カルチャー
2026年という時代の象徴として観たい3作。
9月はこんな映画を観ようかな。
2026年9月1日
text: Keisuke Kagiwada
『ワンオペレーション』
メアリー・ブロンスタイン(監)
中年女性のリンダには、原因不明の病を抱える一人娘がいる。しかし、長期出張中の夫を頼ることはできない。どころか、たまに電話がかかってきたかと思えば、彼女の不手際を難じるばかりだ。そんな八方塞がり状態に追い打ちをかけるかのごとく、自宅マンションの天井が水没し、娘と近所のモーテルに避難することに。セラピーに活路を見出そうとする彼女自身もまたセラピストが生業なんだから、皮肉だ。観客がストレスを覚えるほどの不幸の波状攻撃っぷりは、ダウナー版『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』と呼びたくなる。実際、ジョシュ・サフディは本作のプロデューサーに名を連ねているではないか。とすれば、部屋の2階の水没や、名物司会者やラッパーを役者として起用するキャスティングなど(本作ではコナン・オブライエンやエイサップ・ロッキーが登場)、『マーティ・シュプリーム』と似ている点が多いのは必然かもしれない。9月18日より公開。
『オデュッセイア』
クリストファー・ノーラン(監)
原作は古代ギリシャの吟遊詩人ホメロスの同名叙事詩だ。「トロイの木馬」作戦によってトロイア戦争に勝利したオデュッセウスたちが、妻と息子が待つ故郷イタケへの帰還を目指す10年に及ぶ果てしない旅路を、監督のノーランは見事に自分色に染め替えている。実際、これまでのノーラン作品との共通点はすこぶる多い。ネタバレになるので詳述は控えるが、「帰還」というテーマは『インターステラー』を想起させ、その過程で『メメント』のようにオデュッセウスの「記憶喪失」が問題となる。彼と妻を結びつける『インセプション』のコマのような「小物」の登場も見逃せない。「トロイの木馬」の内部で男たちが窮屈そうに過ごす描写はほとんど『ダンケルク』の水没する船のようだし、そもそも一人の男のしでかしたことが世界をそれ以前と以後に分断してしまうという物語は『オッペンハイマー』だ。その意味で本作は、ノーランの現時点での集大成と言えるかもしれない。9月11日より公開。
『ルックバック』
是枝裕和(監)
藤本タツキによる同名漫画を実写化したのは、『箱の中の羊』の記憶も新しい是枝監督だ。二人の少女、藤野と京本がコンビを組んで漫画家を目指すその原作の物語を、是枝監督はかなり忠実に実写へと昇華させている。ただし、実写ならではのよさももちろん見逃せない。例えば、小学校の卒業式の日に二人が初対面を果たし、京本に「ファンです」と告白された藤野が帰り道に踊るように走る姿を、いつ終わるとも知れない長回しで捉えたシーンの疾走感は、まさに実写ならではの快楽が詰まっている。そんな本作を通して改めて思い知らされたのは、この物語にとって、漫画制作を通して繋がる藤野と京本の親密な時間だけが大切であるということ。それは、藤野の母(野呂佳代)や彼女の小学校時代の担任(宮藤官九郎)の存在感が、だんだんと後景へと消えていく演出によっても強調される。原作もそうなっているとはいえ、「恋する相手」が物語に介入してこないのも、日本の青春映画としては新鮮だ。9月11日より公開。
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