ファッション

ミニマルなデザインゆえに多彩なカルチャーと結び付き懐が深いのもアメカジならでは。

Perspectives on “AMEKAJI”

2026年6月1日

Made in U.S.A. catalog 2026


photo: Hikari Koki
text: POPEYE
2026年6月 950号初出

出合った年代、入り口になったアイテムによりそれぞれの“アメカジ観”があるに違いない。愛着のある“アメリカもの”を見せてもらい、話を聞き、アメカジをとことん考えてみよう。

「アメカジは日本の文化が作り上げたもの。アメリカの服装をきちんとリサーチして、いろんな組み合わせを楽しめるスタイルとして提示した。ミリタリージャケットやデニムパンツなど、アメリカもののよいところも悪いところも知った上で、日本人の解釈で生み出されるプロダクトはとてもユニークで、オリジナル性が高く、質感も優れています」

「ビームス」のレーベル〈フェニカ〉のディレクターを経て、高円寺で『MOGI Folk Art』を営むテリー・エリスさん。日本を中心に世界のクラフトやアートとともに、ミリタリーやワークベースの服が並ぶ店内は、触れてきたファッションとカルチャーが多岐にわたり、それを結び付ける知識と感性の豊かさを示す。「アメカジとは何だと思いますか?」という問いに対して、エリスさんは即答だった。

「東洋エンタープライズが第2次世界大戦仕様のデニムジャケットを作ったとき、その時代らしさを自然に出すために、あえて雑に縫っていた。生地を含めて、この再現性はアメリカのブランドではなかなかできない。糸から“復刻する”ほどの技術は、間違いなく世界最高峰でしょう」

〈フェニカ〉時代にエリスさんが〈オアスロウ〉に依頼したカバーオールは、高円寺で見つけた戦時中のモデルがベース。「物資節約の観点からボタンが少ないのが特徴。長過ぎず短過ぎない丈感もこだわり」

 1962年、エリスさんはアメリカと距離的に近いジャマイカで生まれて、7歳でイギリスへ移住。ファッション的に多感な時期をロンドンで過ごした。

「イギリスでアメリカものといったら、真っ先にモッズパーカ(M-51やM-65)が挙がると思います。ただ、当時はアメリカのものという意識より、単純に若者のスタイルの一つとしてしか見ていなかった。映画や音楽からアメリカの情報は入ってくるけど、“実物”を目にする機会はほとんどない。10代後半くらいから、アメリカの古着に触れる機会は増えていきましたね。ただ、自分はコンテンポラリーな服、つまりアメリカ人がその時着ているものが欲しかった。最初に新品で購入したアメリカの洋服はMA-1ですが、それは’80 年代のロンドンのカルチャーシーンを牽引したクリエイティブ集団・バッファローの影響が大きい。彼らはMA-1にホワイトジーンズが定番スタイルで、自分もブラック、ネイビー、オリーブの3色を持っていました」

〈フェニカ〉時代にエリスさんが〈オアスロウ〉に依頼したカバーオールは、高円寺で見つけた戦時中のモデルがベース。「物資節約の観点からボタンが少ないのが特徴。長過ぎず短過ぎない丈感もこだわり」

〈フェニカ〉時代にエリスさんが〈オアスロウ〉に依頼したカバーオールは、高円寺で見つけた戦時中のモデルがベース。「物資節約の観点からボタンが少ないのが特徴。長過ぎず短過ぎない丈感もこだわり」

「ワークやミリタリーは作りがラフなものが主流。ただ、余計なものがない、いい意味で簡素な作りこそが長所なのだと思います。そして、アメリカものを身につけると“自由”を感じました。開放的な気持ちになれるというか。イギリスではテーラードはもちろん、ワークウェアも制約が多くて少し窮屈ですね。あと、とにかく値段が安いのもよかった。その後、『ビームス』の仕事をするようになって、おそらく重松(理)さんが買い付けたものだと思うけど、原宿のショップのショーケースの中にディスプレーされた黄色いダウンパーカがありました。それに触れてみると、素材感や細かい作りなどがまったく違うなと。アメリカの最上級のプロダクトはこういうものなのだと知ることができました」

エリスさんの視点からスナイパージャケットをアレンジした〈バズリクソンズ〉の一着。「オリジナルはポケットが多く、ともすればデザインが先走るから、そこをいかに自然に見せるかを考えて作りました」

 ロンドン時代から買い集め、高円寺でも古着屋をよく覗くなど、ミリタリーやワークを中心にヴィンテージを多数所有。それらの中からベースを選びながら、そこに手仕事やクラフトマンシップを落とし込むのが、〈フェニカ〉の頃からずっと変わらない、エリスさんらしさだといえる。

「この年代だからこういうディテール、というものがあって、’50年代、’60年代、’70年代における意味や差異を探るのはすごく面白い。ただ、細部を追求しての完璧な復刻は他でもやっているので、いかに自分たちなりの味付けをするか。今日持ってきたフライトジャケットは、〈フェニカ〉時代に〈バズリクソンズ〉に作ってもらった一着。着込まれたヴィンテージでは、中のウールが下に落ちていることが多い。この偶然的なものを再現したくて、あえてウールを下のほうにちょっと多めに入れてもらいました。リブもタイトに仕上げず、中間くらいの緩さで編んでもらって。フライトジャケットのワッペンはアメリカ的なモチーフが主流だけど、これは自分が持っている、四国の郷土玩具の連凧に描かれた“龍の顔”。しかも、加賀友禅の着物の絵付と同じ手法で手描きしてもらったもの。単なるアメカジ的な一着ではなく、ハイブリッドというか、いろんな要素が合わさっています。こんなふうに自由度があり、懐が深いのも、元になるミリタリージャケットの機能に基づくデザインの完成度が高いからでしょう。これもまた、アメリカものの魅力なのだと思います」

こちらの〈MOGI〉のジャケットはファーストサンプル。’80年代の〈L.L.ビーン〉のハンティングジャケットがモチーフ。襟裏のフックも再現。「この年代の〈L.L.ビーン〉は見逃されがちだけど、面白いです」

プロフィール

テリー・エリス

『MOGI Folk Art』オーナー

1962年生まれ。’80年代半ばに出会った北村恵子氏と「ビームス」のバイヤーに。2022年、高円寺に『Mogi Folk Art』をオープン。『MOGI & MOGI GALLERY SHOP』も営む。

Instagram
https://www.instagram.com/_terry_ellis_/