私のいえは、東京 山のうえ Vol.9
社本真里の隔週日記: もったいねえ
2022.05.21(Sat)
photo & text: Mari Shamoto
edit: Masaru Tatsuki
2年程前まで、チイちゃんとみんなから呼ばれるおばあちゃんがいた。チイちゃんは茶色いキラキラとした瞳が印象的で、いつもカゴを背負って、杖をつきながら地域中を歩いていた。私に用事があるときは、小屋の階段を杖でトントンと叩いて呼んでくれる。

買い物に出る足がないので、インスタントラーメンを買ってきてほしいと言って、空の袋を渡してくれるのがいつもの用だった。チイちゃんと道端で会うとまずもったいねえぞ、と話をしてくれる。チイちゃんがもったいないと言っているのは、山に自生するフキやタケノコ、ミツバ。秋になると茗荷とか。食べられる食材が山にいっぱいあるから、とらなきゃもったいないぞとゆう意味だ。もったいねぇから食え~と言っていつもフキやタケノコをカゴいっぱいにのせて家に帰り、下ごしらえをしたものをおすそ分けしてくれる。


時には味付けまでしたものを持ってきてくれるのだが、びっくりするくらい甘い。戦争のとき、砂糖がとても貴重だったから、砂糖をうんと入れることが一つのおもてなしなんだとヨシコさんから教わった。山のものがたくさん採れるこの時期になるとチイちゃんのことを思い出す。

細いこの小道は、山の奥にある家につながっていて、郵便配達のバイクが通れる幅になっている。
社本真里
しゃもと・まり | 1990年代生まれ、愛知県出身。土木業を営む両親・祖父母のもとに生まれる。名古屋芸術大学卒業後、都内の木造の注文住宅を中心とした設計事務所に勤め、たまたま檜原村の案件担当になったことがきっかけで、翌年に移住。2018年に、山の上に小さな木の家を建てて住んでいる。現在は村内の林業会社に勤め、山の素材の販売や街と森をつなぐきっかけづくりに奮闘している。