TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#3】釜山の4日間
執筆:伊藤大悟
2026年7月23日
韓国・釜山に到着してすぐに荷物を受け取り、空港内のコンビニで水を買おうと、何気なくその一本を手に取ってレジに向かう。店員さんが韓国語で話しかけてくるが、よくわからず、コンビニを出る。ペットボトルの蓋を開けて口に含むと、水でないことに気が付いた。さっきの店員さんは「お酒だけど大丈夫?」と聞いてくれていたのかもしれない。「BEXCO」に向かうタクシーの運転手にチャミスルという酒だと教えてもらう。会場についてからもスタッフの方に昼間からお酒ダメ! みたいなことを言われ水をいただく。
会場では各ブースの設営が始まっていて、緊張感と慌ただしさの醸す空気に飲まれそうになる。思っていた以上にブースは大きい。照明の数が足りず、受付で追加の照明器具代などを支払ったりと、いきなり想定していない出費が嵩む。無事に届いた作品の梱包を開けて、事前に考えていたレイアウトに沿って配置していく。休む暇もなく、気が付くと搬入時間の終わる時刻まで作業していた。釜山に着いてから雨が降り続き、止む気配はない。お腹が減ったので、滞在する宿に荷物を置き、会場から近い焼き肉屋で作家たちと夕食を食べる。明日に備えて、食事が終わると早々に宿に帰った。
アートフェア初日の朝、この日も天気は悪く雨が降っていた。会場に早めに行き、まわりのギャラリーの方や日本から来ているアーティストの方と挨拶をしたり名刺の交換をすることができた。義理の弟が作家でギャラリー運営(MATTER)もしていた関係で、弟の知り合いや韓国の友人に出会うことができて、異国でも和やかなムードが漂っていた。知り合えた方たちの作品はどれも気になる作品が多く、魅力があった。
エントランスは長蛇の列で、続々と人が会場に流れてくる。どの人がアートコレクターなのかわからないが、自分たちのブースに足をとめてくれる方が何人もいた。4日間のうち3日間は韓国語を話せる通訳の方を入れていた。明るく積極的に話してくれたおかげで初日に作品が売れ、良いスタートが切れた。2日目は全体的に人も少なく、ソウルで初開催されていたアートフェア「HIVE」の影響もあるのかもしれない、とソウルのギャラリーの方が教えてくれた。「ART BUSAN」主宰の方も気にかけてくれて、作家のプロフィールを韓国表記に変え、バックヤードの印刷機を借してもらうなどサポートしてもらった。レセプションパーティの他にも、ギャラリーオーナーとアートコレクターをつなぐ会食にも連れ出してもらったが、うまく会話ができず、英語すらまともに話せない自分の至らなさを痛感する。宿に戻り、就寝すると、悪夢をみたのか全く覚えていないが、「絶叫していましたよ」と隣で寝ていた安野谷昌穂に言われ、気が付くと着ていたTシャツも汗で濡れていた。
釜山の天気は相変わらず良くない。中国の大きなギャラリーの方はCOOLの作品を気になったようで、彼女に大量のお菓子を持って挨拶に来られたり、安野谷昌穂も大きな財団の方と話ができたりと、出展したアートフェアの規模の大きさはとても感じることが出来た。だが2日目以降は作品が売れず、残酷にも、時間は過ぎていく。最終日、主催者に特別に許可を得て、壁にドローイングを描くパフォーマンスをすることで沢山の観客に観てもらうことが出来た。自分達のできる限りのことを出し尽くすも、アナウンスの声が聞こえ、アートフェアは幕を閉じた。終了と同時に搬出作業が待ったなしに始まり、会場が次々と解体されていく。休む間もなく作品を梱包し会場を出た。宿に戻り汗だくのスーツを脱ぎ、身支度を済ませ、作家たちとタクシーで海雲台に向かった。海雲台の長いビーチには沢山の人がただ海を眺めたり、お酒を飲んだりして過ごしている。自分たちも同じように浜辺に座り、あまり言葉を交わさず、柔らかく掴み切れない砂で戯れたり、宿へのタクシー代をかけて、砂浜で全力疾走して過ごした。この夜のことはきっとこの先も忘れることはないだろう。
プロフィール
伊藤大悟
いとう・だいご|1986年、兵庫県生まれ。2019年12月、生まれ育った加西市にギャラリー『Void』を開店。展示の企画やキュレーションを日々行う他、2024年4月より同市の田園エリアで一棟貸しの宿泊施設『YASURAGI』を運営する。
Official Website
Void:https://voidkasai.com
YASURAGI:https://yasuragistay.com
Instagram
Void:https://www.instagram.com/void_kasai
YASURAGI:https://www.instagram.com/yasuragi_stay
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