寒くなると柚子が黄色く色づく。集落には柚子畑があって、とても急な斜面に柚子の木が200本程植わっている。でも今はほとんど手がつけられないので、ツルが絡んでいたり、背が高くなり過ぎて手入れが届かない木ばかりだ。50〜60年ほど前に2人の住人が共同で、地域のひとつの生業(財産)にしようと植えたものらしい。南斜面に面していることから日当たりが良く、柚子を育てることに適切な場所だと考えたそうだ。

たくさん収穫した柚子を、どうやって使いきるのかはじめは全く想像もつかなかった。ヨシコさんの家では、まず皮を使って鍋いっぱいのジャムを作る。皮はジャムだけでは使いきれないので、砂糖でコーティングしたお菓子にも。バレンタインの時にはそれにチョコレートが付く。
ジローさんの畑で採れた白菜のお鍋を食べるときには4つ切りにした柚子がお椀にたんまりのって出てくる。贅沢にたくさんの果汁を絞っていただく。少し状態の悪いものや、使いきれない柚子は毎日のお風呂に入れて香りを楽しむ。近くのおばあちゃんは、タネをアルコールにつけて、化粧水に使っている。タネのまわりのヌルヌルに保湿効果があるらしいが私は肌がピリピリして使えなかった。

一番驚いたのは、ヨシコさんは中のワタの部分を天然酵母のタネにする。柚子は酵母との相性がいいらしく、ヨシコパンのスタンダードは柚子酵母である。

桃栗三年柿八年というけど、柚子は18年と聞いた。気を長く収穫を待ち望んだ柚子は、当時の思いとは少し違った使い方ではあるけど、生活の中にとても自然に馴染んでいる。
今年もヨシコさんの柚子ジャムとパンが楽しみだ。
プロフィール
社本真里
しゃもと・まり | 1990年代生まれ、愛知県出身。土木業を営む両親・祖父母のもとに生まれる。名古屋芸術大学卒業後、都内の木造の注文住宅を中心とした設計事務所に勤め、たまたま檜原村の案件担当になったことがきっかけで、翌年に移住。2018年に、山の上に小さな木の家を建てて住んでいる。現在は村内の林業会社に勤め、山の素材の販売や街と森をつなぐきっかけづくりに奮闘している。