カルチャー

クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.34

紹介書籍『お金信仰さようなら』

2026年4月15日

後ろではなく、理想的な未来に向かって前にはみ出す

最初の夢は「ウルトラマン」だった。スペシウム光線を出せるように毎日練習した。どんなに頑張っても手からビームは出ないと察する頃には野球が好きになり、夢は「プロ野球選手」に更新された。
しかし、二年間で3打数2三振1犠打という地味な成績を残して少年野球チームを退団した後、私の夢は更新を止めた。

大人たちの「将来何になりたい?」という無邪気な問いは、二十歳をすぎると「就職どうするんだ?」になり、ぐずぐずしていると「現実を見ろ」になる。

なりたいものも、やりたいこともない。才能やセンスもない。
劣等感にまみれた当時の私は、NO FUTUREと叫ぶパンクバンドに魅せられ、未来がなくてもいまを生きるパンクスの価値観で日々を繋いだ。

そうして「未来」を否定して「いま」を生き延びてきたけれど、四十肩の痛みに耐えたり豚カツを食した後の胃もたれに苦しんでいる時、ふと「俺の人生まじでノーフューチャーかも」という思いがよぎる。
未来に希望がなく、いまも楽しくなければ、残りの人生をどう生き抜いていけばいいのだろう。

そんな悩みを抱えていた私は最近、これまで否定してきた「未来」に対する考え方が変わりつつある。哀愁が漂い始めたNO FUTUREを捨て、理想の未来に想いを馳せている。
『お金信仰さようなら』を読んだからだ。

著者のヤマザキOKコンピュータは個人投資家で、本書は言わば投資的生き方の指南書である。拝金主義を否定するパンクスにとっては投資=金儲けで、投資家は「金の亡者」みたいなイメージを抱くだろう。

しかし投資家でありパンクスでもある著者は「投資」を、お金を増やすこと、ではなく「自分が思い描く理想的な未来に向かってエネルギーを投じること」(P.8)だと定義する。これは金融投資に限らず、日々のお金の使い方や時間の使い方までも「投資」の中に含む、懐の広い定義だ。
そして“投資対象”となる「理想的な未来」をこう設定する。

「みんながバラバラになって、価値観が乱立し、互いに尊重し合える社会」(P.170)

素敵な未来じゃないか。
私にとって目から鱗だったのは、“理想的な未来”が「社会」の視点から語られていることだ。「お金持ちになりたい」とか「FIREして悠々自適に暮らすのが夢」みたいな個人の視点ではなく、「どんな社会が理想的か」「どんな社会で暮らしたいか」という俯瞰した視点で未来を捉え、そこから逆算して個人の振る舞いを考える。

私には個人視点の夢はない。NO FUTUREだ。
けれど、試しに社会の視点で理想的な未来を想像してみれば、
・戦争のない社会
・属性によって差別されることなく、さまざまな人がさまざまなまま居られる社会
・資産や収入の多い少ないに関係なく、安心して暮らせる社会
・人間が市場価値で測られたり、土地や家が資産価値で測られたりしない社会
など、スラスラ出てくる。

ちょっと主語が大きすぎる気もしたので、理想的な「社会」を理想的な「街」に置き換えて考えてみると、
・ビジネスではなく、人間の営みが感じられる街
・家賃が高すぎず、安心して住める街
・銭湯、本屋、町中華、喫茶店、八百屋、パン屋のある街
・公園があり、樹木や植物も大切にされてる街
理想の未来がより具体的になってくる。

最後に、その社会、その街における自分の「理想的な未来の暮らし」を想像してみた。
・街の本屋でゆっくりと本を選ぶ
・喫茶店でコーヒーを飲みながら本を読む
・公園で子供とザリガニを釣り、野良猫を愛でる
・銭湯に行ったあと、町中華で餃子と瓶ビール
自分にとっての「理想的な未来の暮らし」が明確になった。
庶民的すぎる気もするが、つまりは「戦争のない社会で、人間味のある街で、人間らしい暮らしを続けたい」ということだ。

これはもしかして三十年ぶりに更新された私の「夢」なのでは? と、感慨に耽ったのも束の間、冷静になればその理想的な未来の中に収入を得るための労働が含まれていない。
金がなければ暮らせない。現実を見ろ、とお金信仰に浸かった大人の声がする。

できれば働かずに楽して生きたいところだが、理想的な未来の視点から考えれば「どんな仕事を選ぶべきか」も明確になる。

私の場合は少なくとも、土地や住宅を資産価値で測って街を均質に変えていく不動産投資の仕事や、人を市場価値で測って格差社会を助長するような人材ビジネス、兵器の製造や輸出入を通して戦争に加担するような仕事には就かないだろう。限られた時間と体力を、理想的な未来に投資したい。

所詮、パンクスに憧れるはみ出しものだ。お金信仰が蔓延る現代社会にはフィットしない。どうせはみ出すなら後ろではなく、理想的な未来に向かってはみ出そう。
本書を読んで、そう思った。

紹介書籍

クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.34

お金信仰さようなら

著:ヤマザキOKコンピュータ
出版社:穴書
発行年月:2026年1月

プロフィール

小野寺伝助

おのでら・でんすけ|1985年、北海道生まれ。会社員の傍ら、パンク・ハードコアバンドで音楽活動をしつつ、出版レーベル<地下BOOKS>を主宰。本連載は、自身の著書『クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書』をPOPEYE Web仕様で選書したもの。