ライフスタイル

家の猫の話 Vol.28/文・ピエール瀧

2026年6月5日

家の猫の話


photo & text: Pierre Taki
edit: Ryoma Uchida

ある晩のこと。
出かけていた嫁が帰ってくるなり、「大変。今、家の前の道で黒猫の子猫を見た」と、興奮気味にリビングにかけ込んできました。

話を聞いてみると、家の前の暗がりの路上にまだ子供くらいの黒い野良猫がいて、嫁の姿を見ると慌てて斜め向かいの家の隙間に逃げ込んでいったとのこと。「なぬ?マジでか⁈」と、二人でベランダに出て、そちらの方向をしばらく観察してみましたが、これといった動きは特になく、静かな夜が続くばかり。

「なんとかして手なづけられないかな~?もしうまくいったらウチで保護して飼おうよ」という提案が秒でまとまり、試しに嫁が猫のカリカリを少しばかりプラスチックの器に入れ、挨拶がわりに玄関のとこに置いてみることにしました。しかし、その晩は1時間おきに器をチェックしに行っても何の変化もナシ。

しかし翌日、起きてから玄関の器を確認してみると、なんとすっかり空っぽになっていました。嫁とオイラは「これは可能性があるんじゃないか?しかし用心深い猫だ。まあ、野良なんだから仕方ないかも」なんつって、翌晩も同じ場所に器を置いておくことにしました。今回はお皿に入った水も添えて。

翌朝、嫁が器を確認しに行くと、またしても空っぽになっていました。この事実に夫婦揃ってテンションが爆アガりし、その晩の器はより玄関の近くに置いてみることにしました。これを数回繰り返して猫の警戒心を徐々に解き、最終的には玄関ドア付近までおびき寄せ、距離が最も近づいたところでドアを開けて猫をゲットする作戦です。

翌日も器は空っぽになっていました。しかしここで、嫁が重要なことに気がつきました。「玄関の監視カメラに姿が写っているかも」。確かに。ウチの玄関には監視カメラが設置してあり、カメラに映っている画角のエリアに動きがあると、動作検知で自動的に動画が作成されるようになっているのです。

嫁と監視カメラの端末を操作して、昨晩の録画結果を確認してみました。

いた!確かに監視カメラに暗がりから姿を現した猫が写っていました!
しかしその猫は、黒猫でも何でもなく、割と大きめの白地に黒いブチがある見たこともない大人の猫でした。身のこなしもどことなく優雅で、落ち着き払ってウチの玄関の方に向かい、しばらくするとのっそりと元来た方向に帰って行きました。

どうやらその猫は近所のどこかの家で飼われている飼い猫らしく、野良猫特有の警戒心も全くありませんでした。飼い主から散歩タイムを与えられて、近所をいつもの感じでパトロールしている最中に我が家のカリカリの器にたどり着いたようです。そりゃ食いますわ。

それ以来、カリカリを玄関に置くことはやめました。でも、黒猫が消えていった家の隙間あたりに心を向ける日々が続いています。

プロフィール

ピエール瀧

ぴえーる・たき | 1967年、静岡県出身。1989年に石野卓球らと電気グルーヴを結成。道行く人に「あなたのオススメは?」と尋ね、その返答の通りに旅をするYouTube番組『YOUR RECOMMENDATIONS』が好評配信中。著書に『ピエール瀧の23区23時』(産業編集センター)、『屁で空中ウクライナ』(太田出版)など。『地面師たち』(Netflix)、映画『宝島』(大友啓史監督)映画『ホウセンカ』(木下麦監督)のほか、5月上演予定の舞台『はがきの王様』など多数出演。

電気グルーヴ公式ウェブサイト
https://www.denkigroove.com/