カルチャー
櫻井健人は『四月物語』に役者として大事なことを学んだ。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.24
2026年6月13日
illustration: Dean Aizawa
text: Keisuke Kagiwada
edit: Togo Uchida
毎週、1人のゲストがオリジナリティ溢れる視点を通して、好きな映画について語り明かす連載企画「今日はこんな映画を観ようかな。」。今回のゲストは、『万事快調〈オール・グリーンズ〉』や『夜明けのすべて』などの話題作に出演する役者の櫻井健人さん。紹介してくれたのは、松たか子の映画初主演作『四月物語』だ。
今日の映画
『四月物語』
(岩井俊二監督、1998年)
「四月物語」Blu-ray
監督:岩井俊二
主演:松たか子・田辺誠一
品番:NNB-0002
発売・販売元:ノーマンズ・ノーズ
価格:¥4,180(税込)
©1998 ROCKWELL EYES INC.
東京武蔵野にある大学に入学するため、北海道から上京した楡野卯月。そんな彼女には、憧れの先輩と同じ大学を選んだという人には言えない不純な動機があった。
僕は高校3年生の時に養成所に入り、大学進学とほぼ同じタイミングでお芝居の仕事を始めました。その頃、岩井俊二監督の作品が大好きな友人に薦められて観たのが、『四月物語』です。
主人公の卯月は、とある大学に進学するために北海道から上京してきます。なぜその大学を選んだかといえば、高校時代の憧れの先輩が通っていたから。傍から見れば少し危なっかしく思えるほど純粋な動機ですよね。だけど、その瞬間にしかない輝きや瑞々しさがとても大切に描かれていて、「今しかない」という気持ちで芝居の世界へ飛び込んだものの、不安や悩みが絶えなかった僕にとって、大きな救いになりました。それ以来、新しい季節が来るたびに戻ってきたくなる、大切な「定点観測」のような作品です。
特に心に残っているのは、慣れない東京生活に苦戦しながらも、ようやく本屋でバイトしている先輩と再会し、言葉を交わす7分40秒のエンディング。外は雨が降っていて、先輩から卯月に赤い傘を貸してくれるんですが、壊れているため別の傘を貸そうとする先輩に対し、彼女は笑顔で言うんです。「これでいいです。これがいいんです」って。
僕は時々、夜になると「これでよかったのかな」と自分の選択に自信が持てなくなることがあるんです。新しい仕事に挑戦した時や大きな決断をした後ほど、そういう気持ちになる。でも、あのシーンを観た時、バラバラだった自分の輪郭が少しずつ整っていくような気がしたんです。「自分で選んだ場所に立っているだけで、もう半分は正解なんだ」って。
僕は映画を観る時、うまくいっていないけれど、人間らしくて、つい応援したくなる主人公に惹かれるんです。『四月物語』の卯月もまさにそういう存在でした。そして僕自身も、借りた赤い傘を差して雨の中を走る卯月のような純粋さを忘れずに、これからもしぶとく芝居の道を歩んでいきたいと思っています。
ちなみに、卯月が住む団地は、実は僕が幼い頃に住んでいた場所なんです。映画が公開されたのは僕が生まれる前ですし、住んでいたのもほんの数年でしたが、毎日上っていた階段や見上げていた壁の質感はなんとなく覚えていて、岩井監督のレンズを通すことで、自分の記憶が特別な色を帯びてよみがえったような感覚がありました。あれは忘れられない映画体験でしたね。
語ってくれた人
櫻井健人
さくらい・けんと|2000年、東京都出身。俳優。主な出演映画に、『万事快調〈オール・グリーンズ〉』『蔵のある街』『夜明けのすべて』『キリエのうた』など。ドラマに『脱走球児』『ああ、ラブホテル<十八番>』『不適切にもほどがある!』『飛鳥クリニックは今日も雨』『あんぱん』など。
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