TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#4】誰かがいた部屋の清掃をしながら
執筆:伊藤大悟
2026年7月30日
毎朝7時に娘たち(3姉妹)の誰かが目を覚まし、「朝の準備やで、パパ起きて!」と眠たくても強引に起こされ一日が始まる。スーツケースの荷物を開けることなく、いつもの日常が戻ってきた。妻と手分けして、こども園と小学校へ持たせる荷物の準備と朝ごはんをつくる。子どもがいるおかげで規則正しい生活とルーティーンが回せている。子供たちは出来ることも増え、一歩一歩成長を続けている。
学校の送迎が終わり自宅に戻ると、朝食の後片付けをして、メールの返信や宿のスケジュールを確認する。釜山の展示以降、『Void』の予定はというと、写真家の中村寛史さんとの企画以外は全く入れていなかったため、本当に空白のまま、この先どう生きようかという状態だった。一旦『Void』を閉めて、就職も視野に入れて人生を考えるタイミングかもしれないと考える日が続いた。シッピングの支払いや韓国での滞在費の支払いが残っているので、落ち込んで何もしないわけにはいかないが、べッドに横たわり動けない自分がいた。
数日が過ぎ、タウンワークでホテルの仕事を見つけた。応募しようと、伸びた髭を剃り髪をオールバックにして写真を撮影し、職務経歴書や履歴書を準備する。が、採用されず、その後も応募する企業には全く受からない日々だった。そんな中、7月の展示を企画した中村さんに近況や展示の相談も兼ねて電話で話すと、真剣に話を聞いてもらえて、グループ展の詳細などを話す中で「あんた最悪、俺も最悪、我々みんな最悪」というタイトルとメインビジュアルがラインに届き、気分も上がり、前向きに話を進めることが出来た。
電話を切る間際、中村さんは「自分にできる範囲で大悟君を応援したい」と言い、COOLが韓国で展示した絵を購入してくれ、さらに展示の滞在時は僕が運営する『YASURAGI』に宿泊することを伝えてくれた。お金が必要ならと、先に代金も前払いしてくれた。涙がでる嬉しい出来事だった。自分に今できることは作品を売ることと宿に人を呼ぶことだ。
久しぶりに作業をしようと事務所に立ち寄ると、『Tobira Records』の店主である貴大に会った。韓国でのことを話し、事情を説明すると、定期イベント「トビラインストア」に出演する海外のミュージシャンに宿を紹介してくれ、実際に予約が入るなどサポートをしてくれた。展示の印刷物やデザインなどをしてくれてる一野篤さんは「今回のことは文章に書いて本に出した方がいい」と励ましてくれたり、坂口恭平さんは「展示をしていくしかないんじゃない」と話を聞いてくれたり、ラッパーの小林勝行さんは事情を聞かず昼飯に連れ出してくれたり、これまで展示してくれた作家がそれぞれのやり方で手を差し伸べてくれた。いつも話を聞いてくれている親友夫婦にも感謝している。常にサポートしてくれて、お金まで貸してくれた妻やいつも元気な子供たちにもこの場を借りて感謝したい。ピンチのときに励ましてくれる家族や友人がいることは、立ち直っていくきっかけになった。そんな矢先にPOPEYE Webの宇都さんから、このコラムのお話をいただき、日々のことを書くことで、気持ちに整理がつき、前を向いて進む意欲が湧き上がってきた。
おそらくこれからも自分の目の前には未知なることが続くことだろう。全力でいまを生きようと思う。宿泊者がチェックアウトして誰もいなくなった部屋の清掃をしながら、今日も会いたい人や会ってみたい人のことを考えている。
プロフィール
伊藤大悟
いとう・だいご|1986年、兵庫県生まれ。2019年12月、生まれ育った加西市にギャラリー『Void』を開店。展示の企画やキュレーションを日々行う他、2024年4月より同市の田園エリアで一棟貸しの宿泊施設『YASURAGI』を運営する。
Official Website
Void:https://voidkasai.com
YASURAGI:https://yasuragistay.com
Instagram
Void:https://www.instagram.com/void_kasai
YASURAGI:https://www.instagram.com/yasuragi_stay
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