TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#3】靴のままの暮らし「“ENOUGH”の旗揚げ」
執筆:武末充敏
2026年5月24日
「靴のままの暮らし」にアコガレタのは、J.L.ゴダールの映画『勝手にしやがれ』のせいだ。J.P.ベルモンドがJ.セバーグのベッドに靴を履いたまま寝っ転がるシーンに出会ったからだろう。勝手にしやがって、いいなあと思った。
そしたら、Ikeさんという大阪人で、アメリカに渡り、遅れきたヒッピー暮らしをタップリ堪能し、なぜか福岡にたどりついたバガボンドに出会い友人となった。彼はドレスダウンしたファッションにかけてはピカイチで、大阪弁をやめなかった。なにより「土足暮らし」を遂行していた。
ある日、彼の安アパートに招待され、靴を脱いで上がろうとしたら「そのままでエーヨ」と言われ、そうした。二間くらいの部屋は畳の上にクタビレタ絨毯がひかれていて、ボロいが悪くないセンスのソファーがあった。彼は言った。「ぼくはファッションで、自分(関西弁で君)は音楽で一緒にフクオカを席巻しよう」と。おい、マジかと思った。
Ikeさんは、まだ無名だったフランソワ・ジルボーのフレンチ流インディゴ・ジーンズをヒットさせ、私はニューウェィブに夢中になり、自宅でひとり朝までカセットの多重録音にハマっていたら歌姫に出会いFlat Faceというユニットでレコードをこしらえた。アレンジや演奏もほぼ火事場の馬鹿力でやった。そうしてたら、勤めていたレコード店が潰れた。困ってしまい、自宅でレコードやC.イームズの椅子なんかをアメリカで仕入れ、1998年だったか、『organ』という名前で店を始めた。土足の自宅なので、なんとなくそのまま店になった。
『organ』の客はポツポツだったが、そのうちに気になる若者が現れるようになった。たとえば田中純二。店内をサクッと見てまわり「これとアレください」と即断の人だった。工務店を営む家の次男で、ある日、突然自作の木製キャビネットとハリー・ベルトイアみたいなワイヤー・オブジェを持ってきた(ちなみにこれは『プレイマウンテン』の中原さんが買ってくれた)。
野見山聡一郎は寡黙にレコードを買うヒトだったが、じつは大学仲間とDJイヴェントをやったり、卒業制作ではG.T.リートフェルト的なキャビネットを製作し、現在はグラフィックの仕事もこなす。
そして趣味のバンドでボーカルをやっていた有吉祐人。ちょっと前の雑誌ポパイで取り上げられたブックスタンド「Ari-Maga rack」をデザインすることになる人なのだが、 彼もある日、デザインした十字形のキュートなスツールを持ってきた。今では、カフェやおいしいパン屋さんの内装デザインですでに50万キロ(!!)走ったマツダの軽に乗ってあちこち飛び回っている。
この3名に共通するのは“音楽とデザイン”が好きだということだろう。つまり「形のないモノと、ある物」ドッチモ好みということか。それにしても、音楽から家具屋に転身した私と一緒に「靴のままの暮らし」の旗揚げに参加することになるとは、お釈迦様だけが知っていたのか。待てよ、たしかこの3名は今に至っても「靴のままの暮らし」を実行しようとしないのだ。こまわり君的には「死刑!」である。
プロフィール
武末充敏
たけすえ・みつとし|1949年、福岡県博多区生まれ。70年代にバンド「葡萄畑」を結成し、〈ポリドール・レコード〉よりアルバム発表&東京日暮らし。その後、福岡に戻り『タワーレコードKBC』に勤務。“家具の音楽”を目指し「フラットフェイス」というユニットでMIDIよりレコード発売。バブル崩壊後、何はなくとも我が家があるさ、と自宅にて『organ』 なるインテリアショップをはじめる。現在は福岡在住のデザイナーと“靴のままの生活”を推進する活動ENOUGHや、ZINE作りを試行する。
Official Website
https://organ-online.com/
Instagram
https://www.instagram.com/organ_fukuoka/