TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#2】靴のままの暮らし「スリッパの存在」
執筆:武末充敏
2026年5月17日
ヒトンチへおじゃまして玄関に入ると、ちょっと段差があり、板張りにスリッパがきれいに並べられている。ない場合もあるが、かといって靴のまま上がることはハバカラレルので、おとなしく履くが、ほんとうは履きたくない。
ヒトンチのスリッパはずっと前から苦手だった。水虫をうつす、もしくはうつされる可能性もあり、腰が引けるが、履かないわけにもゆかないから履くが、つるつるの床だと滑りそうだし、ましてアップリケ付きのやつだと気が滅入る。だから、ソックスだけで上陸することがある。しかし、これはこれで礼儀知らずと思われるし、冬だと足がウスラ寒い。なによりも、せっかくモダンで素晴らしいと噂のお宅だからと、Youji Yamamotoのジャケットを着てきたのに、HOKAの厚底靴を脱いでしまうと途端に背が低くなる。つまり見通しが立たなくなるが、生まれつき胴長だからしかたがない。
リビングに通されると、そこにはポール・ケアホルムのPK22という憧れの椅子が鎮座していたりするから要注意だ。スリッパでの接近は、油断すると、おもわずステンレスの鋭利な脚先に激突し、足先の指に血豆など甚大な損害をおよぼすだろう。かといって「痛い!」と声を出すのも御法度、じっと我慢が肝要になる。特に初めての訪問だと、相手は「他者」ではなく、まだ「他人」の段階だから、オオゴトにしてはならない。外から来たストレンジャーは礼儀をわきまえるべし! そういえば、むかし家具商売仲間のNarita君が言っていたっけ「ケアホルムの椅子は日本では使えない」って。
思い出すと、「内:ウチ」と「外:ソト」をシッカリ分けるのが「ニッポン伝統の家屋である」という持論を持つモダン建築家がいた。これは「なるほど!ザ・ワールド」でありますが、内と外を厳格に設定するっていかにも島国人でもある。紀元前から大陸中国から稲作やインフラなどいろんな恩恵を受け、それを我流でこなしてきた知恵のニッポンであることを忘れたかのように、中国における靴とベッドの生活は受け入れなかった。これは好奇心旺盛だった「倭人」としては知らなかっととは言わせない。試してみることはスリルがあるし、上手くハマったらそれが普通になる。他者の影響を自分のものにしてしまえ! アッ、靴を脱ぐ生活否定論者め!
我が『organ』は店だけども、住まってもいるのだから、どっちも土足である。おかげで「私」と「公」の区別もつきにくいが、そこが悪いとはまったく思っていない、掃除もわりとまめにやるべしを遂行しておる! 窓拭きは面倒だけど。
そういえば、今はそうでもなくなったけど、昔はドアを開けて「オジャマします」というお客がいらっしゃって「どーぞ」と返すと、「このまま入っていいんですか」と返されて恐縮したこともあったっけ。敷居を高くしているつもりなどなく犬もいるし、靴のまま入っていただく物置部屋なので遠慮などはご無用なんです。
プロフィール
武末充敏
たけすえ・みつとし|1949年、福岡県博多区生まれ。70年代にバンド「葡萄畑」を結成し、〈ポリドール・レコード〉よりアルバム発表&東京日暮らし。その後、福岡に戻り『タワーレコードKBC』に勤務。“家具の音楽”を目指し「フラットフェイス」というユニットでMIDIよりレコード発売。バブル崩壊後、何はなくとも我が家があるさ、と自宅にて『organ』 なるインテリアショップをはじめる。現在は福岡在住のデザイナーと“靴のままの生活”を推進する活動ENOUGHや、ZINE作りを試行する。
Official Website
https://organ-online.com/
Instagram
https://www.instagram.com/organ_fukuoka/