ファッション

音楽を通して惹かれたアメリカ。現地の生活に根付いた“本物”に触れ70歳を過ぎた今、ようやく似合ってきた。

大久保篤志/Perspectives on “AMEKAJI”

2026年6月2日

Made in U.S.A. catalog 2026


photo: Hikari Koki
2026年6月 950号初出

出合った年代、入り口になったアイテムによりそれぞれの“アメカジ観”があるに違いない。愛着のある“アメリカもの”を見せてもらい、話を聞き、アメカジをとことん考えてみよう。

「最初にアメリカでいいなと思ったのは、これ。高校生のときに見た、オールマン・ブラザーズ・バンドの『Brothers and Sisters』。70歳を過ぎて、ようやく自分も“この世界”に入っても大丈夫じゃないかな、みたいなさ」

 大久保篤志さんがジャケットを広げて見せてくれた横長の写真には、思い思いにデニムを身につけた男性と女性がずらりと並んでいる。“こなれた”という言葉では物足りない、それぞれが積み重ねた“ライフ”が滲み出た着こなしだ。

大久保さんのインスピレーション源のジャケット写真。1枚目はジョニー・ウィンターのライブ盤。ジャケットにタイトなフレアジーンズのハマり具合たるや。2枚目はオールマン・ブラザーズ・バンドの『Brothers and Sisters』のジャケットを見開いたところ。大久保さんがアメカジを感じる写真の一つ。3枚目はザ・バンドの『THE BAND』。まさに板に付いたスタイルの体現。

「いろんな服に触れてきて、やっとアメリカンカジュアルをうまく着こなせるようになった。思えば、“こういう人”を追い求めて東京に来たんですよ」

 大久保さんが札幌から上京したのは1975年。ちょうど二十歳の頃だ。そして、『Made in U.S.A. catalog』が発売された年でもある。

「“本物の本物”を知ることができたのは大きかった。リジッドの〈リーバイス〉の501を洗濯したら、いきなり劇的に縮まって。ヨレもすごくて、生地も毛羽立っちゃって。あれ? これは違ったなと。はいてみたけど、結果的に好みではなかった」

 ただ、翌年創刊された『ポパイ』、そして誌面でアメリカ製プロダクトを取り入れた斬新なスタイリングを提案した北村勝彦さんの存在が、大久保さんに“行くべき道”を示したという。

「ラガーシャツやワークパンツ、『ポパイ』はアメリカの現地の人たちのリアルな着方を見せてくれたよね。北村さんはダウンベストやマウンテンパーカを『こうやって着るんだ!』と教えてくれた」

 程なく『ポパイ』に携わるようになるも、大久保さん曰く、「首になってさ」。女性誌『アンアン』で本格的にスタイリストとして活動を始めた。

「その頃はイタリアものが好きで。フランスだけど、デニムなら〈マリテ+フランソワ・ジルボー〉。ヨーロッパのフィルターを通して、アメリカ的な質実剛健さを変化させるというか、また違った表現をする。それが新鮮だった」

 初めてアメリカの地を踏んだのは20代後半の頃。

「トラッカーのキャップのかぶり方やワークブーツの履き込まれ具合、〈ディッキーズ〉のワークパンツのはき方とか、やっぱり本物だと思った。ただ、ダイナーの目玉焼きとカリカリベーコンのブレックファストや薄いコーヒー、泊まったモーテル、あのときは洋服以外のほうがより印象に残ったかな」

手前は〈ディッキーズ〉で、奥は〈ベン・デイビス〉のワークパンツ。すべてアメリカ製。「アメリカでリアルにはいている人を見た“記憶”と繋がるものだけを手元に残しています」

 ’80 年代中盤には〈ワイズフォーメン〉のカタログのスタイリングを担当。自身もDCブランドを着こなすなか、アメリカでのロケ撮影も増えていった。

「LAに行ったときなんだけど、何げなく歩いている人たちがやたらと格好よくて。周りを見渡す余裕ができたんだろうね。ローカルブランドのジャケットとボタンダウンシャツに、ワークパンツやチノパンを合わせたり。別にオシャレをしているわけじゃないんだけど、地に足が着いている感じ。リアルな生活に根付いた服であり、スタイルなんだよね。で、帰国後に“瞼のアメリカ”を思い浮かべながらやってみようと。もう少し後の話だけど、ワークパンツの腰ばきをものにしようと思って、サイズをいろいろ試しながら、なかなか位置を決めるのが難しくて。でも、その過程も楽しみました」

タグ付きデッドストックのアメリカ製の〈ディッキーズ〉のワークパンツ。エンジ色の一本は、現在はなかなかお目にかかれない。リンカーングリーンは大久保さんの好きなカラーの一つ。

 2004年、大久保さんが主人公のスタイリングを担当したドラマ『プライド』を通して、アメカジは再び脚光を浴びることになる。

「木村(拓哉)くんがアイスホッケー選手を演じるということで、〈テンダーロイン〉がホッケー映画『スラップ・ショット』をテーマにした服を出していたので、衣装としての使用を打診して。ホッケーシャツやバッファローチェックのネルシャツを、木村くんに着てもらいました。LAで古着バイヤーもしていた西浦(徹)くんとロンドンで経験を積んだ辺見(馨)くん。アメリカでは単なる下着のロングスリーブのサーマルTシャツを絶妙に厚手にして街着にした感覚とか、二人の目を通して、既に出来上がっているスタンダードを再構築していて、それが抜群に格好よかった。自分も〈テンダーロイン〉を着て、また“瞼のアメリカ”を追いかけ始めたね」

 前述の「脚光」という平板な言葉で表現できないほど、当時の若者は大久保さんが手掛ける“アメカジ”に夢中になった。最後に、大久保さんに、アメカジが似合う人の条件を聞いてみた。

「どうだろうね……、バイカーかな。西浦くんも辺見くんもバイクに乗るでしょ。長濱治さんが撮影した “ヘルズ・エンジェルズ”の世界がいいのかもね。俺はまた違う。好きなミュージシャンのスタイルに立ち返り、刺激を受けながら、〈シュプリーム〉や〈ラルフ ローレン〉などを混ぜていく。好きなアメリカの世界は、やっぱりこっちだから」

大久保さんが愛するアメカジ的なアイテムとして、チェックシャツは欠かせない。素材としては王道のフランネルもあれば、軽やかなポリコットンなども。多彩な柄や色合いを所有しているが、今回は明るいカラーリングをチョイス。どれもグッドコンディション。一枚一枚、きれいに畳み、それぞれを袋に入れて保管している。

プロフィール

大久保篤志

スタイリスト

おおくぼ・あつし|1955年生まれ。’79年に『ポパイ』で北村勝彦氏に師事し、’81年にフリーのスタイリストとして活動を開始。5月15日、自伝『The Stylist』を上梓する。

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