TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】靴のままの暮らし「武器は捨ててお入りなさい。」

執筆:武末充敏

2026年5月31日

「靴のままの暮らし」ケーモー運動の旗揚げは、2008年だった。築40何年の中古マンションで、遠くに油山や背振山が見わたせる絶景の6階にある角部屋の改装から始めた。

 まず、間取りや床を含めて、内装をスッカラカンの剥き出し状態にした。ぼくにサイ・トゥオンブリの存在を教えてくれた友人の画家YABUさんは「これでイイ、このまま行きましょう」といったが、電気の配線コードがサイ・トゥオンブリ風にあちこちに垂れ下がってはいるものの、いくらなんでもなので却下。必要最小限にマストなアイデアだけを加味、ゴージャスやミニマルはノーサンキュウで使いやすい75平米の普通の部屋が完成した。表札はもちろん“ENOUGH”だ。

 せっかくだから、イヴェントもやった。大阪〈graf〉の服部滋樹さんも巻き込んだナラティブなワークショップや、福岡の建築家 井出健一郎さんの「デザイニング展」に参加したりもして、確か一等賞の往復エアチケットをもらい、東京で遊んだり、その東京では自由学園の「STOCKISTS」にも参加したりして、オッサンと妻さん、それにENOUGHの面々はようガンバリハッタ。

 その後のENOUGHの3人は、各々が緩やかな「組合的立ち位置」に戻りながら、福岡中心部の資本主義的超近代化ビル群を辛口に批評しつつ、現在に至っているのである。

 もうこの辺でわたしのロンブン「靴のままの暮らし」を終わる予定だったが、最後に余談です。

 お分かりかと思うけど、私は外国という「外部」が好きだったらしい。中学生時分から世界地図を見て、こんなにいっぱい「国家」があって、なぜか国境が曲がりくねったり直線だったりで、人種や宗教も違い、景色や食べ物も習慣も違うことにギモンを持ったのか。行ったこともない国々の首都の名前を片っ端から覚えて学校の先生から褒められ、いつかきっとアッチコッチ行ってやるぞ、覚えとけと自分に圧をかけた。

 外部好きはやはり音楽から始まった。小学生の自分をふとふりかえると、平尾昌晃の「ランニング・ベア」というアメリカのヒットソングの焼き直しと、三橋美智也の「古城」という「コブシを効かせた民謡系」の歌に反応した。国境をまたいだ歌にジーンと来てしまい、どちらも胸キュンだった。焼き付けとはいえ、戦後民主主義ニッポンの世相に、ちっちゃな矛盾を持たされたといえばカッコいいのか。

 高校での決定打はビートルズだった。取り急ぎ3人でビートルズのコピーバンドを結成、日曜日の幼稚園で“オール・マイ・ラビング”というとてつもなくムズカシイ曲に挑戦したが、あまりの不評に涙を飲んだ。大学ではベトナム戦争と全学連の嵐のようなイデオロギー旋風を尻目に、オリジナルの「日本語のロック」を目指し「葡萄畑」なるバンドをこしらえて、あれあれという間にアルバムデビューを果たした。“はっぴいえんど”と“はちみつぱい”の間隙を狙ったラインは、ちょこっとだけ日の目を見たが、2枚目を出して帰郷した。

 福岡に戻り、自動車の免許をとり、新聞の求職ページを毎日ながめているうちに、輸入レコード屋へのお誘いを受け、ラッキーとばかり就職し、出始めたばかりのワールドミュージックをワサワサ聴きまくり、イスラム圏のコブシとビートに涙し、フランスのセルジュ・ゲンズブールやピエール・バルー、ドイツのCANのようなニッポンでは流行らないヘンテコなやからに勝手な友情を抱くことになった。そして、世界は広いけど、音楽で世界一周すると「良い音楽とは悲しいもの」とガテンした。

 そうこうしていたら、とんでもない事件が起きた。ジョン・レノンがJ.D.サリンジャーの本『ライ麦畑でつかまえて』を携えた青年に射殺されてしまったのだ。なんという不条理だといってみても始まらない。この世は不条理劇の舞台なのだから。

 さてさて、おわりにひとこと。生前、何度も日本を訪れたジョン・レノンである。ヨーコさんや平和憲法を通じて日本へのシンパシーを持っていたと想像したい。しからば、「靴を脱ぐ日本」をジョンはどう思っていたか、わたしは訊ねてみたかった。そうしたら、きっとジョンはこう答えてくれたに違いない。

「靴は脱いでも脱がなくてもいいけど、武器は捨ててお入りなさい」。

プロフィール

武末充敏

たけすえ・みつとし|1949年、福岡県博多区生まれ。70年代にバンド「葡萄畑」を結成し、〈ポリドール・レコード〉よりアルバム発表&東京日暮らし。その後、福岡に戻り『タワーレコードKBC』に勤務。“家具の音楽”を目指し「フラットフェイス」というユニットでMIDIよりレコード発売。バブル崩壊後、何はなくとも我が家があるさ、と自宅にて『organ』 なるインテリアショップをはじめる。現在は福岡在住のデザイナーと“靴のままの生活”を推進する活動ENOUGHや、ZINE作りを試行する。

Official Website
https://organ-online.com/

Instagram
https://www.instagram.com/organ_fukuoka/