カルチャー
朝井リョウは『災 劇場版』の死体の描かれ方に感動した。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.23
2026年6月5日
text: Keisuke Kagiwada
edit: Togo Uchida
毎週、1人のゲストがオリジナリティ溢れる視点を通して、好きな映画について語り明かす連載企画「今日はこんな映画を観ようかな。」。今回のゲストは、『イン・ザ・メガチャーチ』で第23回本屋大賞を受賞した朝井リョウさん。紹介してくれたのは、2025年に放映された連続ドラマを再構築した新感覚のホラー映画『災 劇場版』だ。
今日の映画
『災 劇場版』
(関友太郎、平瀬謙太朗監督、2026年)
ある過去を抱えた運送業の男、ショッピングモールの清掃員と理容師……。彼らはある日、前触れもなく不可解な〝災い〟に襲われる。一見すると自殺や事故と見えるそれらの死の周囲には、いつもある「男」が紛れ込んでいた。
今の時代、創作ってすごく大変なことだと、我ながら思うんです。正誤や倫理観が日々見直されていますし、今は創作物より現実を見つめないと、と思うニュースも多い。昨日まで◯だと認識されていたものが今日は□で、明日には△になっていたりもする。そんな中で創作を続けるために必要なのは、私の場合、「どんな状況でも、自分はこれにこだわってしまう」という執着なのかなと感じます。『災 劇場版』には“不安”への執着をものすごく感じました。「とにかく観客を不安にさせたい」という執着に魅せられてしまったんです。
『災 劇場版』は、WOWOWで放映された連続ドラマを再構築したサイコ・サスペンス映画です。それぞれ別の場所で生きる6人の日常にある“男”がいつのまにか紛れ込むんですが、その男の登場がトリガーとなって、6人の日常が不可解な自殺や事故などの“災い”によって崩落していくんです。ドラマ版では各エピソードが時系列順に描かれていましたが、劇場版では全ての出来事が同時進行で起こっているかのように再構築されています。観ながらどんどん、【“男”の登場によって、主人公の人生が破壊される】という仕組みがわかってくるんですね。「今だけは出てこないで!」「この人たちの不幸な姿を今は見たくない!」っていう気持ちが最高潮に高まったタイミングで“男”が顔を出すので、後半はもうそれだけで心底絶望的な気持ちになります。この仕組みを生み出したことに、まず私は感動してしまいました。それは最近「何を描くか?」と同様に、もしかしたらそれ以上に、「どう描くか?」ということが創作においてとても重要だと私自身痛感しているからです。
本作は、死体の描き方も白眉でした。私が子供の頃は『名探偵コナン』と『金田一少年の事件簿』が大流行していましたが、私は圧倒的に『金田一』派。それはまさに死体の描かれ方にこだわりを感じていたからで、「『金田一』の好きな死体ベスト5」を今すぐ挙げられるくらいです。『災 劇場版』も、どういう死体をどのタイミングでどの部位からどう映すか、ということに強烈なこだわりを感じました。私が拍手を送りたいのは、エスカレーターに片足が乗っていた死体です。その足だけ、規則的に動き続けているんです。死体という、本来動かないはずのものが動いている。しかも規則的にーーあの不気味さは本当に素晴らしかった。監督のおふたりに「あなたたちの死体への執着、伝わってます!」と届けたいです。
語ってくれた人
朝井リョウ
あさい・りょう|1989年、岐阜県生まれ。小説家。2009年、『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2013年『何者』で第148回直木賞、2014年『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞、2021年『正欲』で第34回柴田錬三郎賞、2026年『イン・ザ・メガチャーチ』で第23回本屋大賞を受賞。他の著書に『どうしても生きてる』『スター』『生殖記』など。
Instagram
https://www.instagram.com/asai_ryo_0531/
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