カルチャー

目指せGEEK WATCH図鑑!!! Vol.55

写真・文/久山宗成 a.k.a. Donald

2026年9月30日

photo & text: Muneaki Kuyama a.k.a. Donald
Guest portrait photo: Takeshi Uematsu
edit: Yukako Kazuno

〈ロレックス〉や〈カルティエ〉の名品を知りながら、古い〈CASIO〉や「G-SHOCK」、誰も知らないようなデジタルウォッチにも同じように心を奪われる。

ファッションキュレーターPOGGY氏の時計選びには、価格やブランドでは測れない独自の基準がある。その原点は高校時代の「G-SHOCK」と「データバンク」。そして世界を飛び回り、海外のファッション関係者たちと接するなかで改めて気付いた、日本のプロダクトの面白さだった。

今回は、POGGY氏の私物を眺めながら、時計とファッション、そして“GEEKなものを選ぶ理由”について話をお伺いしました。

ドナルド:POGGYさんって、ファッションのイメージからすると、もっとラグジュアリーな時計をしていそうじゃないですか。どうして「G-SHOCK」や古いデジタルウォッチにも惹かれるんですか?

POGGY:原点は高校生の頃ですね。最初に「G-SHOCK」を買って、そのあと〈CASIO〉の「データバンク」を買って、ずっと使っていました。当時はまだ時計が必要だったし、安くても格好いいものがいっぱいあったんですよね。20代になると、先輩たちが〈ロレックス〉をしているのが羨ましくて、借金して「サブマリーナ」や「GMTマスター」を買ったこともあります(笑)。でも、お金がなくて身の丈に合ってなかったこともあり、売ってしまいました。

写真左  1980年に発売された〈SEIKO〉の「ドットマトリックス」。別タイプをApple創業者のスティーブ・ジョブズが着用しているポートレートも残されている。デジタルウォッチでありながら、造形がスタイリッシュで高級感もあるため、スーツにも合わせやすい。
写真中 1987年に発売された〈SEIKO〉「CREDOR ENTRATA(エントラータ)」。ヨルグ・イゼック(Jörg Hysek)によるデザイン。中世ヨーロッパの文化に、日本的な繊細な美意識を融合したシリーズ。時計本体とブレスレットをひとつの造形としてまとめたような、彫刻的なケースと一体型ブレスレットが特徴。
写真右 〈GRAND SEIKO〉のヴィンテージ・ クォーツ腕時計95GS。近年マーケットプライスが高騰しているが、クォーツモデルなら比較的入手しやすいとのこと。

ドナルド:高級時計を通過したうえで、また「G-SHOCK」に戻ってくるのが面白いですね。

POGGY:2010年頃からスーツやジャケットを着る機会が増えたんですけど、普通に着るだけだと面白くない。だからスーツに「G-SHOCK」を合わせたりしていました。ちゃんとした格好をしているけど、手元を見ると「なんでその時計なの?」っていう。そのくらいの外しが好きなんです。

ドナルド:この「G-SHOCK」、チェーンがすごいですよね。

POGGY:ロンドンのポートベローで買ったヴィンテージのシルバーチェーンを付けています。トム・サックスが「G-SHOCK」にチェーンを付けた作品を作っていて、そこからインスピレーションを受けました。海外の人にもすごく反応されます。「なんでG-SHOCKにこれ付けてるの?」って。それだけで会話が始まるんですよ。

ドナルド:時計をステータスとしてではなく、コミュニケーションツールとして使っている感じがありますね。

写真左 スーツに“ハズし”を加えるためのアイテム。ロンドンのポートベローで購入したホールマーク入りのヴィンテージチェーンに、あえて「G-SHOCK」のド定番DW-5600をドッキングしたポギー氏オリジナルカスタム。
写真右 ヤフオクで購入した〈CASIO〉「G-SHOCK」DW-6300初代FROGMAN。樹脂ベゼルが経年劣化し、金属ケースが剥き出しになっている状態がお気に入り。

POGGY:そうですね。高級時計も好きですけど、吉野家も好き、みたいな(笑)。どっちかじゃなくて、両方楽しみたい。時計も同じで、〈カルティエ〉も好きだけど、古い〈CASIO〉も好き。それを服に合わせてどう使うかの方が、自分には重要なのかもしれません。

ドナルド:デザイナーから時計に入っていくこともありますよね。

POGGY:25歳くらいから「ホンダ・シティ カブリオレ」に乗っていて、そこから〈ピニンファリーナ〉や〈ジウジアーロ〉みたいなデザイナーを調べるようになったんです。それで「時計にもプロダクトデザイナーがいるんだ」と気付いて。ジェラルド・ジェンタがデザインした時計を調べたり、「クレドール」を探したり。ブランド名だけじゃなくて、「誰がデザインしたんだろう?」という見方をするようになりました。

ドナルド:それってGEEK WATCHを楽しむうえでも、かなり大事な視点ですよね。

POGGY:そう思います。最近のストリート系の時計も面白いけど、自分の年齢だと、そのまま取り入れるとちょっとやりすぎに感じることもある。だから、ちょっと古いデジタルだったり、一見普通だけどよく見ると変だったり、そのギリギリの感じが好きなんですよね。

ドナルド:今日持ってきてもらった時計も、価格ではなく全部に理由がありますね。

POGGY:高校生の頃に「データバンク」をしていた記憶につながったものを今の服に合わせるのが楽しいんです。

写真上 1980年に発売された、〈CASIO〉初の“CALCULATORスタイル”腕時計C-80。アイルトン・セナがF1世界王者になる以前、1981年前後のフォーミュラ・フォード時代の写真には、セナがC-80を腕に着けている姿が確認されている。
写真左下 ファミリーマートの「コンビニエンスウェア」から登場した、シチズン時計との共同開発モデル。10気圧防水を備え、水泳時にも着用可能。デザイン性と実用性を兼ね備えた腕時計。
写真右下 スーパーマニアックな〈SANYO〉のヴィンテージ腕時計。電卓機能を備えたモデル。

ドナルド:海外の人と接する機会が多かったことも、日本の時計の見方にも影響受けましたか?

POGGY:すごくあります。海外のデザイナーや友人を日本で案内すると、彼らにとって日本って天国みたいなんですよ。服も時計も車も、すごくマニアックで状態のいいものが普通にある。日本に住んで、日本車に乗って、日本食を食べて、日本の時計を楽しんでいる外国人を見ていて、「なんで自分は日本をこんなに楽しめていなかったんだろう?」って思ったんです。それから日本のものを改めて見るようになりました。

ドナルド:海外の人の目を通して、日本の面白さを再発見したんですね。海外の視点で見ると、日本の〈CASIO〉や〈SEIKO〉が違って見えますもんね。

POGGY:そうだと思います。ファミリーマートの時計とかもそう。海外の人に見せるとものすごく羨ましがられるんですよ。

ドナルド:日本人にとってはコンビニの商品だけど、外から見ると「こんなものまで作ってるの?」ってなる。

POGGY:前に海外の人が書いた「生きがい」についての本の話を聞いたことがあるんです。例えば、すごく人気のラーメン屋があったら、海外の人は「店舗を増やせばもっと儲かるのに」と考える。でも店主は「いや、俺はこれでいい」と言う。

ドナルド:GEEK WATCHにも、それに近いところがあるかもしれない。

POGGY:そうなんですよ。儲かるとか、資産価値が上がるとかとは別のところで、本人がひたすら好きでやっている。

ドナルド:コレクターさんともよく話すんですけど、「なんで我々は資産価値のある時計を売って、そのお金で資産価値のない時計を買ってるんだろう」って(笑)。

POGGY:本当に意味が分からないですよね(笑)。

ドナルド:昆虫採集に近いのかもしれないですね。自分なりの体系があって、「この流れなら次はこれが欲しい」っていう。その価値は自分の中にしかない。売るためでもないし、値上がりしてほしいわけでもない。

POGGY:そう。自分の中で盛り上がっていること自体が楽しいんですよ。

ドナルド:僕はGEEK WATCHって、日本人がかなりリードしてきた文化だと思ってるんです。〈CASIO〉も〈SEIKO〉もあるし、昔から変な時計を真面目に作ってきた。なのに、まだ海外には十分知られていない。

POGGY:日本の車と同じかもしれないですね。昔の日本車が今こんなに世界で評価されるなんて、当時は誰も思ってなかった。

ドナルド:そうなんですよ。僕らが若い頃に普通に見ていた車が、今は海外で価値を認められて、もう簡単には買えない。それと同じことが、昔の日本の時計にも起きるかもしれない。

POGGY:可能性はかなり高いですよね。

ドナルド:だから高くなって買えなくなる前に日本人にも「日本の時計ってこういう魅力や選び方もあるんだ」と気づいてもらいたですよね。

POGGY:高い時計じゃなくてもいいし、今普通に売っているものでもいい。でも少し自分の視点で選ぶだけで、その人らしいものになる。

ドナルド:結局そこですよね。値段じゃなくて、「なんでそれを選んだの?」って聞きたくなる時計。

POGGY:そういう時計をしている人のほうが、僕は気になりますね。

ドナルド:やっぱりPOGGYさん、かなりGEEK WATCH病ですよ(笑)。

POGGY:もう感染してますね(笑)。

名作を知っているからこそ、名もなき一本を面白がれる。高級時計の隣に古い「G-SHOCK」を並べてもいいし、スーツの袖からデータバンクが覗いていてもいい。結局のところ時計を選ぶのに、正解なんてない。

御意見無用。自分だけの理由で選んだ一本こそ、一生付き合っていける馴染みの相棒になるに違いない。
VIVA! GEEK.

ゲストプロフィール

目指せGEEK WATCH図鑑!!! Vol.55

小木基史(POGGY)

ファッションキュレーター。1997年に〈UNITED ARROWS〉に入社。販売スタッフ・PRを経て、2006年に『Liquor,Woman&Tears』をオープン。2010年からは『UNITED ARROWS&SONS』を立ち上げ、ディレクター・バイヤーを務め、2018年独立。2025年にRIZZOLI社から自身のスタイルブック『POGGY STYLE: Dressing for Work and Play』を世界で発売した。POGGYと呼ばれ、クラシックとストリートファッションをミックスし、帽子に髭、そしてジャケットスタイルが特徴的なファッションアイコンの一人。

プロフィール

目指せGEEK WATCH図鑑!!! Vol.55

久山宗成 a.k.a. Donald

くやま・むねあき | 改造活動家、企画編集者、GEEK WATCH偏愛家。ワタリウム美術館のミュージアムショップ地下中二階にて、2014年より改造見世物小屋『+R.I.P. STORE』を営む。様々なマテリアルや手法を組み合わせてジュエリー、腕時計、プロダクト、舞台美術などを制作している。趣味的に始めてどハマりしたGEEK WATCHのコレクションは今や700本以上。現在『GEEK WATCH PEDIA』なる本を編集中。

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