2年程前まで、チイちゃんとみんなから呼ばれるおばあちゃんがいた。チイちゃんは茶色いキラキラとした瞳が印象的で、いつもカゴを背負って、杖をつきながら地域中を歩いていた。私に用事があるときは、小屋の階段を杖でトントンと叩いて呼んでくれる。

買い物に出る足がないので、インスタントラーメンを買ってきてほしいと言って、空の袋を渡してくれるのがいつもの用だった。チイちゃんと道端で会うとまずもったいねえぞ、と話をしてくれる。チイちゃんがもったいないと言っているのは、山に自生するフキやタケノコ、ミツバ。秋になると茗荷とか。食べられる食材が山にいっぱいあるから、とらなきゃもったいないぞとゆう意味だ。もったいねぇから食え~と言っていつもフキやタケノコをカゴいっぱいにのせて家に帰り、下ごしらえをしたものをおすそ分けしてくれる。


時には味付けまでしたものを持ってきてくれるのだが、びっくりするくらい甘い。戦争のとき、砂糖がとても貴重だったから、砂糖をうんと入れることが一つのおもてなしなんだとヨシコさんから教わった。山のものがたくさん採れるこの時期になるとチイちゃんのことを思い出す。

細いこの小道は、山の奥にある家につながっていて、郵便配達のバイクが通れる幅になっている。