カルチャー
佐藤健寿は『地獄の黙示録』に人間の普遍的な狂気を感じた。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.19
2026年4月29日
illustration: Dean Aizawa
text: Keisuke Kagiwada
毎週、1人のゲストがオリジナリティ溢れる視点を通して、好きな映画について語り明かす連載企画「今日はこんな映画を観ようかな。」。今回のゲストは、『奇界遺産』シリーズをはじめ、世界各地のヤバい場所を取材するフォトグラファーの佐藤健寿さん。紹介してくれたのは、壮大なスケールでベトナム戦争を描いた『地獄の黙示録』だ。
今日の映画
『地獄の黙示録』( フランシス・フォード・コッポラ監督、1979年)
原作はジョゼフ・コンラッドの小説『闇の奥』。19世紀末のアフリカを舞台に、西洋による植民地主義の暗部をえぐった本作を、ベトナム戦争に置き換えて換骨奪胎した異色の戦争映画。完成に至るまでの壮絶すぎる経緯は『ハート・オブ・ダークネス コッポラの黙示録』というドキュメンタリー映画になっている。
『地獄の黙示録』は、”狂ったイッツ・ア・スモールワールド”みたいな映画なんですよ。実際、ベトナム戦争という究極のシチュエーションを通して描かれるのは、人間が普遍的に持つ狂気。主人公ウィラード大尉は、カンボジアのジャングルでカルトの教祖となったカーツ大佐を暗殺する任務を命じられ、ボートで各地を巡りながら、あらゆるタイプの狂気的な人物を目撃していくんです。
その1人が、序盤に登場するカウボーイみたいな出で立ちのキルゴア中佐。特に印象に残るのは、彼が「水をくれ」って懇願する今にも死にそうなベトナム兵を目にするシーンです。部下がその要求を拒否していると、キルゴアはめちゃくちゃ怒るんですよ。「水くらいくれてやれ!」って。だけど、「サーファーの米兵が来ましたよ」って報告が入った瞬間、渡そうとしていた水筒をポイっと投げ捨ててしまう(笑)。そして、彼は激しい爆撃が続く海でサーファーの米兵に波乗りをさせるんですよ。そういう狂気とか、不条理の描き方がとてもリアルで。例えば、別に戦地じゃなくても、極限的な状況に置かれているのになぜか別のことを考えてたり、正義のようでただの気まぐれであったりとか、そういう人間のメチャクチャさというのは普遍的にあると思うんですよ。その人間をめぐる変なリアリティがいちいち面白いんです。
ただ、そんな状況下でも、ウィラードだけは傍観者である姿勢を崩さない。自分としてはそこに共感します。テレビや雑誌の取材で僻地に行くと、一緒に行った人たちが騒いだりすることも多いんですが、自分は割と観察しちゃうタイプなので。ウィラードがカーツの拠点にボートで近づくにつれ、体を白く塗った人たちが徐々に現れてきて、現実と非現実の境界を超えていく雰囲気が漂う中、黙ってただそれを見つめているあの感じ、下手に刺激したら何をされるかわからない恐怖を感じながら、冷静に対処するあの感じも、自分は何度も体験しています。
本ならともかく、成長に応じて受け止め方が変わる映画って自分にはあんまりないんですけど、『地獄の黙示録』はまさにそういう作品。だから、少なくとも1、2年に1回は、観るようにしています。
語ってくれた人
佐藤健寿
さとう・けんじ|世界の民俗から宇宙開発まで世界各地の〝奇妙なもの〟を対象に撮影・執筆。代表作は写真集『奇界遺産』シリーズ。その他の著書に『世界』『CARGO CULT』など。2025年末に、これまでの旅を集成した作品集『奇界/世界』を発刊した。
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