カルチャー
園田努は『急に具合が悪くなる』の描く偶然に人生の本質を目撃した。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.28
2026年7月10日
illustration: Dean Aizawa
text: Keisuke Kagiwada
edit: Togo Uchida
毎週、1人のゲストがオリジナリティ溢れる視点を通して、好きな映画について語り明かす連載企画「今日はこんな映画を観ようかな。」。今回はmaya ongakuの園田努さんが、絶賛公開中の話題作『急に具合が悪くなる』を紹介してくれた。
今日の映画
『急に具合が悪くなる』
(濱口竜介監督、2026年)
© 2026 Cinéfrance Studios – Arte France Cinéma – Office Shirous – Bitters End – Heimatfilm – Tarantula – Gapbusters – Same Player – Soudain JPN Partners
配給:ビターズ・エンド
大ヒット上映中!
介護施設でディレクターをしているフランス人マリー=ルーと、演劇公演のために来仏した日本人演出家の真理。パリで出会った2人はたちまち意気投合するが、真理は末期がんを患っていた……。
映画にとって、偶然っていうのは筋書きを進めるためにあると思うんですよ。だけど、『急に具合が悪くなる』の場合、偶然を描くために筋書きがある感じがして、そこがすごく面白かったです。
実際、この映画ではたくさんの偶然が発生するんですよ。主人公の2人、介護施設で働くマリー=ルーと演出家の真理が出会うパリのシーンからしてそう。マリー=ルーが路面電車に乗っていると、偶然ある青年が並走する姿が視界に飛び込んできて、彼を追いかけた先で末期がん患者でもある真理と知り合う。それ以外にも、やがてマリー=ルーの施設で暮らすことになる真理の部屋に鳥が入ってくるシーンだったり、その施設で行われた演劇が偶然の積み重ねですごいことになるシーンだったり、すべての偶然が感動的で、観ている間は泣きっぱなしでした。
それは「偶然をいかに引き受けるか?」が、僕の今の人生のテーマだからかもしれません。そもそも今の僕が音楽活動をしているのは、偶然の連鎖によるものなんです。友達と遊びで録音したジャム音源をSoundCloudにアップしたら、たまたま今のレーベルが反応してくれて、たちまちヨーロッパツアーが決まったって感じですから。音楽の作り方にしてもそうで、よく偉い人が「アイデアが降りてきた」って表現したりしますが、僕はそういう奇跡みたいな瞬間しか拾わないようにしている。他にも数えきれない偶然を受け入れることで、今の僕があるんです。
だからこそ、主人公の2人の生き様に共感して、泣いてしまったんじゃないかなですかね。例えば、ガンが悪化した真理は、一旦はマリー=ルーと日本に帰国するんだけど、マリー=ルーに「私がいるから」みたいなことを言われて、一緒にパリに戻ることを決意する。体調を考えれば、腰は重かったでしょう。だけど、一度は断りながらも最終的に真理は、その提案に乗るんです。偶然の連鎖を奇跡だと信じた末に真理が受け入れた選択、目の前に現れたチャンスにリスクを承知で乗っかる姿勢には、人生の本質的な何かが描かれている気がします。そして、そこにこそが、幸福の土台だと僕は思っているんです。
こういう話って友達からは失笑されがちなんですけど、少なくとも濱口監督は人生をそうやって見ていると僕は確信しました。だから、まだお会いしたことはないし、これからも会う機会があるかはわかりませんが、濱口監督は「同じ人種だ!」と感じるし、『急に具合が悪くなる』はこれから何度も立ち返るだろう生涯のベストになりましたね。
語ってくれた人
園田努
そのだ・つとむ|1997年、神奈川県生まれ。スリーピースバンドのmaya ongakuでギタリスト、ヴォーカル、作詞家を担当。2ndアルバム『Nothing Space Music』を2026年8月7日に配信リリース、8月12日にCDリリース。
Instagram
https://www.instagram.com/sonodatsutomu/
関連記事
カルチャー
金子由里奈は『バード ここから羽ばたく』を観て鳥との向き合い方を改めた。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.27
2026年7月4日
カルチャー
山本恵里伽は『わたしはロランス』にカルチャーショックを受けた。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.26
2026年6月27日
カルチャー
マユリカ阪本は『WOOD JOB!〜神去なあなあ日常〜』の主人公に自分を重ね合わせた。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.25
2026年6月20日
カルチャー
櫻井健人は『四月物語』に役者として大事なことを学んだ。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.24
2026年6月13日
カルチャー
朝井リョウは『災 劇場版』の死体の描かれ方に感動した。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.23
2026年6月5日
カルチャー
石若駿は『スター・ウォーズ /ジェダイの帰還 (エピソード6)』にジャズを感じた。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.22
2026年5月28日
カルチャー
黒川想矢は『リリイ・シュシュのすべて』の学校の描かれ方にドキドキした。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.21
2026年5月22日
カルチャー
駕籠真太郎は『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』からシニカルな笑いを学んだ。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.20
2026年5月9日
カルチャー
佐藤健寿は『地獄の黙示録』に人間の普遍的な狂気を感じた。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.19
2026年4月29日
カルチャー
大槻ケンヂは『イエスタデイ』を観て「パクられた(笑)、?」と思った。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.18
2026年4月23日
カルチャー
伊藤万理華は『aftersun/アフターサン』に、自分の記憶を重ね合わせた。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.17
2026年4月15日
カルチャー
JUBEEは『フォレスト・ガンプ/一期一会』でアーティストとしてのあるべき姿を学んだ。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.16
2026年4月11日
カルチャー
ピーター・バラカンは『お熱いのがお好き』のとにかく洒落た会話を楽しんだ。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.15
2026年4月2日
カルチャー
永野は『稲村ジェーン』の主人公にかつての自分を重ね合わせた。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.14
2026年3月30日
カルチャー
cero高城晶平は、『フルートベール駅で』の何でもないシーンを、今もときどき思い出す。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.13
2026年3月18日
カルチャー
坂本湾は『WE ARE LITTLE ZOMBIES』の子供たちにニヒリズムと戦う姿を見た。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.12
2026年3月12日
カルチャー
宇和川輝は『耳をすませば』に触発されてハーモニカを始めた。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.11
2026年3月4日
カルチャー
櫻井万里明は、『ハッシュ!』を観て作家としてのマンネリを脱した。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.10
2026年2月25日
カルチャー
寺尾紗穂は『少年』を観て戦後日本に残る戦争の爪痕に思いを馳せた。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.9
2026年2月18日
カルチャー
ドンデコルテ渡辺は、『ノロイ』で恐怖演出の真骨頂を味わった。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.8
2026年2月11日
カルチャー
シム・ウンギョンは『プレイタイム』で魔法のような映画体験をした。
今日はこんな映画を観ようかな。vol.7
2026年2月4日
カルチャー
芸人の鳥居みゆきが、「自分が自分じゃないかも」って疑いたくなるときに観る映画。
今日はこんな映画を観ようかな。Vol.6
2023年10月31日
カルチャー
精神科医の斎藤環が、もう一度観たい未ソフト化映画。
今日はこんな映画を観ようかな。Vol.5
2023年7月27日
カルチャー
劇団・東葛スポーツを主宰する金山寿甲が、高騰するヴィンテージTシャツを見て懐かしんだ90年代映画。
今日はこんな映画を観ようかな。Vol.4
2023年6月28日
カルチャー
映像作家の倉知朋之介が、キメ顔や大袈裟な仕草に影響を受けた映画。
今日はこんな映画を観ようかな。Vol.3
2023年5月28日
カルチャー
小説家の小川哲が、映像ならではの表現に感動したSF映画。
今日はこんな映画を観ようかな。Vol.2
2023年4月27日
カルチャー
女優の長澤まさみが「こんなシーンを演じてみたいなぁ」と思った映画。
今日はこんな映画を観ようかな。Vol.1
2023年3月31日
ピックアップ
PROMOTION
車体のカスタムパーツをオリジナルで作るメーカー・ダムド。その道を極めんとしつつ、フェスも音楽レーベルもやってるの!?
DAMD
2026年6月9日
PROMOTION
カナダグースがなんだか変わったみたいだ。
Canada Goose
2026年6月11日
PROMOTION
日常に溶け込む、5・5グラムの北欧デザイン。
LINDBERG
2026年6月9日
PROMOTION
これまでの20年とこれからのこと。
BEAUTY&YOUTH
2026年6月18日
PROMOTION
襟のついた服を着るカジュアル。
BEAUTY&YOUTH
2026年6月18日
PROMOTION
3EYEとボートに乗る日。
Timberland
2026年6月9日
PROMOTION
無地もボーダーも心地いい。〈無印良品〉のTシャツでこの夏も。
無印良品
2026年6月12日
PROMOTION
サマーボーイとグルーミング。
Panasonic
2026年7月9日
PROMOTION
実はこれも別注品。
BEAUTY&YOUTH
2026年6月18日
PROMOTION
〈KENZO〉のはじまりの地で、NIGO®が叶えたワードローブ。
KENZO
2026年7月8日