TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】ドライブオンザ登坂車線

執筆:松本アタル(ハシリコミーズ)

2026年8月11日

text & illustration: Ataru Matsumoto
edit: Nozomi Hasegawa

まさか自分が車を買うなんて思ってもいなかった。実際に買った日の3週間前まで考えてもいなかった。
幸せは目に見えて成長すると映画で見たけれど、何かに隠れて突然姿を現してくる幸せもいるらしい。意地悪な顔したメタリックな車に追い越されながら、登坂車線を走って1999年式の日産バネットは僕らの元にやってきた。

すべては僕が取材させていただいたPOPEYEのファーストカー探しの企画から始まった。POPEYEが用意したお店の中に『ガッティーナ』という藤沢のお店があり、ここの店主の酒井さんという方が車購入のすべてをサポートしてくれた。僕は話さなくても、目だけでその人がどんな人かわかる特技を持っているが、取材当日、『ガッティーナ』の入り口から僕を見る酒井さんの“目”は、僕が大好きだった小学校の頃の美術の先生を思い出させた。当時ウルトラセブンに恋をしていた僕は、デッサンから素描からすべての絵にまったく関係のないウルトラセブンを登場させ続けた。みんながセブンの登場に冷ややかな態度の中、その先生だけはセブンのディティールを褒めてくれた。まだ入り口の扉を引いただけなのに、すごく素敵な1日になると思った。

そのままお店に入るや否や、先日行ったという旧車の展示で撮影した可愛い車の写真を1枚ずつ魅力と共に説明してくれた。あまりの愛の深さに少し時間を気にしているPOPEYEスタッフと、次々登場する可愛い旧車を交互に見ていると、どっちがPOPEYEスタッフでどっちが可愛い旧車かわからなくなってきた。

帰り際、酒井さんは僕に「君には色々なことがあると思うけど気にせず頑張って」と言ってくれた。その言葉にたくさんの意味が舞う中で、一つのハートフルな意味を見出したとき、頭の中でウォーク・オン・ザ・ワイルド・サイドが流れ始めて、なるほど僕はすぐ車を買うことになるだろうと確信した。

後日、実際に車探しの相談をしに『ガッティーナ』へ行くと、同じPOPEYEの取材でご一緒させていただいたスチャダラパーのBoseさんもお店にいらっしゃった。この時点でなにか特別な引力が働いていることに気づいたけれど、その話を書きだすと僕が佐野元春の「フルーツ」をバネットで初めて聴いたときの思い出を書けなくなるので、単なる偶然として飲み込ませていただく。本当に光栄なことに、二人がかりで僕の車を探してくれて、ついに見つけたのが1999年式初期顔の日産バネットだった。

この原稿を書いている今はこの日から数ヶ月が経っていて、僕はすでにバネットと共に8000キロも移動している。バネットが来てくれたことで数ヶ月前には想像もできなかったような素晴らしい思い出をたくさん経験した。それは同時に、日々がサプライズの連続である事を再認識させてくれて、僕の幸せのボリュームを前よりも少しあげてくれた。このコラムでその思い出を書き出していこうと思う。

「泣き出すドラマー、青が好きすぎるベース、スライにはなれない僕、涙のブルーベリーワイン探しの旅 in 山梨篇」へつづく。

プロフィール

松本アタル

まつもと・あたる|2001年、東京都生まれ。’19年よりバンド「ハシリコミーズ」として活動。楽曲制作からアートワークのディレクションまで、セルフプロデュースで行なっている。8月9日より全国5か所を巡るツアー「Is it Music? Tour」を開催。

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Official Website
https://www.hasirikomis.com