ライフスタイル

私のいえは、東京 山のうえ Vol.26

社本真里の隔週日記: 森を育てる仕事

2023年2月17日

photo & text: Mari Shamoto
edit: Masaru Tatsuki

 やっと、しっかり雪が降った。私の小屋付近で大体20㎝くらい。雪の山の景色が一番好きなので、今年は全然降らず待ち遠しくしていたので嬉しい。冬の山の木々たちは、緑色がだんだんとくすみがかってくる。お彼岸を過ぎた9月末頃から少しずつ水を吸い上げなくなるからだ。

雪の日の朝。山の木々が雪に覆われた景色にうっとりする。

 この時期、林業の現場では3月頃までを「伐期」といって、木を伐る(きる)シーズンになる。林業は〝森を育てる〟仕事で、1年を通して様々な手入れをしながら、森を維持している。檜原村は全国の林業産地に比べると古い歴史があるわけではないが、村の面積の約93%が山林であることもあり、炭焼きや薪の生産など、山を中心とした生業があった。生活も食事の煮炊きやお風呂、日々の道具や日用品においても木が使われ、山と人の暮らしはとても近いものだったけれど、戦後の電気やガスの普及・様々な素材や技術の発展で、人の暮らしと山は少しずつ関係性を薄れていったと聞く。

 森の約60%は、戦後復興でお金になるからと聞いて、次の世代の為に家族総出で植林したものだ。そんな木々が60~70年経ち、建築や造作に使える大きさになったのだけど、外国から様々な木材が輸入可能になった今、木材市場で取引される丸太の価格は70年生きた直径30㎝、4mでおおよそ2500円の価値にしかならない。そこに補助金という形で国から補助をいただきながら成り立っているのが、今の林業だ。

 山主にとってもお金にならないし、仕事を求めて若者は街へ出てしまうし、林業従事者は高齢化が進む、などなど、話し始めたら止まらないくらい、課題ばかりの産業だという背景がある。

 そんな中で私の会社では、山の価値をどうやって高めるのか、補助金に頼らなくても続けていけるかを考えている。市場に丸太を出すだけじゃなくて、山の手入れの中から出てきた木々たちを直接お客さんへ販売したり、家具や日用品を作ったり、街でワークショップを開催したり、山に人を呼ぶイベントを企画したり…。仕事を続ける中で従来の林業に捉われない自由な発想を用いる社風に面白さを感じている。

東京唯一の木材市場の写真。東京にも山があることを再認識する。

プロフィール

社本真里

しゃもと・まり | 1990年代生まれ、愛知県出身。土木業を営む両親・祖父母のもとに生まれる。名古屋芸術大学卒業後、都内の木造の注文住宅を中心とした設計事務所に勤め、たまたま檜原村の案件担当になったことがきっかけで、翌年に移住。2018年に、山の上に小さな木の家を建てて住んでいる。現在は村内の林業会社に勤め、山の素材の販売や街と森をつなぐきっかけづくりに奮闘している。