カルチャー

クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.35

紹介書籍『選ばない仕事選び』

2026年6月15日

パンクスのための仕事選び指南書

好きなことを仕事にしよう、という言説がある。
なるほど、では私はゴリゴリのハードコアパンクが好きなのでそれを仕事にしよう!と思ったら、生活が破綻する。なぜならハードコアパンクは99.99%の人にとっては不快な音楽であるからで、缶ビールを買うくらいのギャラはもらえても、子供の食費を稼ぎ続けることは難しい。

そもそも、パンクは労働者階級の音楽として発展してきた。英国の若き労働者たちがクソみたいな社会で働き暮らす中で沸き上がる怒りや鬱憤を、うるさくて速くてボロボロな演奏に乗せて叫んだ。
だから、好きな音楽を仕事にする、ではなく、仕事をして好きな音楽もやる、という在り方がパンクスの基本となる。市井のパンクスたちはおしなべて生活のために労働してきたのだが、パンクスにとって難題なのが「仕事選び」だ。

まず、パンクスは反抗的だ。権威権力を嫌う。反商業主義的な価値観も持ち合わせていて、資本主義を疑いビジネスを嫌悪する。だらしない性格で、本当は働きたくないし家でずっとゴロゴロしていたい。その割に理想は高く「クソみたいな世界を変えたい」と夢想するお花畑な一面もある。

こうしたパンクスの厄介な性質は、求人情報の「求める人材像」にほぼ当てはまらない。

パンクスにとって社会とどう折り合いをつけ、何を生業としていきていくのかは至上命題の一つで、どうにか仕事を見つけて働きつつも「これでいいのだろうか」と日々悶々としている人も多い。そんな迷えるパンクスには『選ばない仕事選び』をおすすめしたい。

本書はさまざまな仕事を経て作家として活動する浅生鴨による“仕事論”の本だ。
仕事論の本といえば「好きを仕事にしよう」とか「自分の市場価値を高めよう」的な“ポジティブ全開で競争社会を能動的にサバイブ”が基本スタンスなイメージがあるが、本書はだいぶ違う。
一行目からからこう始まる。

「もうずいぶん前から僕は「仕事なんてしたくない」「ゴロゴロしながら暮らしたい」と声を大にして言い続けている」(P.7)

わかるわー、と冒頭から激しく同意した。
この「働きたくない」「ゴロゴロしてたい」の基本スタンスを崩さず、むしろ執拗なまでに固執しながら著者の仕事論が展開されていく。とはいえ「いかに楽な仕事を選ぶか」といった不真面目な姿勢ではなく、「不動産投資でゴロゴロしながら金を増やす」みたいなズル賢い生き方でもない。

著者は“仕事”をこう定義する。

「世界をほんの少しだけ良い方向に変えたり、世界に何かを付け加えたりする、そういう動作が仕事なのだ」(P.32)

例として、勤務していたスーパーマーケットでドリンクの陳列担当になった際、自分が商品の陳列場所を変えることで売れ行きも変わった経験を挙げ、「これが仕事なんだと思った。自分の行動が何かを変える。それが面白かった」と振り返る。身近な体験で示してくれることで「自分にもできそうだ」と思わせてくれる。

著者は「好きを仕事にする」なんてことを大袈裟にいう大人たちのことを“インチキ”だとしてこう述べる。

「少なくとも僕は「好きを仕事にする」よりは「嫌いを仕事にしない」ほうが重要だと思っている。この場合の「嫌い」は仕事の好き嫌いじゃない。誰かを傷つけるだとか、騙すとか、そういった生き方の問題だ。嫌いだなと感じている生き方をしそうな仕事だけは避ける。それで充分じゃないかな。」(p.78-79)

こうした文章で背中を押してくれつつ、仕事に対してアツい気持ちになったところで随所に「仕事なんてしたくない」「ゴロゴロしながら暮らしたい」的な文章を差し込んで読者をクールダウンさせる。というのは、アツい気持ちで仕事を人生の全てにしてしまうと容易に競争社会に取り込まれて、心や身体が壊れるまで働いてしまうのが人間だからだ。会社員を長く続けてきた私にも、月の残業が120時間を超えてぶっ倒れた経験がある。

著者の「仕事なんてしたくない」は怠惰な姿勢のように見せて組織に個人が殺されないようにするための防衛的態度であり、「ゴロゴロしながら暮らしたい」は労働者を働かせまくろうとしてくる社会への反抗的な態度だと感じた。つまり、クソみたいな世界で仕事選びに悩む読者への優しさだ。

「どんな仕事をしたいのか、どんな職業に就きたいのかではなく、どんな人になりたいのか、どのように世界を変えてみたいのかを考える。」(P.158)

不真面目なようにみせかて、実はとても誠実な生き方の本。その生き方は、私が憧れる市井のパンクスたちに通ずると思った。

紹介書籍

クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.35

選ばない仕事選び

著:浅生鴨
出版社:筑摩書房
発行年月:2025年10月

プロフィール

小野寺伝助

おのでら・でんすけ|1985年、北海道生まれ。会社員の傍ら、パンク・ハードコアバンドで音楽活動をしつつ、出版レーベル<地下BOOKS>を主宰。本連載は、自身の著書『クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書』をPOPEYE Web仕様で選書したもの。