カルチャー
金子由里奈は『バード ここから羽ばたく』を観て鳥との向き合い方を改めた。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.27
2026年7月4日
illustration: Dean Aizawa
text: Keisuke Kagiwada
edit: Togo Uchida
毎週、1人のゲストがオリジナリティ溢れる視点を通して、好きな映画について語り明かす連載企画「今日はこんな映画を観ようかな。」。今回は映画監督の金子由里奈さんが、昨年日本で公開されたイギリス映画『バード ここから羽ばたく』を紹介してくれた。
今日の映画
『バード ここから羽ばたく』
(アンドレア・アーノルド監督、2024年)
やり場のない孤独を募らせる12歳の少女ベイリーが、服装も言動も奇妙な謎の男バードと出会ったことで体験する、魔法のような4日間の物語。監督は『フィッシュ・タンク』『アメリカン・ハニー』などで知られるアンドレア・アーノルド。
私が作る映画には、よく植物や石が登場するんですね。自分でもうまく言葉にできてなかったのですが、『バード ここから羽ばたく』を観て、その理由が少しわかった気がしました。
実際、『バード』は画面の中を人間以外の存在が占める時間が多いんです。鳥が飛んだり、虫が現れたり、植物が風に揺れたり……。そういう他者と出会うことで、人間の見方や感じ方が壊され、同時に開かれていく。そのことを、とても身体的に描いている感じがあったんです。かといって、動物を特別視するのではなく、人間も動物も、ただ異なる感覚を持つ存在として見つめている。その距離感にとても共感して、自分もこれをしたかったのかもと思ったんです。
物語自体も身体的に設計されている気がしました。父と2人で貧しく暮らす12歳の少女がバードと名乗る不思議な男性と出会うってお話なのですが、冒頭では彼女が鳥を見る姿を通して、「飛びたい」「自由になりたい」みたいなことを表現していたり。「今この瞬間、この人はこれを感じたい、知りたい、楽しみたいんです」ということに重きを置きながら物語が進んでいくのも、すごくよかったです。
だからこそ、壁の落書きや家族との何気ないやり取りを通して、主人公が受け取る「Don’t worry(心配ないよ)」というメッセージも、「問題は解決するよ」って意味ではないと思うんです。貧困も葛藤も続いていく。それでも、生きている身体があり、風を感じたり、誰かと出会ったり、何かを見つめたりすることはできる。その身体があるから「心配ないよ」って意味なんじゃないかなって。
ちなみに、私は父にヒッチコックの『鳥』を観させられて以来、鳥が苦手なんです。道で鳥を見かけると避けて歩いてしまうくらいですが、それは自分にとって予測不可能な動きをするから。『バード』を観たことで克服できたわけではありませんが、この映画のように自分とは違う感覚を持つ他者なのだと思って向き合えば、もう少し近づけるかもしれません。
語ってくれた人
金子由里奈
かねこ・ゆりな|映画監督。1995年、東京都生まれ。2018年、女性の若手映画監督15人による短編からなるオムニバス映画「21世紀の女の子」で公募枠から監督に選出され、「projection」を制作。その他の監督作に、『散歩する植物』『眠る虫』『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』。現在、新作映画を準備中。
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