カルチャー

サヌキナオヤは『パンチドランク・ラブ』の”映画としてのかわいいパッケージ”を愛している。

今日はこんな映画を観ようかな。vol.32

2026年8月23日

illustration: Dean Aizawa
text: Keisuke Kagiwada
edit: Togo Uchida

毎週、1人のゲストがオリジナリティ溢れる視点を通して、好きな映画について語り明かす連載企画「今日はこんな映画を観ようかな。」。今回はイラストレーターのサヌキナオヤさんが、ポール・トーマス・アンダーソン監督による異色のロマンチック・コメディ『パンチドランク・ラブ』を紹介してくれた。


今日の映画
『パンチドランク・ラブ』
(ポール・トーマス・アンダーソン監督、2002年)

口うるさい7人の姉がいる。といういささか珍しい家庭環境で育ったこともあってか、事あるごとに情緒不安定になってしまうバリーは、ロサンゼルス郊外で小さなビジネスを営む孤独な男だ。姉の同僚リナに惹かれる一方で、何気なくテレフォンセックスのサービスを利用したバリーは、思わぬトラブルに巻き込まれていく。


ポール・トーマス・アンダーソン監督の『パンチドランク・ラブ』は、公開時に観て衝撃を受けて以来、何度も観直している偏愛映画です。トイレの”すっぽん”を販売する主人公バリーは、すぐキレて家中の窓を叩き割る一方、航空会社のマイルがもらえる懸賞付きプリンを買い占めたりするズレた男なんですよ。そんな彼が運命の女性に出会うという物語なんですが、なんで僕が『パンチドランク・ラブ』を愛しているかというと、とにかく映画としてのパッケージがかわいいから。

この映画では、現代美術家ジェレミー・ブレイクによる色彩がゆらめくような映像を取り入れているんですね。それはたぶん、レンズフレアを過剰に多用した本編映像に影響を与えているんですが、登場人物の溢れ出す感情を表現しているかのようなそのフレアがかわいくて、全シークエンスが「たまらん!」って感じなんです。

だけど、機会があるたびに愛を語ってきたこの映画を、今回また紹介しようと思ったのは、”ポパイ”ともゆかりがあるから。中盤、とある事情でブチギレて社内で大暴れしたバリーが、ハーモニウムという楽器にうなだれるシーンがあるんですね。その際、バリーの拳の傷が”LOVE”になっているところもかわいいんですが、次の瞬間に流れる「He Needs Me」は、ロバート・アルトマンが監督した実写版『ポパイ』で、オリーブ役のシェリー・デュバルが歌う劇中歌なんです。

ちなみに去年、LAに行った際、さらに『パンチドランク・ラブ』を好きになる機会が訪れました。タランティーノが運営する映画館「ニュービバリー・シネマ」で観ることができたんです。しかも、本編前には『ポパイ』のアニメーションが上映されるというおまけ付きで。さらにその夜には、ポール・トーマス・アンダーソン監督の最新作『ワン・バトル・アフター・アナザー』も「ビスタ・シアター」で観ることもできました。そこはビスタビジョンで撮影されたこの映画を、フィルムで上映した世界でも数少ない映画館。大好きな監督の最新作を、最高の環境で鑑賞できた経験は、忘れられません。ひとつだけ残念だったのは、そのLA滞在中、『パンチドランク・ラブ』の音楽を手がけたジョン・ブライオンのライブが、近くのベニューであったのに、気づいたときは遅くてチケットが取れなかったこと。あれも観れていたら、完璧だったのですが(笑)。

語ってくれた人

サヌキナオヤは『パンチドランク・ラブ』の”映画としてのかわいいパッケージ”を愛している。

サヌキナオヤ

京都府出身在住のイラストレーター。パレットクラブ講師。アメリカのオルタナティヴ・コミックの影響を背景に、優しさと寂しさに宿るユーモアを表現するイラストを得意としている。ポール・オースター、チャールズ・ブコウスキーなど小説の装丁や、雑誌『POPEYE』『CASA Brutus』の表紙を手がけるほか、バンド「Homecomings」のアートワークを長年手がけている。みじカルコレクションよりフィギュア「READERS」が販売中。

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