TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#1】釜山からの帰り道
執筆:伊藤大悟
2026年7月9日
朝11時に開店する台湾料理『バオハウス』(田浦駅から徒歩3分)にどうしても行きたくて、釜山から日本に帰る最後の日の昼飯はこのお店と決めていた。1週間近く釜山に滞在し韓国料理以外の味をとにかく体に入れたくなったからだ。チャガルチの骨董屋の店主と仲良くなり話していると、田浦というエリアは韓国の若者たちに人気がある場所で飲食店も多く、行きたい店があるなら送ってくれるという。日本語も話せる韓国人に出合えた嬉しさもあって甘えることにした。
釜山のタクシー運転手は皆運転が荒いが、店主の運転は人柄通りの優しさでゆっくりと景色を楽しむことが出来た。目当ての『バオハウス』に着く。これまで何度かアタックするも毎度長蛇の列で、チケット予約をしても満席で入れず、帰国までにリベンジしようと思っていたから、最後の日にスムーズに入れたことが本当に嬉しかった。柔らかいパンに甘辛く煮込んだ豚肉を挟むクラシックバオは忘れられない味になった。食べ終わり、すぐに金海国際空港に向かう。お土産などで手持ちの荷物が増えていたため、チェックインカウンターで15キロの手荷物検査にひっかかってしまい、急遽スーツケースから荷物を減らし、トートバッグに詰め込めるだけ荷物を移動させたり、追加料金などを払っていると、空港でゆっくり過ごすこともなく飛行時刻はあっという間にきてしまった。
初めて踏み込む韓国の地で、期待や不安を背負って臨んだ海外アートフェア出展という大きなプロジェクトが終わろうとしている。この「Art Busan 2026」のために半年近くの時間を費やし、動いてきた。だが想定よりも作品が売れず、会社のお金や自己資金も無くなり、さらにマイナスになる現実があった。言葉が見つからない。……先に帰国した妻からラインが入る。関空で娘が忘れ物をしたから、インフォメーションで受け取ってから帰ってきてほしいとの連絡。一週間ともに過ごした安野谷昌穂と空港で別れ、娘の忘れ物のサンリオの人形を取りに向かう。無事に人形を受け取り、三ノ宮行きの高速バス乗り場からバスを待つ間、妻とラインをする。
「もう40歳やから自分の夢を追いかけるだけじゃなく、家族を養うということも同時に考えてほしい。同じ家族として、このままでいいのか不安になる。挑戦することは素晴らしいし、やりきった事はすごい事やから頑張ったと思う。ただ、お金や生活が削られたら、心が消耗するから。でもとりあえずお疲れ様!」
妻の真っ当な意見に、ほんまに応援してくれたことに感謝してるよ、と打ってスマホを閉じた。関空からバスが出発し、人の少ない車内には旅行者のアジア人の声がする。景色は日本でもまだ外国にいるような気分で窓から見えるものを眺めていた。雨が降りそうだ。梅雨が近いのか、自分が泣いているからなのか、湿度の高さだけが日本に帰ってきたことを体感でわからせてくれた。
プロフィール
伊藤大悟
いとう・だいご|1986年、兵庫県生まれ。2019年12月、生まれ育った加西市にギャラリー『Void』を開店。展示の企画やキュレーションを日々行う他、2024年4月より同市の田園エリアで一棟貸しの宿泊施設『YASURAGI』を運営する。
Official Website
Void:https://voidkasai.com
YASURAGI:https://yasuragistay.com
Instagram
Void:https://www.instagram.com/void_kasai
YASURAGI:https://www.instagram.com/yasuragi_stay
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