カルチャー

あにお天湯は『黒猫・白猫』を観て、「人生は素晴らしい」と痛感した。

今日はこんな映画を観ようかな。vol.30

2026年8月8日

illustration: Dean Aizawa
text: Keisuke Kagiwada
edit: Togo Uchida

毎週、1人のゲストがオリジナリティ溢れる視点を通して、好きな映画について語り明かす連載企画「今日はこんな映画を観ようかな。」。今回はグラビアアイドルの傍らアーティストとしても活動するあにお天湯さんが、第55回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した『黒猫・白猫』を紹介してくれた。


今日の映画
『黒猫・白猫』
(エミール・クストリッツァ監督、1998年)

舞台は美しいドナウ川。若者ザーレとイダのラブストーリーを主軸に、3世代が入り乱れ、石油列車ハイジャック事件と花嫁脱走の結婚式を機に、だますかだまされるか、奇想天外の愛と友情の物語が展開する。


 マジックリアリズムってご存知ですか? 完全な異世界じゃなくて、現実世界の話ではあるんだけど、日常の延長線上に不思議なことが存在して、誰もがそれを当たり前のこととして生活している……みたいな世界観の物語ジャンルのことです。私、中学生の頃に『やし酒飲み』という小説を読んで以来、ずっとマジックリアリズムが大好きで、グラビアを撮るときの裏テーマにすることもあるくらいなんですよ。『黒猫・白猫』とは、そういう物語の映画を特集した目黒シネマの「マジックリアリズム映画祭」で出合いました。

 もう最高でしたね。マジックリアリズム系の作品って、日常が死後の世界と繋がっていたり、暗い要素を含むものが多いんですけど、『黒猫・白猫』はパワフルでハッピー。観終わった後とにかく幸せな気持ちになれるんですよ。

 ドナウ川を舞台に、詳しく語り始めたらきりがないくらい次から次へとはちゃめちゃなことが起こり続けるんですが、特に好きなのは、主人公の息子ザーレが音楽隊を引き連れて入院中のおじいちゃんを訪ねて、音楽をかき鳴らすシーン。寝ていたおじいちゃんが「音楽だ」って目を覚まして、そのまま退院しちゃうんですよ(笑)。そして音楽が鳴り響く中、ボートの上で手を広げたおじいちゃんは、「人生は素晴らしい」と叫ぶ。めちゃくちゃなんだけど、こんなことが起きたら最高だなと思いました。

 この映画は、そういう瞬間の連続なんです。例えば、ザーレはダメな父親のせいで好きじゃない女の子と結婚させられそうになるんですが、その彼女も「自分の運命の人としか結ばれたくない」っていう強い意志があって、結婚式の会場からドラム缶に入って抜け出し、なぜか木の幹に変装して逃走しているときに、無事に運命の人と出会ってしまう。諦めずに前向きに突き進めば、こういうことが起こるんだ。クストリッツァ監督に「こんな物語を作ってくれてありがとう」って感謝したくなります。

 登場人物は数え切れないほどたくさんいるんですが、みんな悪い人ではなくて、愛がある。『黒猫・白猫』は、誰かを憎んでしまいそうになるときに観れば、きっとピュアな気持ちを取り戻せる作品だと思います。

語ってくれた人

あにお天湯は『黒猫・白猫』を観て、「人生は素晴らしい」と痛感した。

あにお天湯

あにお・たゆ|2000年、岐阜県生まれ。グラビアアイドル。高校3年時に講談社主催の『ミスiD』に応募し『2019サバイバル賞』を受賞。主な写真集に『月刊 あにお天湯』。また、アーティストとしても活動しており、2026年には「ビームス カルチャート 高輪」でエキシビション『エンジェル・コミュニケィション』を開催した。

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