悪者をやっつけるジェダイの姿、STAR WARSの描く戦争に熱狂したのは紛れもない事実で、映画に飽き足らずライトセーバーの玩具を買って部屋でブンブン振り回しドーパミンを放出しまくっていたあの高揚は、一体なんだったのだろう。

考えを巡らせて至った回答は「正義と暴力がもたらす快楽」だ。
STAR WARSの世界は勧善懲悪で、正義と悪がはっきり分かれている。恐怖で銀河系を支配する帝国軍(悪)と、それに対抗する反乱軍(正義)。戦場では正義による暴力が称揚される。敵は殺してもいい・殺すべき存在で、悪を滅ぼした者は世界に平和をもたらす英雄となる。正義の名のもとの暴力はカッコよくて、見ているとドーパミンがでる。スカッとする。

これはアメリカのエンタメ映画に限らず、日本の映画やアニメ、さらには古くからの童話にもみられる黄金パターンで、日本人の誰もが知るその代表例は「桃太郎」だ。鬼という圧倒的な悪と、それに勇気を持って仲間と立ち向かう正義の桃太郎。暴力によって鬼を倒し、宝物を持ち帰る。

しかし、動画を止め、本を閉じて現実の世界を見渡せば、世の中で起きている戦争の多くは勧善懲悪の単純構造ではなく、複雑に絡まった対立の歴史や地政学的緊張を背景にした、互いの大義に基づく戦争、正義vs正義の戦争だ。

となると、いまこのクソみたいな世界であるべきNO WARのスタンスは、正義やドーパミンによって駆動されるものではなく、正義や英雄を疑ってあらゆる暴力に反対するNO WARだろう。

そんな根源的なNO WARが『太郎とTARO』には貫かれている。

本書は「桃太郎」をモチーフにした漫画であるが、肝心の鬼は出てこない。
二冊の本がセットになっていて、一冊は赤い肌の色をした太郎側、もう一冊は青い肌の色をしたTARO側の視点から対立の物語が綴られ、二冊は同じ結末で終わる。つまり桃太郎vs鬼の物語ではなく桃太郎vs桃太郎の物語で、それぞれの内面に正義と悪、愛情と暴力、桃太郎と鬼の二面性が内包されている。

太郎とTAROはそれぞれの正義に基づき、犬や猿やキジを仲間にしたりきび団子を食べて力を漲らせたりしながら、対立する相手を倒そうと暴力を行使する。それによって、無数の命が犠牲になる。暴力をふるう瞬間、桃太郎の表情は鬼そのものになる。

本書にはエンタメで描かれる“戦争”ではなく、戦争や暴力の本質が描かれていると感じた。だから、読んでもドーパミンは出ないし、全然スカッとしない。しかも全編に渡ってセリフが一切なく、絵だけで物語が展開されているから、読後もずっとモヤモヤが残る。読者はそれぞれの立場に立って想像し、感情移入しながら思考をぐるぐると巡らせるしかない。

そして、その想像と思考のぐるぐるが「NO WAR」をファンタジーではなく現実に留めるためのアンカーになる。思考と想像を捨てた先には、暴力が称揚され、正義の名の下に対立する相手を非人間化し、無数の命が犠牲になる結末しかないからだ。

現実を見て、歴史を学び、思考を深めて、ぐるぐる巡らせてもっと自分のNO WARに血を通わせたい。
本書を読んでそんなことを考えていた夏の日、マシンガンの形をした水鉄砲を手にドーパミンでまくりの三歳の娘に砲撃され、服がびしょびしょに濡れた。子どもの玩具が人殺しの武器の形をしてるってどうなの?と世を憂いつつ、世界中の武器が水鉄砲になればいいなとお花畑みたいなことを思った。

紹介書籍

クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.36

太郎とTARO

著:大白小蟹
出版社:リイド社
発行年月:2024年12月

プロフィール

小野寺伝助

おのでら・でんすけ|1985年、北海道生まれ。会社員の傍ら、パンク・ハードコアバンドで音楽活動をしつつ、出版レーベル<地下BOOKS>を主宰。本連載は、自身の著書『クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書』をPOPEYE Web仕様で選書したもの。